70、三日月しおん③
しろすけを城に残し、わたしは脱走した。
時間は深夜。わたしの能力の1つである『キャットウォーク』なら、高い場所や屋根の上を音もなく駆け抜けることができる。これも誰にも言ってない能力の1つ。
「………しろすけ」
しろすけは、城に残った。
とらじろーを探すために残ると言ったけど、本音を言えば2匹とも連れていきたかった。
とらじろー、どこへ行ったの……わたしのせいで。
「……っ」
溢れる涙を拭い、城下町の屋根の上をジャンプして進む。
買い物とかしないといけないけど、まずはオストローデ王国を脱出する。
ハッキリ言って、アシュクロフト先生が怖い。あかねはアシュクロフト先生を信じ切ってるし、へたなことを言うと報告されることもある。だから……わたしは、1人で行く。
せんせを探して、みんなを助けてもらう。
手がかりはないけど、たぶんオストローデ王国内じゃない。
「……まずは、オストローデ王国近くの集落まで行こう。徹夜で走ればかなり行けるはず」
ちなみに『キャットウォーク』を使うとネコの特性も得る。
夜行性だからそんなに眠くならないし、ジャンプ力もかなり高い。でも、体力がそんなに続かないので休憩を挟みながら走るしかない。それでも、わたしの速度は馬車とは比較にならないほど速い。
「………せんせ」
わたし、はやくせんせに会いたいな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
オストローデ王国から脱出し、休憩を挟みながら進む。
現在は木の上で休憩中。持って来た荷物の中から地図を取り出して広げる。
「ええと………ここがオストローデ王国、そしてこっちが砂漠王国、こっちがエルフの森、あっちが獣人王国」
そのほかにも、魔族や吸血鬼の住む王国や、海の王国なんてのもある。魔術師の王国なんてあかねが喜びそうだけど……どこに行こう。
直感だけど、獣人の王国かな。
ネコの獣人とかいたら友達になりたい。オストローデ王国にいたネコ耳メイドは、友達になってくれなかったし。だから獣人に会ってみたいな。
おっと、もちろん目的はせんせを探すこと。
「どこかで旅のお友達を探そう。1人じゃ辛いし……」
旅なんてしたことないからよくわからないけど、お金と着替えと地図は持ってきた。
お金は金貨が10枚ほど、着替えは下着に町で買った普通の服、地図はオストローデ王国から支給された物だ。
問題は食事だ。
水は魔術で出せるから問題ない。わたしの魔術特性は『水・風・光』だし。飲み水は出せるし洗った服を風で乾かせるし、暗くなったらライト代わりの光球も出せる。
アナスタシア先生が言ってたけど、水はC級、風はD級、光はE級認定とか言ってたっけ。よく聞いてなかったから意味はわからなかったけどね。
「うーん、弱いモンスターなら魔術で狩れるかな? でも解体は苦手……」
どこかに果物でもあればなぁ……町に着いたら保存の利く物いっぱい買おう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
短距離ならわたしは人間の誰よりも速い。木登りだって得意だし、夜目も利く。その代わり、体力がちょっぴり自信ない。仕方ないよね。
オストローデ王国から脱出して8日、いくつかの集落を経由し、かなりスピードを出して走ったおかげか町が見えて来た。
「えーと、あそこが国境の町かな?」
あの町から、それぞれの魔王が治める王国へ向かうことができる。
わたしの目的地は、獣人の国であるフォーヴ王国へ向かうことだ。
「……町に着いたら宿で休もう。それと、お友達も探さなきゃ」
わたしの能力の1つである『ネコあつめ』で、集落のネコを集めることはできたが、みんな飼い猫ばかりで一緒に来てくれるネコは居なかった。
だけど、これだけ大きな町なら冒険心あるネコがいるはず。
少しだけ町に滞在して、せんせの情報を集めよう……あればだけど。
「オナカ空いた……」
その前に、まずはお腹を満たさないとね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
おっきな町。
人だけじゃなくて、獣人もいっぱいいる。
宿屋もいっぱいあるし、久しぶりにお風呂入りたい。水で身体拭くのだけじゃスッキリしないもん。
なので、ちょっとだけいい宿屋を選んでチェックイン。少し休んでから食料とおやつを買って、この町の地図を手に入れた。
わたしは、ホットドッグをかじりながら、町の中央広場で地図を広げる。
「えーと············あ、あった」
探し場所は、町の裏通り。
こんな人が多い場所で『ネコあつめ』を使ったら騒ぎになっちゃうしね。人の少ない場所を選ばないと。
というわけで、いざ裏路地へ!
「くんくん······うん、このあたりかな」
人通りのない薄暗い裏路地へ到着。
ネコの気配を感じる······どうやらみんな隠れてるみたい。
さっそくネコあつめを使いたいけど······じつはこれ、けっこう恥ずかしいのだ。
「すぅぅ··········にゃあ〜〜〜ぅん」
わたしはネコみたいに鳴いた。
すると、声を聞いたネコがぞろぞろ集まってきた。
ネコであるかぎり、この声には抗えない。まるで洗脳みたいでいい気はしないけど······ごめんね。
「えーと、20匹くらいかな。お話の前におやつにするね」
わたしは、ネコ用に買ったおやつを広げると、ネコたちは一斉に群がった。みんなお腹空いてるんだね······。
「みんな、まずはお腹いっぱい食べてね」
ネコは可愛い。ネコは天使である!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ネコのみんながごはんを食べてる間、わたしは固有武器である『ススキノテ』を出す。
見た目はまんま猫じゃらし。エノコログサをそのまま千切ったようなデザインで、色だけが青い。
ごはんを食べ終わったネコの1匹に向けてススキノテをフリフリすると、その子は楽しそうにじゃれついた。
よし、これで準備完了。
「わたしの声、わかる?」
『······もちろん、あら?』
「これでお話しできる。ちょっと聞きたいこととお願いがあるの」
『へぇ、ネコとお喋りできる力ね······ま、いいわ。ごはんのお礼に聞いてあげる』
メスの三毛猫にせんせのことと、わたしの友達になってくれる子がいないかを聞いた。
『せんせ、ね······ま、町にいるかどうか確認してあげる。それと、貴女の友達だけど、私がなってあげてもいいわ。それともう1匹、私の妹も一緒でいいかしら?』
「妹? どの子?」
『ええ、あそこの子よ』
ごはんを食べて満足したのか、地面に寝転がってる黒ネコがいた。
なんか可愛い·······抱っこしたいな。
『ほらあんた、この人間にお礼言わなきゃ』
『うなぁ~』
他のネコも昼寝を始めてる。
みんな可愛いな。この子たちみんな引き取って猫カフェやったら楽しいかも。
おっと、今は三毛猫と黒ネコの姉妹が先だね。とりあえず黒猫ちゃんもじゃれさせて、と。
「じゃあ名前は……みけこ、くろこ」
『ふーん、まぁいいわ。じゃ、しばらくよろしくね』
『ふぁ……よろしく』
「うん。じゃあ、町で情報を集めてくれる? せんせとフォーヴ王国のこと」
『いいわよ。1日あればいいかしら?』
「1日でいいの?」
『ええ。この町に何匹のネコがいると思ってるの?』
みけこは近くのネコにお願いすると、ネコは行ってしまった。
わたしはくろこを抱っこする………うん、ちょっと臭う。
「みけこ、くろこ、宿に行こう」
『いいわよ。お昼寝したいわ』
『わたしもー』
ふふふ、お昼寝前にキレイにしてやるからね。





