42 学園祭当日 1日目 5
「ライヴ、自信ある?」
なっちは話題が特になかったのか、当たり障りのない話をする。
「まあちょうど2週間前にやったばかりだし、何とかなるんじゃないかなって思ってるよ」
なっちは頷くが、その後何も話さなかった。空は晴れているが、雲がいくつか浮かんでいる。いくあてもなく流れていく白い雲を眺めながら、僕は1つの雲を指さした。
「あの雲、なんか北海道っぽくない?」
「ごめん、さすがに見えないかな」
僕はひとつの雲の形に注目したが、なっちの賛同は得られなかった。周りの人が騒いでるのを聞き流して、北海道型の雲を2人で何もしゃべらずに見届けていた。
「もう12時じゃん、そろそろ弁当食べなきゃ」
なっちの時計を見ていると、もう正午を回っていることに気が付いた。僕は教室に戻り、なっちと一緒に弁当を食べた。
13時からは練習が行われる。それまで吹奏楽部が使っているとのことで、早めに行って練習するといったことはできない。でもできるだけ多くの時間が使えるように、僕たちは12時50分に音楽室前に待機することに決めていた。
「きみが推してるって言ってるしふぉんは昔吹部やってたんだよ、すぐやめちゃったけど」
実は、僕も高校に入ってから吹奏楽部に入ろうかなと考えていたときもあった。しかし、大変だという話は聞いている。(深くは話さないが)結局自分がその道をあきらめたのは、しふぉんと同じようにすぐやめてしまった、中学時代の田中が原因だった。
僕はいわゆる多趣味人間だ。好奇心はそれなりに強いものの、いわゆる「器用貧乏」と呼ばれてしまうタイプの人間だ。吹奏楽部も興味はあったが、やめてしまうことを恐れて入ることができなかった。大変だとわかる、友達が大変だったとわかることは避けたかったのだ。
趣味でやっていると続くもの・続かないものがある。自分の中でのコンセプトは、色々やってみて自分に合うものを見つけたい、だった。音感・楽器経験はないものの、作曲は割と好きで、大人数よりも小人数でできる、困ったとき山村からアドバイスをもらえるかもしれない、など色々考えた結果、軽音楽部に入るという選択肢が自分の中に浮かんだ。
このことをなっちに話すと、彼女は真剣に聞いてくれた。僕は、どこかに抱えていたもやもやが解けてすっきりした気がした。
「結局、直感を信じるのが一番だよ。きつかったら道を引き返せばいいだけだし」
なっちは笑いながら言う。僕は、それもそうだね、と返事をした。時計を見るともう12時48分だ。僕はトイレを済ませて、2階の音楽室まで急いで向かっていった。
なっちにもうコウとひかりは来ているか聞いてみたが、まだ来ていないようだった。吹奏楽部はもう片付けをしているようだ。僕たちは音楽室前の壁に寄りかかって、吹部が終わるのと2人がくるのを待った。
ほどなくして2人は来た。僕たちが早く来ていただけで、2人が遅れたわけではない。間を開けずに吹奏楽部の片付けが終わり、部員が一斉に音楽室を出ていった。
「やっと開いた!」
全員が去っていったあと、コウは音楽室の中で叫んだ。まだ12時55分なので、「やっと」という言葉は違うんじゃないかと思ったが言えなかった。
本来の練習時間は13時からだ。もう1度楽器をチューニングして、練習を始めていった。1時間後の本番に向けて、1曲目のコピー曲「荒野の朝」と、2曲目のオリジナル曲「始まりの街」の練習を始めていった。もう舞台は設営されているので、本番に向かって練習するだけだ。
15分という時間はあまりにも短い。1回通して練習を行うだけでもう過ぎてしまう時間だ。僕は、それでも何もできないよりはましだと自分に言い聞かせた。
この次の15分で先輩のバンドが練習を行い、1時半からの10分で最終準備、そして2時から披露という流れになる。僕たちは、限られている時間の中で一生懸命に練習を行った。




