2 共通の趣味
僕はその子のラインで、これからよろしく、と挨拶した。その子は既読を付けるのが早く、僕が送った瞬間に「こちらこそよろしく~」とメッセージが届いた。もうアイドルの事について聞いてみようかな、と思ったが、さすがにもうちょっと仲良くなってからでいいか、と思い始めていた。
本人には申し訳ないのだが、アイドルやっていたかもしれない、と思う前はあまりその子の印象は強くなかった。先日DVDを見ていて、名前を見た時に、自分の中での位置づけが「クラスで一番気になる人」という場所になった。
もう12時だ。明日学校がある。高校に入ってから、4日目だ。僕は布団を床に敷いて眠りについた。
朝起きても、クラスの元アイドルの事しか頭の中になかった。高校に入った直後は彼女ができやすいという話を聞いたことがある。何かあればいいな、と僕は何となく頭の中で考えながら朝ご飯を食べた。
僕は、高校まで歩いて行っている。夏場は定期を買ってバスで通学をする予定だが、今は12度とそこまで暑くない。学校までの距離は3km弱だが、山がちな地形のため自転車に乗っていくのは困難だった。
僕は中学校は地元の公立校に通っていた。学年には自分以外に1人だけ僕と同じ中学校の男子、山村誠司がいる。僕は、その男子と一緒に歩いて通学した。
校門を通って教室に入る。まだあの女の子は来ていないようだ。山村の席は、僕の席の2個隣にあって、その間に元アイドル疑惑の女の子が座っている。それまでその子の机に座りながら、山村と僕はちょっとした雑談をした。ここの席の人、アイドルやってたらしいよと言いたかったが、まだ言い出せなかった。色々しゃべっていると、数分後、僕が今座っている席に荷物を置いてその子は言った。
「ごめん、ちょっと机からどいてもらっていい?」
その子はいたって流ちょうに、この辺のアクセントで日本語を発した。四国から来たと言われてもわからないレベルだ。
「あ、ごめん」
僕は、机を降りて、山村の前の席に座って再び話をつづけた。数分後、トイレに行きたいといわれて会話が中断された。その間に、僕はあの女子に、アイドル活動をやっていたか?ということについて聞きたいと思った。しかし、いきなり「あのさ、昔アイドルやってた?」と聞いても不審がられるだけだろう。どう聞こうか、僕はかなり迷っていた。
何か共通の趣味を持っていたら嬉しい。そう思った僕は、彼女に思い切って「ねえ、ラストラベンダーってアニメ知ってる?」と質問した。ラストラベンダーの固有名詞を出した瞬間、彼女はちょっと動揺しているようだった。