279、BOSS・『パペッター・Type-PAWN』①/思考と操作
アリアドネは、 『Atle・za・ture・O-VAN』の演算能力をフルに使い、生徒たちの操作権限を取り戻そうとしている。だが、ジークルーネの抵抗が激しく、互いの情報量が拮抗、現状維持のまま時間が過ぎていった。
「クソクソクソ、なんだってんだ……」
順調だった。
生徒の脳にマイクロチップを埋め込み、アリアドネの操り人形として、世界中を相手に遊ぶ予定だった。それなのに、転移装置は妙な人間に邪魔されて使用不能、徒歩で進軍させようとしたら戦乙女型の邪魔が入った。
だが、ここまではいい。
問題は、『Atle・za・ture・O-VAN』に匹敵する演算能力を持つジークルーネの存在だ。
こんなこと、今までなかった。
『Atle・za・ture・O-VAN』は、全てのアンドロイドたちの頭脳とも言える。これの最深部までアクセスできるのはアリアドネだけ。戦闘能力はゼロだが、オストローデシリーズでは一線を越えるアンドロイドだとアリアドネは自覚している。
アリアドネは、液体燃料の瓶を掴んでがぶ飲みする。
先程からジークルーネに妨害電波とウィルスを送り、同時に操作権限を取り戻すための新たなシステムを構築しているのだが、悉くブロックされる。それだけじゃない、ジークルーネもアリアドネに対してウィルスを送ってきている。アリアドネも同様にブロックをしているが、この状態になってから数分、29人の生徒は完全な置物となっていた。
「くっそ……人形どもを操作する暇がない」
人間とType-JACKはオート操作で放置している。ジークルーネの攻撃が激しく、そちらまで手が回らない。おかげで、少しずつではあるが、Type-JACKが破壊され始めている。
「あの、ガキ……ッ!! つーかアシュクロフトは何やってんだ、code06の位置特定くらいして、直でぶっ潰しに行くくらいやれっての……っ」
愚痴をこぼしながら、固形燃料の飴が入った箱に手を伸ばし、いくつもの飴を掴んで口の中へ。
ガリガリと噛み砕きながら、アリアドネはイラついていた。
「くっそ……なにもかも上手くいかねぇ!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇
ジークルーネの眼が、真紅に輝いていた。
たぶん、ずっと戦っている。俺たちにはわからない方法で。
「セージ、交代だ」
「ああ……」
「あとは私たちが護衛を。少し休憩してください」
「…………」
ルーシアとキキョウが来た。
一応、ジークルーネの周囲を警戒している。外だから丸見えだし、今のジークルーネは無防備もいいところだ。
ジークルーネは、生徒たちを取り戻すために戦っている。
生徒たちを正気に戻したら、次はオストローデ王国の住人を解放する予定だ。住人を解放すれば、敵はアンドロイドだけ……つまり、オルトリンデたちは全力で戦えるってわけだ。
俺の出番も近い……。
一度、水分補給のためにエンタープライズ号に戻ろう。
「三日月、行こう」
「うん……」
俺は、ジークルーネをジッと見ていた三日月に声をかけ、一緒にエンタープライズ号に戻る。
すると、俺を見たごま吉とジュリエッタが、ボッテンボッテンと移動してきた。
『きゅぅぅ』『もっきゅう~』
「よしよし……お前たちは最高の癒しだ」
『にゃあ』『なーご』『ぶにゃあ』『ごろごろ』『なーう』
「みんな……ありがとう」
俺にはごま吉とジュリエッタ、三日月にはネコたちが群がる。
他の仲間たちも、休憩しつつ空気がピリピリしていた。そりゃそうか、ほんの数キロ先では、数百万の軍勢が戦乙女たちと戦ってるんだ。
こんな言い方はしたくないが……修理のきかない生身のみんなは、数百万の軍勢を相手にすれば、間違いなく死ぬ。
すると、右手に巻いたバンドから声が。
『センセイ、「修理」を頼む……決着だ』
「……シグルドリーヴァ!? わかった、今すぐ修理する!!」
俺は、小分けしてケースに入れておいたシグルドリーヴァの髪を掴み『修理』を発動させる。すると、髪の毛は勢いよく飛んでいった。
シグルドリーヴァのもとへ向かい、彼女を全快させるだろう。たぶん、命令通り上位のアンドロイドと戦っているんだ。
「せんせ、どうしたの?」
「シグルドリーヴァから修理の要請だ。大丈夫」
と、三日月を安心させた瞬間。
『センセイ、お願い』
「って、アルヴィートもか!? わかった!!」
今度はアルヴィートか。
慌てて髪を引っ張りだし、すぐに『修理』を発動させる。すると、シグルドリーヴァの時と同じように、アルヴィートの髪が飛んでいった。
「ふぅ……これで安心」
「せんせ……」
「大丈夫。みんな強いから、きっと戦いを終わらせてくれるさ」
「ん……」
「全部終わったら、元の世界に帰る手段を探そう。みんなで帰ろうな」
「……せんせ」
「ん?」
三日月は、上目遣いで俺を見る。何故か悲しそうな眼で。
「わたしたち……帰れるの?」
「ああ、もちろん。この世界に来ることができたんだ。きっと帰ることだってできるさ。生徒たちは全員レベル100になったって聞くし、もしかしたら帰れる能力を持つやつがいるかもしれない」
「……うん」
不安な気持ちはわかる。
この戦いも終わりが近い。これから先のことを考えなくちゃいけない。
もしかしたら、という考えもある。
もしかしたら……帰れないかもしれないという考えも。
「…………大丈夫。きっと」
「せんせ……」
「だから、安心しろ。ジークルーネがみんなを助けたら、笑顔で迎えてあげよう。そして……この戦いを終わらせて、うまい飯でも食べよう」
「……うん。いっぱい食べる」
「ああ。そうだな」
俺は、三日月の頭に手をのせ、優しく撫でる。
三日月はネコみたいに目を細め、気持ちよさそうにしていた。
俺は……俺にしかできないことをやる。
生徒たちを取り戻し、この戦いに終止符を打つ。
人間とアンドロイドの戦いを終わらせて、新しい時代を作るんだ。
「セージ!! 来い!! ジークルーネが呼んでいる!!」
「っ!!」
ルーシアが俺を呼ぶ。
俺は立ち上がり、慌てて外へ出た。





