効率よく集めるための
跳ね橋を目指す2人の背後に影が迫る。
「しつこいわねぇっ。
竜火炎嘶!」
振り返りざまにアリシアの放つ魔法が影を撃つ。
突き出す両の手から噴き出す竜の劫火が影の先端を焦がして散った。
「斬ってても感じたけど、まるで手ごたえがないわね」
「結局本体じゃないのよ。
ぶら下がってたあの小娘の身体をぶった切った方が、よっぽど手ごたえがあるかもね」
「やりにくいなぁ」
アリシアの提案にも素直にうなづく気には到底なれない。
「跳ね橋。閉まってるわね」
たどり着いた跳ね橋は上がり、大きく厚い木の板が入り口を塞いでいる。
「今回あたしの魔法は建物には効かないわ」
悔しさを滲ませて、跳ね橋に目をやるアリシアが呟く。
「跳ね橋を上げ下ろしする滑車があるはず。
そこのロープなり鎖を切り落とせばいいんでしょ?」
ロングソードを手にかけるソリスに背を向けて、アリシアは辺りの警戒に当たる。
街灯の中で煌めく光球が、唐突にその光を断った。
吹き付けるような殺気に、2人の視線が真上を仰ぐ。
「うえええぇぇぇぇっ!」
投網のように裾を伸ばした大きな影が、2人を覆うように落ちてきた。
「つまんないわよっ」
アリシアのセリフを一喝して、走らせるソリスの視線はどこへ向かっても影の外へは逃げきれないことを悟る。
「氷柱槍。
GO!」
迫る影に向かい、早口に呪文を唱えたアリシアの周りに出現する10本余りのつららの槍が、影の中心に向かい立ち上る。
薄いベニヤ板を叩くような音に、影を撃ち破ったつららの穴が闇夜の星を垣間見せた。
裂けるように広がる夜空が星の輝きを取り戻す。
その小さな輝きの中に見覚えのある青緑色の服の裾、樫の杖!
「はっ。あの服。」
「あのババァ、やっぱり一枚噛んでたわねっ。
生け捕りにするわよ。
氷結鞭っ!」
パキパキと辺りの空気を凍らせて、振り上げるアリシアの細い指先から氷の帯が立ち登ると、大きく開いた空への裂け目に向かい伸びていく。
裂け目から千切れた影は、本体から離れると途端に宙に霧散した。
残りの影は引き戻されるように空を駆ける。
ちらりとこちらを確認した老女の後を追い流れていった。
アリシアの手から放たれた氷の帯は、老女に届くことなく空中で砕け散る。
「届かなかったか。
追うわよ」
ソリスも走り出すアリシアの後を追う。
「さっき、あのばーさんの言ったことを覚えてるかって聞いたわね」
横に並んだアリシアが、ソリスにちらりと視線を送った。
「『城で行われるパーティーはチャンス』
『あの子は美人で優しい』とか
ソリスは、あのババァが魔法で小娘をパーティに送る手助けをしたって思ったわよね」
うなずくソリスに、アリシアは話を続ける。
「あたしは後半が気になった。
『現状に絶望し後妻とその連れ子を恨んでいた』んで、
『私は少し魔道をかじっていて。あの子の力になれると思った』
魔法で後妻と連れ子に復讐する手助けをしたんじゃないのかって。
後見人がどうの、なんて話も怪しいわね。
実際小娘側からの話は1つも聞いていないし。
でもね、本当に欲しかったのは小娘の持っていた復讐心だっんじゃないかしら。強い恨みは呪術で爆発的に増殖するわ。
何がしたいんだか知らないけど、恨み妬みが欲しいだなんて、変わり者。
人じゃない。かもね」
見上げる城の塔の上では、大きな月を背負いボロ布のような影をなびかせる。
存在。
「イヤな空気」
抜き身のロングソードを構える。
「楽しいパーティーも、人間を効率よく集めるための幻影。
いい加減、この手のセリフを言うのもあきてきたわ。
そろそろお仕舞にするわよ」




