167、ヴァンピーア王国
15箇所目の遺跡調査を終えたオルトリンデ一行。
「はぁ~……ったく、碌なモンがねぇな」
「仕方ありませんわ。そう簡単に見つかるはずありませんもの」
「うっす!!」
「妹さん、ですよね……」
女神の剣からもらった地図を基に、遺跡調査を進めていた。
成果はイマイチだ。本当にただの遺跡か、アンドロイド軍が造った『兵器製造工場』のどちらかしか見つからない。しかも製造工場は完全に朽ちてガラクタしかなかった。
「センセイのヤツは、本当に強運なんだな」
「ええ。ブリュンヒルデちゃんにジークルーネちゃん、【戦乙女の遺産】をいくつも発見してますからねぇ……わたくしたちの運がないだけかもですが」
「ちっ……」
現在、次の遺跡に向かうため、居住車内で地図を広げている。
細かい場所はそこそこ周り、いくつかの可能性が浮上してきた。
「まず、ヴァンピーア領土にレギンレイブがいねぇ可能性もある」
「ええ。その可能性も強いですわね」
「え……妹さん、いないんですか?」
「可能性だ。もしかしたら、この領土にいないかもしれねぇ」
セージたちも、マジカライズやフォーヴ、ディザードやユグドラシルを全て調査したワケではない。もしかしたら、今までの旅で見落としがある可能性も否定できない。
そして、遺跡荒らしの件もある。
「遺跡荒らしにも遭わねぇし、アタシらってホントに持ってねぇよな」
「そうかもですわね……ふふ、ちょっぴり面白いですわ」
「笑えねーよ……」
これには、オルトリンデも苦笑した。
エレオノールは、ピーちゃんを抱きしめながら地図を眺めている。
「次はどこに行きます?」
「そーだな……」
このまましらみつぶしに探すのもいいが、効率が悪すぎる。
どうしたものかと、4人は思案する。
すると、意外な声が上がった。
『きゅぴー』
「わわ、どうしたのピーちゃん?」
『きゅっぴ!!』
エレオノールの胸からピーちゃんがテーブルの上に飛び降り、地図の上をペタペタ歩く。
そして、地図の一部をペシペシ叩き始めたのだ。
「ど、どうしたのピーちゃん」
『きゅぴ!!』
「ん……なんだ? ヴァンピーア王国?」
ピーちゃんがヒレでペシペシ叩いたのは、ヴァンピーア領土の中心にして主要国家である『ヴァンピーア王国』だった。
地図には、王国内に遺跡があることが示されてる。
「なーるほど。おいピー助、ここに行けってことか?」
『きゅぴーっ!!』
「面白ぇ。いいぜ、オメーの勘を信じてやる。ライオット、進路をヴァンピーア王国へ向けろ」
「うっす!!」
「お、お姉さま!?」
「オルトリンデさん!?」
さすがに、ヴァルトラウテとエレオノールは驚いた。
だが、オルトリンデは特に気にしていない。
「どうせ調べるんだ。別にいいだろ」
「……はぁ、わかりましたわ」
「え、え……で、でも」
「ウダウダ言うな。もう決定だ」
「はぅぅ……」
こうして一行は、ヴァンピーア王国へ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ライオットが居住車を引いて進むこと数日。
一行は、ヴァンピーア領土の王が住む国である、ヴァンピーア王国へやってきた。
「見えてきました、ヴァンピーア王国です!」
「ああ。んなことより地図を確認しろ。このあたりにいくつか小さい遺跡があるようだぜ」
「はぁ······お姉さま、エレオノールちゃんの気持ちを考えてくださいな」
「はぁ?」
仲間との旅にワクワクしてるエレオノールをぶった切るオルトリンデを、ヴァルトラウテは強めに叱咤する。
だが、オルトリンデは構わず続けた。
「いいから見ろ。地図を見ると、町中に1つ、外に8つある。町を拠点にして手分けして探すぞ」
ため息を吐きつつヴァルトラウテは同意し、エレオノールは苦笑した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ヴァンピーア王国。
『大魔王サタナエル』が治める王国で、吸血鬼の住まう王国。
王国の中心にサタナエルの住まう『夜王城』があり、そこを中心に円が広がるように、吸血鬼たちの住居がある。
もしセージや三日月がいたら、ドーナツのような王国だなと感想を漏らすだろう。
ちなみに、位の高い吸血鬼ほど、夜王城の傍に住居を構えることができる。
「そーいえばエレオノール、オメーの吸血鬼としての位は?」
「わ、わたしですか? ええと······一応、『大公』です」
「大公と言うと······まぁ、最高位ではありませんか」
「は、はい······ギルドの人たちがサタナエル様に申請したみたいで、通っちゃいました」
つまり、魔王、大公、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の順番から2番目である。
夜王城に居を構える吸血貴族たちより上の位だった。
「じゃあオメー、領地を貰えるし貴族暮らしもできるんだろ? なんで冒険者やってんだよ」
「······わたしには誰も近づけませんし、冒険してた方が楽しいから。それに······」
いつか、自分の力でも眠らない人たちに会えるかもしれない。
「それに? なんだよ」
「······いえ、もう叶っちゃいましたから」
「?」
オルトリンデとヴァルトラウテは首を傾げる。
エレオノールは笑い、ピーちゃんを抱きしめる。
「·····まぁいい。とにかく、町のギルドに居住車を止めて、二手に分かれて遺跡調査だ」
「はい。ではわたくしはエレオノールちゃんと一緒に行きますわ。お姉さまはライオットさんとお願いしますわね」
「おう。なんかあったら通信しろ」
居住車は、ヴァンピーア王国へ。