88、チーム分担
冒険者ギルドで依頼完了の報告をしたら驚かれた。
どうやら、調査ではオークの数が10体程度だったので依頼難易度をG級~に設定したらしい。だが、実際の数は50体。恐らく、調査の時点では群れの先発隊だけで、後に後発となる本隊が合流したとのこと。
この数だと難易度がG級ではなく、集団依頼のE級に相当するらしい。
なので、報酬は変わらないが、等級アップのために必要なポイントはかなりもらえた……らしい。
現在、夕食を終えて反省会中。
「まぁおかしいと思いましたよ。オーク50体の討伐なんてE級レベルの依頼ですからね。でも、これでランクアップに必要なポイントはけっこう稼げましたね」
「ああ。だが、これで証明されたな。私たち『戦乙女』はE級に相当する強さだと」
ちなみに、等級アップのポイントはギルドで管理されてる『冒険者等級管理コア』に蓄積されている。
これは、大陸中にある全ての冒険者ギルドに配置されてる物で、冒険者登録をした者のデータを共有してるらしい。依頼を終えて依頼完了の証書を提出し、コアに登録されてる冒険者データに等級ポイントを振り分けるそうだ。ようは冒険者のデータは全てマザーコンピュータで管理されていて、等級ポイントでレベルアップ、等級アップという寸法だ。クランに関しても同じである。
ま、ギルド職員でもない限り覚えなくてもいい。余計な説明申し訳ない。
「さーて、今日はあっさり終わりましたから、明日も依頼を受けますよ!! というわけで……これです!!」
クトネは、3枚の依頼書を出した。
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【依頼内容】 G級クラン〜
○盗賊退治。
【報酬】
○金貨5枚。
【達成条件】
○洞窟を根城にしてる盗賊の全滅。
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【依頼内容】 G級クラン〜
○沼ヘビの捕獲。
【報酬】
○金貨2枚、銀貨5枚。
【達成条件】
○沼ヘビの捕獲。
生きたまま確保すること。
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【依頼内容】 G級クラン〜
○秘薬草の入手。
【報酬】
○金貨8枚、銀貨5枚。
【達成条件】
○秘薬草の入手。
10本1束、計10束納品。
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「さ、チーム分けして明日の――」
「ちょっと待て」
俺はクトネにストップをかける。
頭を押さえたルーシアも同意見のようだ。
「どうしたんです?」
「どうしたんです?……じゃないだろ。依頼書がここにあるってことは、まさかお前、勝手に受けたのか?」
「ええ」
「………」
こ、こいつ。すっげぇ素直に言いやがった。
俺とルーシアはため息を同時に吐く。
「クトネ……少なくとも、私たちに相談するべきじゃないか? 私たちは同じクランなんだ。依頼を受けるのはいいが、我々の同意なしというのは理解できんぞ」
「う……そ、それはその」
「お前さ……金稼ぎたい気持ちはわかるし、俺も居住車は欲しいと思う。でも、そのために勝手なことをするのはダメだろ」
「うぅ……」
クトネがしょんぼりしてしまった。
ブリュンヒルデはシリカをなで、ジークルーネはくろことみけこをモフり、三日月は子猫モードになって俺の太股の上に乗る。俺は青いペルシャ猫をモフモフなでながら言う。
「まぁ、受けたのはしょうがない。お前はみんなの戦闘能力を判断して、チーム分担すればいけそうな依頼を探してくれたんだろ?」
「ま、まぁ……」
「やれやれ……今回は許すが、次からは私とセージが黙っていないからな」
「はぃぃ……ご、ごめんなさい」
次回からはちゃんと相談するように言い聞かせ、本題に。
「で、どういう風に分けるんだ?」
「こほん。ええとですね、討伐系が2つに採取系が1つです。まず盗賊退治ですが、これは直接戦闘になりそうなので、ブリュンヒルデさんとルーシアさんにお願いしようと思います」
「私とブリュンヒルデか?」
「はい。ぶっちゃけアルアサド王を完封したブリュンヒルデさんなら、盗賊が国家レベルで襲ってこようと完封しちゃいそうな気がしますが……でも、万一のことを考えてルーシアさんにバックアップをお願いします。ルーシアさんは騎士団で盗賊退治の経験もあるでしょうし、地形などから盗賊の逃げ道なども予想できると思うので」
「………なるほど。理に適っているな。私はかまわんぞ」
「よし、ブリュンヒルデはどうだ?」
『問題ありません。センセイ』
というわけで、盗賊退治はブリュンヒルデとルーシアが担当。
お次は、沼ヘビの討伐だ。
「沼ヘビの討伐は、あたしとシオンさんが担当します」
『うにゃ? わたし?』
子猫モードの三日月が俺の太股の上で尻尾を揺らす。
俺は頭から背にかけて優しく撫でると、三日月ペルシャ猫はネコ耳と尻尾をフリフリさせる。
「はい。沼ヘビは臆病なので、潜んでる沼からほとんど出てきません。なので、あたしの『土』魔術で地震を起こして沼ヘビを驚かせます。そこをシオンさんに一本釣りしてもらいます」
「い、一本釣りって……釣れるサイズなのか?」
「はい。ほんの2メートルくらいです」
『にゃぁ……おいしいの?』
「ええ。沼ヘビは絶品みたいですよ。依頼主もオゾゾの料理店ですからね」
『にゃぉぉ。じゃあ2匹釣る!!』
というわけで、沼ヘビ捕獲はクトネと三日月。
となると、最後は俺とジークルーネか。
「と、最後はセージさんとジークルーネさんです。秘薬草の採取ですね」
「秘薬草か。薬草とは違うのか?」
「ええ。秘薬草はポーションより効果のあるハイポーションの材料になります。そこそこ稀少で見つけにくいんですけど、ホルアクティを使えば楽に見つけられると思います。過去に採取された場所を聞いてきたので、その辺りを中心に探せばいいと思います。モンスターの危険もなくはないので、セージさんの出番もありますよ!!」
「そりゃありがたい……」
まぁ無難だな。盗賊退治よりはいい。
「えへへ、センセイと一緒。ごめんねお姉ちゃん」
『……問題ありません』
「えー? ホントはお姉ちゃん、センセイと一緒がよかったんじゃない?」
『…………』
ブリュンヒルデは、シリカをなでる手を止めた。
そしてなぜか、俺をジッと見る……な、なんかコメントしたほうがいいのか?
「では、明日に備えて……お風呂に入りましょう!!」
クトネが締めたおかげで話は終了した。
クトネは俺の太股でゴロゴロしてる三日月を抱き上げ、風呂場へ向かった。
「じゃ、お姉ちゃん。少し調整しよっか」
『よろしくお願いします』
ブリュンヒルデとジークルーネはボディのメンテナンス作業を始めた。ちなみにジークルーネ自身の調整も自分でできるらしい。大したモンだ。
「セージ、少し飲まないか?」
「ああ、いいぞ。じゃあ2階で飲むか」
ルーシアに誘われ、買っておいたワインボトルとコテージにあったグラス、簡単なツマミを持って2階へ上がる。2階は4人用のベッドルームの他に、シングルベッドの個室が1つある。窓際には丸いテーブルと椅子があり、そこで飲むことにした。
椅子に座り、お互いにワインを注ぐ。
「じゃ、お疲れさん……乾杯」
「ああ、乾杯」
グラスを合わせ、ワインを飲む。
フォーヴ王国でヴォルフさんが用意してくれた荷物の中にあったワインだ。気を利かせてくれたのか、けっこうな高級ワインだ。
辛口の赤ワインで度数も高い。でも……美味い。
ワインを飲み、生ハムとチーズを齧る。
外に目を向けると、都会では見られない星空と、町の夜景が見える。ここは国境の町なので夜も眠らない。娼館や飲み屋などは稼ぎ時の時間帯だ。
しばし、ワインと生ハムチーズを楽しむ。
「……セージ」
「ん?」
「明日から依頼だ。金を稼ぐだけでなく、お前自身のレベルも上がるだろう……いや、私もか」
「ああ。お前はともかく、俺はまだ弱いからな」
「いや……私もまだ弱い。お前の生徒に太刀打ちできなかったからな……」
「……」
「セージ、こんなことは言いたくないが、言っておく。お前も生徒と戦うことになったら……私は、マジカライズ王国のために戦うだろう」
「……ルーシア」
「ふふ、酔ってるのか……こんなことを言うつもりはないのだがな。すまない」
「いいよ、ルーシアが戦う理由は知ってるつもりだ。でも……その時が来たら、戦う前に俺に任せてほしい」
「………ああ、そうだな」
ルーシアと、いろんな話をした。
俺の教師生活や、ルーシアの騎士団生活の話。休みの日になにをしてるとか、好きな食べ物とか……酒を飲みながら話すと、気分も良くなってくる。
ワインは俺が2割、ルーシアが8割ほど飲んでしまった。すると、やはりルーシアは酔ってしまう。
クトネたちはまだ部屋に戻っていないので、俺はルーシアを運ぶことにした。
「ほら、ルーシア。ベッドに行こう」
「ん……ああ」
「っ……ほ、ほら」
う……よ、酔ったルーシア、めっちゃ色っぽい。
ルーシアに肩を貸して立たせると、大きくて柔らかい胸が俺の胸に触れる。
胸を意識しないようにベッドルームに運び、一番近くのベッドに座らせると、そのまま倒れてしまった。
「おいおい、大丈夫か?」
「ん……むね、くるしい」
「む、むね?」
「んん……」
確かに、ルーシアの着てるワイシャツのボタンが引っ張られてる。けっこうキツいんだろうな。
つまり、胸元を緩めてやればいいのか……って。
「……すまん、ルーシア」
「あ……」
俺はルーシアのシャツのボタンを緩め、ブラジャーが見えるギリギリまでシャツを解放する。すると、柔らかそうな胸の谷間が飛び込んできた。
や、やばい……めっちゃ色っぽい。
「る、ルーシア……」
「は、ぁぁ……」
「………」
漏れる吐息は酒の匂い。息づかいは荒く、上気した顔、柔らかそうな胸、全てが扇情的に見えた。
こんなにいい女が、こんな無防備に……。
『センセイ』
冗談抜きで、心臓が止まった。
ビクッと身体が揺れ、恐る恐る振り返る……。
「セージさん、飢えてますねー……」
「せんせ、ばか……」
「センセイ、大変ですねー」
『…………』
あぁ……み、見られた。
というか、なんでみんないつもタイミングいいんだよ。
「んん~……」
寝返りを打つルーシアが、なんだか可愛く見えた。





