281、解放
ジークルーネが変形させた『ビーハイヴ・ワスプ』が元の形に戻り、中にいたジークルーネが現れた。
「センセイ、わたしの勝ちです……」
「そ、そうか! やったのか!」
「はい。なんとか……Type-PAWNを解析して、相手の上を行くことができました。今のうちに『ビーハイヴ・ワスプ』で、魔導強化兵士の命令を上書きします」
「……だ、大丈夫、なのか?」
「はい……アンドロイドですから疲労はありません。今、新しい命令を送って、生徒たちをここまで誘導します。その後、マイクロチップの機能を完全停止させれば、もう操られることとはないはずです」
「ジークルーネ……」
すごい、この子は……やってくれた。
ある意味、この戦い最高の難関だ。生徒たちを取り戻す、それは俺の最終目標なのだ。いくら敵アンドロイドを破壊しても、生徒たちが戻ってこないと意味がない。
それを、見事にやってのけた。
「ジークルーネ……本当に、ありがとう!!」
「えへへ……わたし、役に立てたかな」
「ああ。最高だよ、お前は」
俺はジークルーネの頭を撫でる。すると、ジークルーネは嬉しそうにはにかんだ。
クトネが首を傾げ、俺に質問した。
「あのー、結局どうなったんです?」
「もうすぐ、この戦いに関係のない人間はみんな解放されるってことだ」
「ま、マジですか?」
「ああ」
クトネだけじゃない、ルーシアもアルシェもゼドさんも、エレオノールもキキョウも、みんなが喜んでいた。
「センセイ、ビーハイヴ・ワスプは順調にナノマシンを打ち込んでいます。あと20分もすれば、戦場にいる全ての人間に命令を送れるようになるはず。とりあえず……オストローデ王国内に退却、各自の家で待機の命令を出しますね」
「ああ。この戦いが終わるまで家から出るなって命令を出しておけ」
「はい、センセイ」
そして――――。
「……せん、せ」
「ん?…………あ」
ついに、やってきた。
オストローデ王国の制服を着た少年少女たちが。
死んだ表情で、規則正しい動きで、誰一人欠けることなく……。
この日を、待ち望んでいた。
「……みんな」
俺の、生徒たち――――。
◇◇◇◇◇◇
「あかねっ!!」
三日月が、篠原朱音を見つけるや否や飛びつく。だが、篠原は凍り付いた表情のままピクリとも動かない。
ジークルーネが、生徒全員のメンタルチェックをした。
「…………あれ、これって?」
「ど、どうしたんだ? どこか悪いところが」
「ううん、これ……そっか」
「お、おい?」
「大丈夫。とりあえず、意識を覚醒させます」
ビーハイヴ・ワスプの椅子に座ったジークルーネは、いくつもの空中投影ディスプレイを操作して生徒のチェックをして、最後に覚醒させた。
そして――――ついに。
「……………………ぅ」
「あかね、あかね? あかね……きこえる?」
「…………し、おん?」
「…………っっ!!」
三日月は、篠原に思い切り抱きついた。
そして、中津川。
「う、うぅ……ここは? あれ、オレたち……?」
「中津川……」
「え?……え、あ、相沢、先生?」
中津川将星。クラスの中心人物であり……。
「みんな、無事でよかった……っ!!」
生徒たちが、俺を見てざわついている。
混乱しているのか、ここはどこだと首を傾げたり、頭を押さえていたり、三日月を見て驚き、抱きついたり……。
ああ、なんかぐっちゃぐちゃだ。
ようやく、俺の旅が終わった。報われた。みんな、戻ってきた……!!
「しおん、しおん……っ!!」
「あかねぇぇ……うぁぁぁん!!」
「三日月さん……」「しおんちゃん!!」「よかった、よかったぁ!!」
「相沢先生、なんで?」「おい、ここどこだよ」「なぁ、なんかおかしくねぇか?」
「あたしたち、何してたんだっけ?」「わかんない……」
「おい、あそこにいるの誰だ?」「めっちゃ美人じゃん」「相沢先生、なんで?」
ザワザワと、生徒たちの視線が俺やルーシアたちに集まる。
俺の心は、ぐっちゃぐちゃだ。
嬉しさ、安心感、もうワケ分からん。泣きたい……でも、言わないと。
「みんな!!」
俺は、全員に聞こえるように叫ぶ。
ようやく、全員と再会した。だから……ちゃんと言わないと。
「みんな、俺は生きている。死んじゃいない……こうして生きている」
ずっと、伝えたかった。
取り戻したかった、子供たち。
「みんなは、オストローデ王国に騙されていたんだ。俺はそれを止めるために、この世界中を回っていた。そして……ようやくみんなと再会したんだ」
「お、オストローデ王国に、操られ……っつ!?」
中津川が、頭を押さえた。
「みんな、落ち着いて聞いてくれ。みんなの頭の中には極小のマイクロチップが埋め込まれている。そこに強力な電波が送られて、オストローデ王国の意のままに操られていたんだ」
真実を伝える。
ジークルーネが録画した映像を表示し、中津川や生徒たちがブリュンヒルデを包囲したり、無数のアンドロイド兵に囲まれて進軍する様子が表示される。
「あ、相沢先生……オレたち」
「まず、俺の話を聞いてほしい」
俺は、これまでのことを説明する。
オストローデ王国の真実。召喚された理由が、強力な能力者をマイクロチップで操るためだったこと、アシュクロフトたちがアンドロイドだということ、今の状況、そして、これからどうするか……。
「みんな、わたしはずっとせんせと一緒にいた! せんせは嘘ついてない、信じて!」
「三日月……」
三日月は、みんなに訴えかける。
すると、中津川と篠原が前に出て、生徒たちに言った。
「オレは……相沢先生を信じるよ」
「私も……」
「中津川、お前」
「あかね……」
中津川は、イケメンフェイスを緩めて疲れたように笑う。
「相沢先生は嘘を吐く人じゃないです。それに、ここ最近の記憶が全くない……さっきの映像やこの頭痛、オレたちは……操られていたんですね」
「私も同じ意見……オストローデ王国は、私たちを利用していたのね」
ドヨドヨと、生徒たちは話し合い……同意する。
そして、全員が俺を見た。
俺は、中津川を正面から見て、肩をがっしり掴み、抱き寄せた。
「相沢先生、オレたち……オレたち」
「もういい。わかってくれれば……」
「先生……っ!!」
中津川は、俺の胸に顔を埋めた。
同時に、他の生徒たちも殺到する。俺は全員の頭を撫で、ここにいることを実感し、喜びが胸を満たしていくのを感じていた。
もう、絶対に失わない。絶対に……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…………あれ?」
ふと、訝しむような声が聞こえ……。
「…………え、なにこれ。能力が使えない?」
誰かが言った。
その声に触発されるように、生徒たちは何かを確認する。
そして、中津川と篠原も……。
「な、なんだこれ……」
「うそ……!?」
「お、おい? みんな、どうしたんだ?」
生徒たちが、動揺していた。
中津川が、震える声で言う。
「せ、先生……能力が、消えました」
「は?」
生徒たちのチート能力が、消滅していた。
ジークルーネが、『やっぱり』といった感じの口調で言う。
「後遺症です。脳内チップの影響かどうかわかりませんが……みなさんの『能力』は、完全に消滅しているようです」
魔導強化兵士の副作用。
脳内チップの力で《覚醒》させた後遺症。
生徒たちは、全ての力を失った。
「…………」
俺は、なぜか安堵している自分がいることに、気が付いた。





