番外編6 映画 5
なっちはすぐに「どうだった?」と返事してくれた。僕は、元の歌詞のニュアンスを残しつつも文字数に当てはまるように若干変わっている歌詞が印象的でよかったというコメントを送った。彼女は、気にいったならよかった、と言ってスタンプを送ってくれた。
なっちと出会ってから1年半の月日がたつ。初めて出会ったときはこんな関係になると全く思っていなかった。思い返せば、この1年半の期間は長かったようにも感じるし、あっという間だったようにも感じる。
「もう1年半って早くない?」
自分はなっちにLINEを送る。彼女は、もう半分か、と驚いているようだった。
いつだったか、彼女は「横浜ではアイドルのことは隠して、普通の高校生として生活したかった」的なことを言っていた記憶がある。その夢自体は初日で崩れ去ってしまったといっていたが、実際自分以外の人には彼女が元アイドルだということを知る人はいなさそうだ。少なくとも、自分からは誰にも話さないということは決めている。それは彼女との約束だ。そもそも自分が元アイドルだということを知ったこと自体、ただの偶然に過ぎないと思っている。
「今までありがとう、そして残りあと1年半だけどよろしくね」
そんなことを考えているとなっちからLINEが届いていた。僕は、こちらこそよろしく、というメッセージを送った。
高校生活も、もう折り返し地点を過ぎた。なっちと一緒にいられるのもあと半分だし、3年生は入試に専念する必要があるので遊べるのはもっと短い。なっちは高校卒業後は四国に戻ってまたヘリアンサスガールズとしての活動を再開したいと思っているようなので、その頃になれば別れることになるのは必然だろう。自分はそのことに関してはもう覚悟はできているつもりだ。そうなれば、あとは全力で残りの半分の期間を楽しんでいくしかないだろう。
夏休みもあと2週間で終わる。やりたいと思っていることはいっぱいあるのだが、手を付けるのが面倒だなとか思っているうちに月日が流れて行ってしまっていた。僕は、夏休みの宿題プリントを取り出し、数学の問題に手を付けていった。
なっちは必ず四国の大学に合格したいと思っているようだが、それには「アイドル活動に復帰したい」という明確な目的が存在している。彼女はその目的が見えているから頑張ろうという気になれているのかもしれない。僕はただ情報系の勉強がしたい以上の明確な目標はない。僕が今の志望大学を選んだのも2次試験に国語がないという単純な理由だ。そう考えると、なっちの元アイドルという(おそらく、僕意外知らない)肩書きは伊達ではないと感じている。
できるのであれば、1年半後別れ際に高校生活を振り返ったとき、後悔が無いようにしたい。
僕は、そんなことを考えながら数学の問題を解いていった。