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97、ウロボロス・Type−HYDER①/イカレた男

「もう……げんっっっかいよ!!」

  

 ディザード王国郊外。 

 オストローデ王国が召喚した『勇者』の1人、山田志乃やまだしのは叫ばずには居られなかった。

 山田を諫めようと、葉山太一はやまたいち綾野あやのはなが『まぁまぁ』と声を掛ける。だが、その声もなんだかやる気がない。何故なら、葉山と綾野もほとんど同じ気持ちだったからだ。

 その原因は、少し離れた場所で四つん這いになっているこの男。


「青いそぉら~、砂すなすなぁ~♪」


 竹箒のように逆立った緑色の髪、ピアスまみれの両耳、鼻や瞼にもピアスが付けられ、顔は眉が無く、唇にはルージュが塗られている。裸の上半身に黒いジャケットを羽織り、黒いズボンとブーツを履いていた奇妙すぎる男・ハイドラである。

 山田はずっとイラついていたが、もう我慢の限界だった。


「ちょっとアンタ!! 気色悪いから話したくもないけどもう限界よ!!」

「はぃあぃ~?」

「まずは立ちなさい!! 立て!!」

「建ちます経ちます断ちまぁぁぁぁぁすぅぅぅ~~」

 

 ハイドラはフラフラしながら立ち上がる。

 そう、この男……ここまで来るのに、殆ど四つん這いだったのだ。

 おかげで、町でも街道でも奇妙な目で見られた。


「ちょっとアンタ!! アシュクロフト先生からの指令を聞いてるんでしょ!? アタシたちは表向き協力国のディザードに入って、不穏な動きがないか探るのが目的なのよ!! アンタみたいにラリッたヤツが一緒じゃ怪しまれるでしょうが!!」

「………………………………」

「な………なによ」


 ハイドラは、恐ろしいくらい直立不動で話を聞いていた。

 あまりの変化に、山田は口ごもる。


「山田くん」

「あ? 誰が山田だとコラ」

「ちょ、落ち着けよ山田さん」

「葉山、アタシを山田って呼ぶな」

「………すみません」

「そうだぞ葉山ちゃん。山田くんは山田くんと呼ばれることを良しとしない。山田くんは山田という名前を嫌っている。つまり、山田くんの名を呼ぶときは山田と呼ばずヤマちゃんと呼ぶことだ。ところで山田くん、いやヤマちゃん。山田くんをこれからヤマちゃんと呼ぶ許可を頂いても?」

「……………殺す」

「ちょ、落ち着け志乃!!」

「お前も殺す」

「なんで!? ああもう、なんとかしてくれよ綾野!!」

「ええと……と、とりあえず志乃ちゃん、ちょっとこっちに来て、ね?」


 綾野は山田を引っ張り、葉山とハイドラが向かい合った。


「なぁ葉山ちゃん。空ってどんな味がするんだろうな~? クリームたっぷりかけてハチミツをからめて、海に沈めて砂といっしょに頬張りたいわぁ~♪」

「……………」


 葉山・山田・綾野のハイドラに対する認識は『薬物中毒者』だった。

 言動や一人称が安定せず、意味不明な行動を繰り替えし、3人にケンカを売るようなことばかりしていた。ハッキリ言って、このままどこかへ捨てることも本気で考えていた。


「空、空空!! 雲、雲雲!! 葉山、葉山はやまぁぁぁぁぁっ!!」

「……………もう、マジでイヤだ」


 葉山は初めて、アシュクロフトを恨んだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ハイドラを連れてディザード王国へ入ると、どうも面倒事になる未来しか見えなかったので、葉山たちは仕方なく野営をしていた。

 狩ったモンスターの肉を焦げる寸前まで焼いたカリカリ骨つき肉を豪快に齧りながら山田は呟く。


「ったく、なんで王国を目の前にして、こんな場所で野営しなきゃいけないのよ」

「仕方ないだろ。今回の任務は情報収集なんだし、こんな目立つヤツ連れていったらたぶん職質どころじゃ済まないぞ」

「ふん、わかってるわよ。バカ葉山」

「まぁまぁ。それより······なんでアシュクロフト先生は、ハイドラさんを連れていけって言ったんだろう?」

「知らないわよ。あんなヤク中······って、アイツどこ行ったの?」

「······あそこだよ」


 葉山はうんざりしたように木の上を指差すと、ハイドラは枝を足に引っ掛けて宙吊りになっていた。まるでコウモリのように。


「きぃぃーっ、きぃぃーっ、きぃぃーっ」


 白目を剥いてキィキィ鳴いている。

 本当に意味がわからず、嫌悪感を通り越してため息しか出なかった。


「······もうアレはどうでもいいわ。葉山、調査を始めましょう」

「そうだね。ここなら十分に射程内だ」


 葉山は右手に手袋をはめ、人差し指を立てる。

 すると、小さな一匹の『ハエ』が指に止まった。

 山田と綾野は顔をしかめる。


「そんな顔するなよ······オレだって」

「ご、ゴメン」

「ごめんなさい、葉山くん」


 葉山太一の能力、『蝿使いベルゼブブ

 ハエを自由自在に操れ、情報収集をするのに最適なチート能力である。もちろん、戦闘には適さない。


「オレだって、三日月みたいにネコとかのがよかったよ······」

「ま、まぁまぁ葉山。でもさ、しおんとは違ってアンタのハエは何匹でも使役できるんでしょ? それに見つかりにくいし!」

「まぁね。でも小さいから他の昆虫に食べられたりするときもあるから別に万能じゃないよ······」

「で、でも、葉山くんって常に数万匹のハエを使役して異空間に収納してるんでしょう? 情報収集するのにこれほど適した人材はいないって、オストローデ王国の諜報機関は驚いてたらしいじゃないですか!」

「······おかけで『蝿男ザ・フライ』なんて呼ばれてるけどね」

「「·········」」


 チート能力を使うと葉山はネガティブになる。

 そりゃそうだ。他にもクセのある能力を持つ生徒はいる。だが、大半が格好いい能力だったりするから。

 この話題を打ち切り、山田は言った。


「あーもう、さっさと情報収集してきなさいよ。それまではアタシとはなで守ってあげるから」

「ありがとう·········はは、戦闘能力皆無の蝿男の出番ですよっと」


 指に止まった蝿が飛び去った。

 山田と綾野は顔を見合わせ、小さくため息を吐いた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 葉山の蝿が飛び去った瞬間、ハイドラが木の上から落ち、首があり得ない方向に曲がった。

 ギョッとする3人を無視してハイドラは立ち上がり、どう見てもへし折れてる首をゴキゴキ鳴らして元の位置に調整する。


「そろそろおやつタイムですな。ではヤマくん、葉山ちゃん、綾野殿、オイラはちょっといってきまーす」


 ビシッと敬礼をしたハイドラは、夜の林の中をスキップで去っていった。

 ポカーンとする3人。

 最初に声を出したのは、綾野だった。


「············ど、どうする? 葉山くん、志乃ちゃん」

「いや、まぁ、おやつタイムだってさ。どうしようか山田」

「············放っておきましょ。そのうち帰ってくるでしょ。それに、帰ってこなくても別にいいしね」


 山田はハイドラに完全に興味を失っていた。

 綾野と葉山は顔を合わせ、『ま、いいか』という結論に至った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ハイドラは一人、葉山たちから数十キロ離れた砂漠のど真ん中で、大の字で寝転がっていた。


「ツリツリ釣り〜、エサはここよ〜ん♪」


 変な歌を歌いながら、楽しそうに笑っている。

 砂漠が不自然に震動し、巨大な何かが砂中を移動している。

 それは、ディザード王国を拠点とする冒険者なら誰でも知っている。


「濃い恋、鯉来い〜、おやつタイムの時間で〜す♪ ほい来たっ!!」


 ドバッ!!っとハイドラの真下から何かが現れ、ハイドラを丸呑みした。

 それは、ゴツゴツした岩を全身にくっつけたような異形のミミズ。神出鬼没のB級モンスター『岩石蚯蚓ロックワーム』だった。

 ロックワームはハイドラを丸呑みし、再び砂の中に潜ろうとする。だが、ロックワームの身体がビクビクと痙攣を始めた。


「みみみみみ〜ず〜〜、いわいわの〜、みみ〜ず〜♪」

 

 ロックワームの身体が爆砕し、真っ二つになる。

 体液の雨が降り注ぎ、無傷のハイドラが砂の上で体液を浴びる。


「う〜んキモチいい〜♪ しかもう〜ま〜い〜♪」

 

 口を開け、ロックワームの体液をゴクゴク飲む。

 B級モンスターを瞬殺したハイドラは、その場でしゃがみ砂の中に顔を突っ込んだ。


「ふ〜むふ〜む、なになに? おやつタイムはまだ続く? そうかそうか、ならもっとも〜っと味わおう! オイラだけじゃ食べ切れない〜♪ なら、お友達も一緒に〜♪」


 砂が震動し、いくつもの盛り上がりが浮かんでは沈み、浮かんでは沈む。

 そう、ここはロックワームの狩場の一つ。

 ハイドラは、それを知ってここまで来たのだ。

 新たなロックワームが何匹も現れる。


「さぁ〜♪ おやつタイムのつ〜づ〜き〜っ♪」


 ハイドラの宴が始まった。

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