63、夜笠
クラン『戦乙女』初めての合同依頼。
依頼を受け、集合場所である『クロコダイル商会』へやってきた。
「クロコダイル……まぁ、そんな気はしてた」
馬車を商会前に停めると、すぐにわかった。
商会前には1人の獣人が腕を組んでいた。
俺たちは馬車を降りて依頼主で間違いないであろう獣人のもとへ。
「依頼を受けたクラン『戦乙女』です」
「おお来ましたな!! ではではこちらへ。ワシは『クロコダイル商会』代表のアリゲイツと申します。ぐぁっぐぁっぐぁっ!!」
「ひっ!? はは、はい」
クロコダイル商会のアリゲイツさん。彼は『ワニ』の獣人だった。
見た目は二足歩行のワニ。笑うと巨大な口が開き、キバだらけの顎が断頭台のように開く。さっきのは笑い声だろうか……めっちゃ怖い。
しかも荷物は巨大なワニの背中にカゴのような物を背負わせている。ぶっちゃけ護衛なんていらないような気がしてならない。
俺たちは人間の冒険者クランだが、アリゲイツさんは全く気にしていなかった。
アリゲイツさんに案内されて商会の客間へ入ると、1組の冒険者クランが待っていた。クランは4人、男2人に女2人だ。
こちらをチラリと見ると、興味なさそうに前を向く。
合同依頼は3組のクランって聞いてるけど、あと1組か。
「ぐるるる? ええと、『戦乙女』と『ウルフドッグ』は揃いましたね。あと1人来てないですね……」
「……1人だと?」
「ええ」
お。向こうのクランは『ウルフドッグ』っていうのか。
ちなみにこの世界の獣人は、男性は獣のような風貌で、女性は人間にケモ耳や尻尾が生えたようなスタイルだ。タマポンさんやアリゲイツさんはまんま2足歩行の動物みたいだしな……って失礼か。
ウルフドッグ。名前からしてオオカミの獣人グループかな?
「おい、これは合同依頼だろう。1人とはどういうことだ」
「ええと、ギルドからはそう伺っていますなぁ。ぐぁっぐぁっぐぁっ!!」
ウルフドッグのリーダーらしきオオカミ獣人が聞くと、アリゲイツさんは怖い声で鳴いた。マジでこの人強そうなんだけど……生肉とか噛み砕いて食べそう。
すると、クトネが挙手しながら聞いた。
「あの~、どんな人が依頼を受けたんですか?」
「ふん、人間風情が喋んじゃねぇよ。格下の弱小クランが、合同依頼にかこつけて小遣い稼ぎしようなんて生意気なんだよ!!」
「リカルド、黙れ」
「うっせーよヴォルフ、オメーもそう思ってんだろ? なんで人間がここにいるんだっての」
うわ……もう1人のオオカミ獣人がケンカ売ってきた。
ケンカを売ってきたオオカミ獣人はリカルドというらしく、茶色い毛並みで身長は2メートル以上ある。背中には大きな手斧2本を背負ってるな。
もう1人は灰色の毛並みのヴォルフ。こっちは爪の付いた手甲を装備していた。
すると、アリゲイツさんが口をガパッと開けながら言う。
「まぁまぁ。ええと、最後の1人も人間の冒険者さんですな。名前は……『夜笠』となってます」
よがさ? 変な名前だな。
というか、1人でクランなんか結成できるのか? クランってかただの冒険者じゃん……って。
「………ど、どうしたんだ?」
ウルフドッグの連中、クトネ、ルーシアが硬直していた。
そして、一瞬で空気が張り詰めた。
客間のドアがゆっくり開き、1人の人物が入ってきた。
「…………」
「おお、貴方が『夜笠』殿ですな? ぐぁっぐぁっぐぁっ!!」
夜笠は僅かに頷く。
というか、変な格好だな。
大きな黒い編み笠を被ってるおかげで顔は全く見えず、服装も真っ黒で黒いマントを羽織っている。
腰には3本の刀みたいな剣が差してあり、日本の侍みたいなヤツだった。
ウルフドッグだけじゃなく、クトネとルーシアも夜笠を見つめ動かなかった。
ブリュンヒルデとジークルーネも夜笠を見てる。
ワケも分からず首を傾げると、クトネがポツリと言った。
「え……S級冒険者」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
依頼内容は依頼書で確認した通りだった。
アリゲイツさんはフォーヴ王国にある『アリゲイツ商会・本店』に商品を運搬するので、その護衛をお願いします。というものだ。
フォーヴ王国へは『ドゥウ樹海』を越えるルート。
ドゥウ樹海はD~C級のモンスターが現れるため戦闘は必須。戦闘経験のあるクランの護衛は必須だとか。
俺はアリゲイツさんの説明を聞いていたが、ウルフドッグの連中やクトネとルーシアは、夜笠とやらを見ていた。
「ではでは、説明は終わりです。10分後に出発しますので準備をお願いします。ぐぁっぐぁっぐぁっ!!」
凶悪な笑い声を上げ、アリゲイツさんは部屋を出た。
さて、俺たちも準備をしよう。
「おし、行くか」
「は、はい……ふぅぅ」
「ああ、行くぞセージ」
「はい、センセイ」『はい、センセイ』
ウルフドッグの連中は夜笠を一瞥して無言で出ていった。
夜笠は動かない。ウルフドッグの連中はともかく、この人は人間なんだよな。だったら、せっかくの合同依頼だし仲良くやりたい。
部屋を出ようと歩き、俺は夜笠の前で立ち止まった。
「あの、俺たちは『戦乙女』です。合同依頼は初めてで迷惑を掛けるかもしれませんが、よろしくお願いします」
「ブーッ!? ちょ、セージさん!?」
「なんだよ汚いな……と、お先に失礼します」
夜笠は喋らないし、顔も見えなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
馬車で荷物の確認をしようと荷車に乗り込み、ブリュンヒルデはスタリオンにブラッシングを始める。
すると、その様子を見たジークルーネがブリュンヒルデのもとへ。
「お姉ちゃんお姉ちゃん、わたしもやってみたいな」
『これは私の仕事です』
「えぇ~、ちょっとぐらいいいでしょ? わたしもスタリオンにブラッシングしたい~」
『…………どうぞ』
「やった、ありがとうお姉ちゃん!! あのさ、やり方も教えて?」
『………』
ブリュンヒルデは、ジークルーネにブラッシングの指導を始めた。
うんうん、姉妹は仲良しがいい。
銀色の姉妹を見て微笑を浮かべていると、クトネが俺の襟を引っ張った。
「っぐぇ!? なな、なにすんだクトネ!!」
「そりゃこっちのセリフですよ!! 『夜笠』相手になに軽い挨拶してんですか!!」
「………あのさ、その夜笠ってなんだ?」
「………はぁ~、どうしますルーシアさん」
「教えてやれ、私も少し興奮してる」
「はいはい。じゃあセージさんに教えてあげますよ」
「………なんかムカつくな」
というわけで、クトネ先生の授業開始。
「セージさん、冒険者の等級はいくつあるか知ってます?」
「えーと、ギルドの説明だとG級からA級までだよな」
「その通り。ですが、現在の冒険者の中で例外が4人だけいます。それがS級冒険者……最強の4人です」
「へぇ~」
「へぇ~……じゃないです!! ここまで言えばわかるでしょう、その内の1人が『夜笠』なんです!! S級冒険者は特例として、クラン専用の依頼も単独で受けることができるんですけど……まさか人間迫害の多いこの町で、しかもF級の護衛依頼を受けるなんて……」
ルーシアは、荷物の整理をしながら言う。
「『夜笠』、『眠り姫』、『無剣』、『鶺鴒』……アストロ大陸にある王国が召し抱えようとしたが悉く失敗。マジカライズ王国も過去に『無剣』と接触したが、あっさりと断られた」
「へぇ~」
「へぇ~って……もうセージさんには関係ないですね」
「ああ。そんなことよりこれから向かうドゥウ樹海の方が大事だ」
すると、俺たちの馬車にウルフドッグが来た。
灰色の毛並みだからヴォルフだっけ?
「少しいいか。打ち合わせがしたい」
「あ、はい。わかりました」
さぁて、これから忙しくなるぞ。





