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クラス召喚に巻き込まれた教師、外れスキルで機械少女を修理する  作者: さとう
第一章・【戦乙女型アンドロイドcode04ブリュンヒルデ】

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18、遺跡の調査

 翌日。宿で朝食を終え、冒険者ギルドにやってきた。

 

「おーいセージ、おせーぞ」

「悪い悪い、ってかウェイドたちが早いんだよ」

「そうか? いやぁ、今日で最後だしな……」

「ああ……」


 そう、今日はウェイドたちと最後の冒険。

 レダルの町近くにある古代の遺跡、『フォルス神殿』の調査だ。

 調査と言っても依頼が出てるわけじゃない。この世界にも考古学者がいて、各地に存在する古代の遺跡を調査、発掘し、古代の文化を解明するのが目的なのだ。


「まさか、セージが考古学者になりたいとはな」

「いや、そういうわけじゃ……」

「だったら、セージの職業ジョブの教師ってなによ? セージってば先生になりたいの? いっくら登録時の職業は自由に決められるからって、先生ってのはねぇ」

「まぁまぁ、いいじゃないですか。今日が最後ですし……」

「……ふ、そうだな。淋しくなる」


 このパーティーに、遠慮はなかった。

 ウェイドの軽口も、ミシェルのツッコミも、ミーナの宥める言葉も、バーグの渋い声も、今日が最後。パーティーを組むのは初めてだったが、このパーティーでよかったと思う。


 ミシェルやミーナはブリュンヒルデによく話しかけてくれた。

 女の子同士だからか、ミシェルのサバサバした話やミーナのおっとりした話はブリュンヒルデに刺激になったと思いたい。これでブリュンヒルデが人間、いや……「女の子」という存在に興味を持ってくれればありがたいんだがなぁ。


「よし、パーティー最後の仕事、気合い入れて行こうぜ!」

「ああ、よろしく頼む!」


 ウェイドの掛け声に、俺は元気よく答えた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 町から徒歩で二時間ほどの距離に、その遺跡はあった。

 ウェイドから聞いた情報では、このフォルス神殿は祭事などを行うための神殿だったらしい。今ではF級のモンスターの住処になっているそうだ。

 ギルドで遺跡調査の許可をもらい、ウェイドパーティ最後の仕事にやってきた。


「······セージ、こんなとこで何するんだ?」

「調査だよ調査、俺のチートを検証する」

「セージさんのチートを検証、ですか?」


 バーグとミーナが訝しむ。

 俺が指輪持ちってのは知ってるが、どんなチートなのかみんなは知らない。冒険者の間では、指輪持ちのチートを聞くのはマナー違反なのだそうだ。

 俺も軽ーく、『普段は役に立たないチート』としか言ってない。気になるのも当然だろう。


「ここは地下二階までしかない。でもワーム系のモンスターがわんさと湧いてるから気をつけろよ」

「わかった」

「セージのチートって戦闘系じゃないの?」

「うん、戦闘じゃまるで役に立たない。今までだってブリュンヒルデに任せてたしな」

「ふーん······」


 このパーティで戦闘するのは初めてだ。

 今までは町中での依頼だったし、外に出る薬草採取の仕事もモンスターに遭遇しなかったしな。

 というわけで、さっそく遺跡調査開始だ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 遺跡内は朽ちていた。

 ところどころに穴が空き、外の光が差し込んでいる。これならランプなどはいらないな。

 さて、さっそくやってみるか。


「とりあえず、手頃な壁に」


 俺は壁に手を添えて念じる······が、何も起こらなかった。

 そもそも、この岩壁······オストローデ王国にあった遺跡となんか違う。もしかしてだが、この神殿そのものは後付で建てられた物かもしれない。

 ウェイドたちに聞いたが、四人は全員首を振る。どうも遺跡に興味はないようだ。

 となると、ここはブリュンヒルデだ。


『センセイ、ここはアンドロイド側の施設である可能性があります』

「そうなのか?」

『はい。地下から微弱な電波を感知。信号パターンからアンドロイド側の兵器である可能性が高いです』

「微弱な電波って······俺、まだ何もやってないけど」

『設備の一部が稼働してる可能性があります』

「そうなのか?······すげぇな」


 十万年前の設備が動いてるとか、昔の技術がどれだけ高かったのかを窺わせる。

 モンスターが現れることもなく、地下へ続く階段を見つけた。

 階段を降りると、神殿とは違う作りの床や壁になる。


「······これ、オストローデの遺跡と似た材質だ」


 手で触れるが特に何も起こらない。

 地下だから暗いと思ったけど、不思議な薄ぼんやりとした光が周囲を照らし、ランプの光はいらないくらい明るかった。

 どうも、壁がほんのり発光してるらしい。


「なぁセージ、こんなとこ見て意味あるのか?」

「まぁな。まだわからんけど」

「なにそれ? まぁいいけどさ」

 

 壁をペシペシ叩いたり、落ちてる石を拾ったりしてる俺は、さぞかし怪しく見えるだろう。現にウェイドたちは首を傾げてるし。


「それより、早く最下層に行こうぜ。面白いモンがあるんだよ」

「面白いモン?」

「はい、みなさん行きましょう!」


 ウェイドとミーナがせかし、不思議に思いながら最下層へ。

 あまり遺跡に興味がなさそうだったのに、急にイキイキしてきた。もしかして……この遺跡に眠る、古代の何かがあるのかもしれない。

 最下層の階段を下りると、長く伸びた通路だけがある。

 通路はボンヤリと明るく、モンスターなど影も形もない。

 俺たちは、ゆっくりと通路を進む。そして通路の一番奥が、半円形の空間になっているのに気が付いた。

 空間の中は見事に何もない。うすぼんやりとしてるだけ。

 でも、俺からすればいかにも怪しい部屋だ。もしかしたら、俺のチートが関け。



「動くな」




 冷たい何かが、背後から突き付けられた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 冗談、だと想った。

 ゆっくり振り返ると……ウェイドが薄く嗤い、俺の首に剣を突きつけていた。


「うぇ………ウェイ、ど?」

「悪いなセージ、カバンをよこしな」

「え……」

「カバンだよ、かーばーん。その中、大金が入ってるんだろ?」

「な……」


 なぜ。

 防具屋で換金した金貨200枚。剣に使用したから残り140枚残ってる。

 このことは俺とブリュンヒルデしか知らない……どうして。

 

「ぶ、ブリュンヒルデ……」

「おい動くな。お嬢ちゃんはあっちだぜ」

「はぁ~い♪ この子、ぜ~んぜん動かないから楽勝だったわ♪ ふふふ、見た目通りの可愛いお嬢ちゃんねぇ」

『……………』

「あははっ♪ それよりもセージさん、早くカバンを渡してください。渡さないと……」

「……わかるな?」


 ブリュンヒルデの背後から抱きつくようにミシェルが、杖を掲げケラケラ嗤うミーナが、腕を組み見下すように嗤うバーグが、そこにいた。

 ミシェルはブリュンヒルデの首に両腕を回し、両手に持ったナイフを交差するようにブリュンヒルデの首に当てている。


「おらセージ、カバンよこせよ。お嬢ちゃんがどうなってもいいのか?」

「あ……ま、待て!! ブリュンヒルデに手を出すな、カバンなら渡す!!」


 俺はショルダーバッグをウェイドに渡す。

 するとウェイドはカバンをひったくりバーグに投げ、俺の腹に蹴りを入れた。

 俺はそのまま転がり、ミシェルたちがゲラゲラ嗤うのが聞こえた。


「渡せっつったらさっさと渡せ、このボケ」

「ぐ……が……な、なん、で?」

「決まってんだろ、お前が防具屋で換金してんのも、大量の金貨を持ってることも知ってる。おい!! お嬢ちゃんの剣を回収しとけ、後で売っ払う。

「おう、わかった」


 バーグは、ピクリとも動かないブリュンヒルデの剣を取り上げる。

 ウェイドは俺に近付き、帯刀していた刀を取り上げた。


「ははは、なりたてってのはいいカモだぜ。ちょ~っといい顔すればコロッとダマされる。しかも、こんな大金持って歩くなんて、バッカじゃねぇの?」

「ウェイド……っ!! なんで、どうして……」

「教えてやるよ、お前さぁ、最初から狙われてたんだよ」

「え……」

「本当なら、金を手にした時点で甘~い顔して近付いて、薬草採取のときに金を奪えばよかったんだけどよ、お前は『指輪持ち』だからな。どんな隠し球があるかわからねぇ以上、慎重に進めざるを得なかった。でも……この遺跡調査でハッキリしたぜ。お前のチートは戦闘系じゃねぇってな」


 尻餅をついてる俺に、ウェイドは剣を突きつける。

 これは誰だ。ウェイドはこんな醜悪な笑みを浮かべるヤツじゃない。

 ミシェルも、バーグも、ミーナも、こんな風に嗤ったりしない。


「悪いけど、ここで死んでもらうぜ。お前は知らないだろうが、ここの遺跡はF級以上の冒険者しか入れない決まりになってるけどよ、ここ数年調査する奴なんていないんだよ。だから、なりたてF級冒険者のお前たちがここで死んでもだーれも気付かないってワケだ」

「ウェイド……なんで、どうして……信じてたのに、仲間だって想ってたのに」

「そりゃお前だけだ。オレらは最初から、お前の持つ大金だけが目当てだっただけだ」

「…………ウェイド」


 始めから、大金だけ。

 初めて、この世界で仲間に出会えた、そう想った。

 一緒に酒の飲み、メシを食い、バカ騒ぎもした。

 それらは全部……ウソだった。

 俺は、突き付けられてる剣も忘れ、項垂れた。


「ねぇウェイド、さっさと支払い・・・してお金ゲットしよ!!」

「はぁ~♪ これで新しい杖が新調できますぅ♪」

「……やれやれ」


 ミシェルも、ミーナも、バーグも、嗤っていた。

 こいつらは、俺のことなんて……。



『質問があります』



 ブリュンヒルデの声は、不思議なほど空間に響いた。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 俺を含めた全ての視線がブリュンヒルデに集まる。

 ミシェルは、双剣を握る手に力を込めたのがわかったが、そんなことを意に介さずブリュンヒルデは続けた。


『あなた方は、センセイの友人ではなかったのですか? センセイに優しくしたのは、センセイと『絆』を結ぶためではなかったのですか?』


 ブリュンヒルデは、俺の教えを問うた。

 予想外の質問に、ウェイドたちはゲラゲラ嗤う。


「絆? きずなぁ~~っ? ぎゃははははっ!! バッカじゃねぇの? こんななりたて冒険者と友人だぁ?」

「あっははははっ!! 可愛い顔して大したオバカちゃんねぇ? いい、絆ってのは対等な相手としか結べないの。あたしたちの関係はねぇ……搾取する側と、される側よ?」

「うふふ……これまで仲良くやってきて裏切られた、その気持ちはどうですか?」

「まったく、実に馬鹿らしい。金だけ手に入れば貴様らなど用無しだ」


 ブリュンヒルデは、ポツリと呟く。


『嘲笑・裏切り・欲望。人間の負・醜い感情。これも人間なのですね』

「ブリュンヒルデ……?」

『センセイ、宿題が完成しました』

「はぁ? ちょっとお嬢ちゃん、バカ言ってないで……」


 次の瞬間、ブリュンヒルデの裏拳がミシェルの顔面を潰した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「っっびゅあっ!?」


 あまりにも突然の裏拳に、ミシェルは反応できなかった。というか、ブリュンヒルデの動きが速すぎてミシェルは一瞬、なにが起こったのか理解できない。

 

「ぐ、が……ごっぶぇっ!?」


 そして、腹部に強烈な衝撃。

 ブリュンヒルデが強烈な肘打ちを食らわせ、ミシェルの身体がくの字に折れる。


『行動不能にします』

「は……っっぎょっぼぇぇぇぇぇっ!?」


 振り向きと同時に繰り出されたのは、ミシェルの顎を粉々に砕く威力が込められたアッパー。

 ミシェルの歯は砕け、あまりの衝撃に空中で身体が高速回転し、顔面から地面に叩き付けられて動かなくなった。

 呆然とする一同。

 そして、ミシェルが空中で手放した二本のナイフをブリュンヒルデはキャッチ。

 アンドロイドとして破格の腕力を持つブリュンヒルデは、ミーナに向けてナイフを全力で投擲した。


「えっ……っぎゃあっう!?」


 ミシェルの惨状に思考がオーバーヒートしたミーナは、ナイフが右腕の肩と手のひらに突き刺さり、そのまま吹っ飛ばされ壁に縫い付けられたことを理解していなかった。

 あまりの威力に、肩がねじ切られ切断寸前。右手の指が全て消失した事実に気が付かず、大量出血と激痛によりようやく理解した。


「う゛ぅぅあーーーーーっ!! う゛ぅぅう゛あ゛ぁ゛ーーーーーっ!?」


 声にならない声。涙と鼻水とヨダレがミーナの顔面を濡らし、ブチブチと肩の肉が裂ける音がした。

 バーグは、ようやくブリュンヒルデが只者でないと知り、こちらへ向かうブリュンヒルデを迎撃しようと拳を振り上げる。


「この、ガキがあぁぁぁっ!!」


 鍛え抜かれた左腕から繰り出される拳は、バーグの自慢。

 岩をも砕く、とまではいかないが、いつかは岩を砕いてやる。それくらい、自分の肉体に誇りを持っていた。

 そしてバーグ自慢の左拳は、ブリュンヒルデの拳と衝突し、メチャクチャな破壊を巻き起こす。

 皮膚が破け、骨が砕け、筋肉と血が飛び散る。バーグの左腕は血肉のシャワーを撒き散らしながら消失した。


「グぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーッ!」


 肉体の消失という現実に、バーグの心はあっさり折れた。

 子供のように喚き、地面をゴロゴロ転がる。

 ミシェルは顔面を地面にくっつけたままピクピク動き、ミーナは切断寸前の右腕をブチブチと引っ張り、バーグは消失した左腕を押さえながら泣きわめいていた。

 それらを見ることなく、ブリュンヒルデの目はウェイドへ。


『あなたは、センセイの友人ではなかった』

「ひっ、ひっ……ち、ちち、近付くんじゃねぇこのバケモノ!! ここ、こいつを殺すぞっ!!」

「……っ!!」


 ウェイドの剣が俺に向けられる。

 だが、ブリュンヒルデの表情は全く変わらなかった。


『人に優しくされたら、人に優しくする』


 ブリュンヒルデは、静かに語る。


『センセイは、あなた達に優しくされたから、あなた達に優しくした。センセイは、あなた達を友人と言った。あなた達にとって、センセイは友人ではなかった』


 ブリュンヒルデは、小さく1歩を踏み出した。


『これは裏切り。人間の負の感情。私のメモリーに残る、私たち『戦乙女型』が造られた理由の1つ』


 ブリュンヒルデの姿が消えた。

 一瞬で、瞬きする間に消えたと想った。


「え?」


 ウェイドの間抜けな声が響き、俺は見た。

 ウェイドの両腕は、肘の先から消失していた。

 そうか、ブリュンヒルデのヤツ、ウェイドが腰に下げていた俺の刀を一瞬で抜き、ウェイドの両腕を切断したんだ。

 信じられない物を見るように、消失した腕を見つめるウェイド。


『人間は裏切る。これが宿題の最後の答え』


 ブリュンヒルデは、小さく呟いた。

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