294、地より目覚めし悪龍INFINITY・OVERLOAD⑤/わたしたちのセンセイ
オストローデ王国周辺の戦況は、やはりアンドロイド軍が優勢だった。
援軍は確かに来た。だが、獣人やドワーフ、亜人やエルフ、そして吸血鬼と魚人。全て合わせてもいいところで数万。未だに百万単位で存在するアンドロイド軍に、徐々に押されていた。
シグルドリーヴァは、戦乙女型四人をばらけさせ、それぞれの種族に対し指揮を執りながら戦うように命じる。
シグルドリーヴァの指揮するフォーヴ王国の獣人たちは渋っていたが、カラミティジャケットを一刀両断したシグルドリーヴァを見て心底驚き、アルアサドもシグルドリーヴァの指揮下に入って戦っていた。
「怪我人は下がれ!! 後方に治療スペースがある、そこまで運べば怪我は治る!!」
後方に、ジークルーネのビーハイヴ・ワスプがブンブン音を立てて飛んでいた。
治療スペースというか蜂の大群が飛んでいるようにしか見えないが、ここに運ばれた負傷者にビーハイヴ・ワスプがとりつき、治療用ナノマシンを注入する。たった数秒で怪我は完治した。
だが、数百単位で運ばれてくる負傷者に、ビーハイヴ・ワスプの数が足りなくなってきた。
シグルドリーヴァは、周囲の状況を確認する。
エルフ部隊の指揮を執りながら砲撃に参加するオルトリンデ、ドワーフたちの盾となりながら指揮を執るヴァルトラウテ、亜人の指揮を執り、ドラゴンと一緒に空を飛ぶレギンレイブ、吸血鬼と一緒に戦うアルヴィート。
「やはり、昔のようにはいかないか……」
昔、人間と一緒に戦った……。
「……?」
そんな記憶はシグルドリーヴァにはない。だが、なぜか昔のことを思い出す。
自分は、シグルドリーヴァだ。
それなのに、どうして過去の記憶では、目の前にシグルドリーヴァがいるのだろう?
「チッ……」
シグルドリーヴァは、頭を切り替える。
今、やるべきは……被害を最小限にして、アンドロイド軍を全滅させること。人、獣人、亜人、エルフ、吸血鬼、ドワーフ、魚人。全ての力を結集し、敵アンドロイドを破壊することだ。
「だが、足りない……それに、あのアンノウン兵器がいる」
センセイが触れれば、倒せる。
INFINITY・OVERLOADは、ミラーコートを破壊され沈黙していた。
カラミティジャケットとウロボロスが守るように立ちふさがり、INFINITY・OVERLOADはピクリとも動かない。
「…………まさか」
目の前のアンドロイドの対処ばかりに追われ、INFINITY・OVERLOADの状態を確認していない。
シグルドリーヴァは、猛烈に嫌な予感がした。
ミラーコートの破壊後、殺到するアンドロイの対処に追われたせいだった。INFINITY・OVERLOADに追撃をすれば、結果は違ったかもしれない。
動かないINFINITY・OVERLOAD。つまり……。
「くそ……自己修復か!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇
INFINITY・OVERLOADの体内。
頭部、電子頭脳に当たる部分にいるのは、Type-KNIGHTことアシュクロフトだった。
アシュクロフトは現在、半円形のヘルメットをかぶっている。ヘルメットには何本ものコードが伸び、INFINITY・OVERLOADと繋がっていた。
「修復率82パーセント……やれやれ、ミラーコートを破壊したのは驚きましたが、壊れたら修復すればいいこと。そもそも、数が違う……雑魚生物を何匹集めようと、カラミティジャケット一体すら倒せないということは、エルフの国で実証済みですよ」
モニターを眺めながら、様々な種族がType-JACK相手に戦い、カラミティジャケットとウロボロスに薙ぎ払われていた。
唯一対抗できるのは戦乙女型だが、一度ミラーコートの破壊をされた以上、もう二度目はない。コート発生時の僅かな隙間を狙われたが、それにも対処可能だ。
「さて、どうしますか……このままアンドロイドで殲滅するか。それとも、INFINITY・OVERLOADの兵器で滅ぼすか……ククク、悩みますね…………ん?」
アシュクロフトは、気が付いた。
「…………く、ククク、クハハハハハッ!!」
Type-KING、ヴァンホーテンの反応が消えた。
戦乙女型code04に敗北したのだ。Type-QUEENの反応はかろうじて残っている……躯体を破壊され、電子頭脳だけの存在となったのだ。
「なるほどなるほど。これで残りのアンドロイドは、私とアリアドネだけ……アナスタシアもゴエモンもハイネヨハイネももう必要ない。この私が全てを手に入れる。このType-KNIGHT……いや、私は騎士ではない、王を超越した無限の存在、最高のアンドロイド……Type-INFINITY、ククク、これはいい」
アシュクロフトは、感情を手に入れていた。
センセイに恐怖したことで、アンドロイドにはない『恐怖』の感情データを入力したのだ。これにより、『Atr・za・true・O-VAN』からの命令ではない、自分の意志を手に入れたのである。
「どれ、まずは……邪魔なcode04を排除しますか。INFINITY・OVERLOADの主砲で、オストローデ王城ごと消し飛ばしてやる」
地下にある『Atr・za・true・O-VAN』は、最悪破壊されても問題ない。物理的な破壊干渉があれば、全データがここにはない特殊なサーバーに転移される。
「この世界全てをアンドロイドの物に。くくく、ははは……」
主砲、起動─────。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の瞬間─────空が『歯車』で埋め尽くされた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
空が、『歯車』で埋め尽くされた。
透き通るような巨大歯車だ。青銅、鉄、鋼、赤銅、黄金、大きさもバラバラで、全てがカッチリ噛みあった歯車の空。
透き通る歯車は空を埋め尽くし、太陽の光をそのまま透過させている。
まるで、幽霊の歯車。
噛みあった歯車は音もなく周り、オストローデ王国の空……いや、この大陸全ての空を埋め尽くしている。
アシュクロフトは、愕然としていた。
違う。アシュクロフトだけではない。この戦場全ての動きが停止し、空を……透き通る歯車の空を見上げていた。
そして、アシュクロフトは見た。
「さぁて……いっちょやりますか!!」
間違いなく、この現象の元凶。
全ての機械生命の天敵。全ての機械生命の修理工。
どこにでもいる平凡な教師……センセイの姿を。





