41 学園祭当日 1日目4
お客さんは一定の割合で並んでいる。多くもないが、少なすぎもしない。企画の都合上、一度に案内できるのは1グループだけだ。僕は、なっちと一緒に最初のグループを案内した。
まず最初に、来てくれた人に企画のルールの説明を行う。
「順番に、4問のクイズを解いてもらいます。正解できたかどうかで、猫の状態が変わっていきます。猫をマッチョの状態までいいコンディションに持っていってください!」
最低限必要な説明を終えると、僕たちはお客さんを教室内の通路へと案内していった。小学校6年生くらいの女の子2人だ。親は外で待っているらしい。
「まずは1問目です。簡単な問題と難しい問題、どっちがいいですか?」
2人は、話し合った結果、難しいほうを選ぶことにしたようだ。年齢ごとに出すべき問題が決まっている。僕は小学校高学年向けの問題の中から難しめの問題を1問出した。
「1cmおきに等間隔に打たれている点を結んで、面積が5平方cmの正方形を作ってください。制限時間は2分です」
そういって、なっちは点が打たれている紙を渡した。
「え、これ無理じゃない?」
「マス目をはみ出すとかすればいけるね」
そんな話もしていたようだが、中学受験を考えている子だからなのか、1分ほどで答えをひらめいたようで「こうですか?」と見せてきた。
小学生にとっては決して簡単な問題ではないと思う。頭がいい人ならできるのだろうが、自分が小学生のころにこの問題を出されたとしても、2分では解ける気はしない。
彼女らは、紙の点を下のように結んで答えとした。
「正解です!」
なっちがそういうと、2人は嬉しそうにはしゃいでいた。
もともとこの問題を考えたのはなっちだった。もちろん、小学生は三平方の定理は知らないだろう。しかし、この問題の場合、それを知らなくても、真ん中の四角形が面積1、そのまわりの面積1の直角三角形が4つで、合計で面積5になるということは小学生でもわかるようになっている。
この後の3問も難なく正解し、2人は無事に猫をマッチョまで育て上げた。景品はカップ焼きそばのはずだったが、もう前の1時間で完売してしまったため、飴6個にせざるを得なくなっていた。
その後も仕事をつづけ、11時になると次のシフト担当の人が来てくれた。特に何もすることがなかった僕はスタッフルームに隠れて話をした。
「実はあの点をつなぐ問題、小学校のころやった問題なんだよね、中学校受験はしなかったけど」
僕は、なっちに出されて初めて解き方に気が付いたとき少し感動した。何人かに問題を出したが、結局正解したのは、あの1時間では最初の2人だけだった。
「中学受験する人なら、割と解けそうな問題だよね。ひらめき系だし」
僕も中学受験はしなかったが、中学校に入ってからは結構中学入試の問題を見ていた。その中には、今見ても解けないものも多かった。
14時からバンドの披露が音楽室で行われる。13時からの15分間が練習として使えることになっている。僕は、なっちと一緒にその宣伝を行いに廊下に出た。
「今日の2時から、2階の音楽室で、僕たちと先輩がライヴを行います! 時間があればぜひ来てくれると嬉しいです!」
「お前のバンド名のリヴァージュってなんなんだ?」
偶然通りかかった山村が、僕に聞いてきた。知らなくても仕方ないかもしれないが、前に話した覚えがあるので覚えていてほしかった、という思いもあった。
「フランス語で岸って意味だよ」
「あーごめん、意味じゃなくて、なんでリヴァージュって名前にしたのかってこと」
リヴァージュ(Rivage)は、フランス語で岸(英語ではReef)を意味する。これは事実なのだが、彼が聞きたいことは意味ではなく由来だったようだ。
なお、英単語にも発音は違うが、rivage(RIV-ijもしくはRAHY-vijのような発音らしい)という言葉はあるようだ。
バンド名は僕が決めたわけではなく、なっちが適当に言い出したものが語呂が良くて(そして、何となくかっこよくて)万場一致で採用された、という敬意がある。僕は、横にいるなっちに聞いてみた。
「もともとはmirageをもじってつけたんだよね。蜃気楼とか逃げ水?とか儚い夢とかを意味する言葉のね。語呂が変わりすぎない程度に子音をいじったりして、調べてみたら実在する単語だったから、これ結構いいかなってなったの」
なっちの説明に、山村は「なるほど」とうなずく。じゃあね、と言って彼は去っていった。
10分ほど宣伝を行った後、僕たちは水筒をもってあまり人がいないテラスの席に座った。




