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43 学園祭当日 1日目 6

 1回通すと、もう14時12分になっていた。僕は楽器を片付け、音楽準備室に隠れた。先輩のバンド、Degree Celciusがやってくる。先輩方の練習が始まった。


 先輩方が演奏するのも2曲である。1曲はカバー曲(演奏に自分のバンドの色を加えているので、”コピー曲”ではなく”カバー曲”と表現している)、もう1つは先輩のバンドオリジナルの歌だ。


 「荒野の朝」は、楽器の弾き方まで原曲とあまり変わらないように演奏している。だから難しいと思う人もいるかもしれないが、まだRIVAGEの色が決まってはいないので、少なくとも僕にとってはコピーの方が簡単だという認識だった。


 僕たちは、先輩方の練習を裏で見た。40分後に待ち受ける本番でも、同じように裏から見ることになる。


 「緊張してる? 特に高校からバンド始めたっていうショウに聞きたいんだけど」


 ひかりは小声で僕に聞く。僕は少し、「他のバンドが練習してるのに喋ってもいいのか」とも思ったが、そもそも自分のバンドの練習のとき、先輩は来ていなかったし、少しならいいか、と思った。

 

 「2週間前のライヴで慣れたし、今回それより小規模なんでしょ? 大丈夫だと思ってる」


 なっちとコウも、ぜんぜん緊張してない、慣れてるといっていた。特に、なっちの「慣れている」は、元アイドルなだけあって説得力が全く違う。大人数の前で歌いながら踊った経験が、バンドの発表にも大きく生きているようだった。


 ヘリアンサスの花言葉である「憧れ」「輝く未来」「快活」という言葉は、なっちの性格を表現するにあたって、これ以上的確な言い回しがないほどだ。ヘリアンサスガールズのことを他の人に話すわけにはいかないが、少なくとも自分の中ではそんなイメージだった。


 僕はお茶を一杯飲んで、先輩方の練習を待った。10分ほどで終わった後、最終準備が行われる。設営は先輩が行うことになっている。


 「RIVAGEのみんな、このパンフレット配って、外で宣伝してきてくれない? 準備は俺たちがやるから」


 1個上のバンドのメンバー黒木は僕たちにお願いする。僕たちはわかりました、といって引き受けた。


 パンフレットの片面にはバンドのセットリストが、もう片面にはバンドオリジナル曲の歌詞が書かれている。Twitterでも一応歌詞は載せているのだが、全員が見てくれているとは限らない。仮に見てくれていたとしても、覚えてくれているとは限らない。


 13時40分から入場は可能になるのだが、もう5人くらい並んでいる人がいた。僕は、その5人に歌詞の書かれた紙を配った。


 残念ながら、僕たちが演奏するコピー曲の「荒野の朝」と、先輩方のカバー曲「世界は回る」は、著作権の関係上歌詞を載せることはかなわなかった。ただ、僕たちは有名な曲だからみんな知っているであろうことを期待した。

 

 少しずつ人がやってくる。しかし、このペースだと、(宣伝しておいてはいたのだが)客席(約80席)はいっぱいにはならなさそうだ。


 「俺とひかりは人を集めておくから、なっちとショウは音楽室に戻っていいよ、どうせ準備しなきゃいけないだろうし」


 僕は、音楽室に戻り、最後の準備を始めた。あと15分で始まる。なっちは、裏で楽器の音が出るかを確認しているようだ。僕も、軽く音を確認したが特に問題はなかった。


 「失敗しないようにね、今回もうまくいくといいね」


 なっちは僕を応援してくれた。いつもは毒舌(?)な事ばかりを言うのだが、真面目な相談には真面目に答えてくれたりするので、何だかんだで僕はなっちが好きだった。


 「配り終わったよ!」


 コウとひかりが戻ってきた。あと10分ほど残っていて、2人も最後の準備として舞台裏で準備を行っているようだ。14時ちょうどに出てこられるように、僕は身構えていた。


 緊張していないとは言ったものの、やっぱり直前になると心拍数が上がる。コウとひかりも少し落ち着かないようで、全く動じてないのはなっちだけだった。

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