145、MIDBOSS ティターン・Type-LUKE③/戦乙女は無敵です
ブリュンヒルデは、上空を駆ける。
天馬ヴィングスコルニルは、エルフたちから見ると、奇跡そのものだった。
銀馬に跨がりし美しき少女が、エルフの象徴でもある大樹ユグドラシルを守るために戦っている。奇跡を携えて槍を振るう姿は、あまりにも神々しく見えた。
そして、怪我を押して立ち上がったドワーフのゼドは叫ぶ。
「おらオメーら手ぇ止めんじゃねぇぞ!!」
「やかましいドワーフ!! 下手くそな弓でも射ってろ!!」
ゼドに反論したのは、アルシェの兄であり王族のアシュマーだ。
「ふん、減らず口叩くヒマぁねぇぞ!! ブリュンヒルデの援護をしろぉっ!!」
「命令するのは私だ!! 貴様は黙って………ブリュンヒルデ? あの少女の名か?」
「そうじゃ!! あのバケモンを倒せるのはアイツだけじゃ!!」
ゼドは、なぜか嬉しそうに弓に矢を番え、エルフから見れば下手くそな腕で射る。
恐らく、セージが上手くやったんだろうと確信を持ちながら。
きっと、この戦いは勝てる。そう信じて矢を番える。
「おーし、正念場じゃぁぁっ!!」
「だから仕切るなドワーフ!!」
下手くそな弓で射った矢は、力強く飛んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ゼドの心情とは裏腹に、ブリュンヒルデは攻めあぐねていた。
『……硬い』
ブリュンヒルデの攻撃は、カラミティジャケットに決定的なダメージを与えられない。そもそも、カラミティジャケットの装甲が厚すぎるのだ。
それに加え、エルフの魔術もダメージを与えられていない。むしろ、カラミティジャケットが放つミサイルや機銃をブリュンヒルデが防御していた。
神槍ロンゴミニアドでは決定的なダメージを与えられない。だが、エクスカリヴァーンの通常斬撃でも装甲は傷付くが、内部までダメージを浸透させる頃には、この大樹ユグドラシルは倒壊しているだろう。
『乙女神技』なら可能性はあるが、チャージタイムに時間が掛かるし、その間は無防備になる。
ヴィングスコルニルの攻撃は、正直当てにならない。何故なら、ヴィングスコルニルの真骨頂は高速戦闘にある。通常形態である『モード・TENMA』では空中戦闘、高速戦闘形態である『モード・CYCLE』では地上戦闘がメイン。この巨体相手では圧倒的に不利。
ヴィングスコルニルの弱点。それは、火力不足。
『…………』
ついてない、ブリュンヒルデはそう考える。
オルトリンデやヴァルトラウテとの戦いも、最悪の相性だった。もし、2人が万全の状態だったら、ブリュンヒルデは間違いなく敗北していたであろう。
躯体疲労による劣化がなければ、ああも上手く闘えなかった。
『それでも、戦闘を続行します』
ブリュンヒルデは、諦めない。
なぜなら、頼まれたから。
───────────頼んだぞ。
センセイが、自分に頼むと言ったから。
『カラミティジャケット・Type-LUKEを破壊します』
右手剣エクスカリバー、左手剣カリヴァーンを構える。
持てる手を全て使い、勝利の道を切り開く。
すると、カラミティジャケットは大樹ユグドラシルからブリュンヒルデに攻撃を切り替える。
降り注ぐ魔術は脅威でないと判断したのか、姿勢を変えてブリュンヒルデに向き直る。
───────────好都合。
カラミティジャケットは、ボディの一部をスライドさせる。
そこには、無数の穴……ミサイル発射口が見えた。
『発射』
数百発のミサイルが発射される。
狙いは全弾ブリュンヒルデ。だが、ブリュンヒルデは逃げない。
1発でも森に落ちれば、爆発、そして火事になる。
森には、センセイがいる。
『迎撃しま───────────「お任せを」
ブリュンヒルデの目の前に、エメラルドの六角盾が12枚展開された。
それらは全て独立、浮遊し、それぞれが特殊なビームシールド。物理的衝撃だけでなく、レーザーも無効化する万能盾。
その盾が広がり、それぞれが支点となり、特殊な力場を形成した。
『…………これは』
「はぁい、ブリュンヒルデちゃん♪」
ブリュンヒルデの背後から現れたのは、亀のような円盤に乗ったcode03・ヴァルトラウテだった。
あれほど劣化の激しかったボディは全快している。もちろん、センセイの存在があるので不思議に思っていない。問題なのはこの兵器だ。
「この子、亀翁クルーマ・アクパーラって言うの。センセイがくれたプレゼントよ♪」
『第二着装形態の獲得ですね。ヴァルトラウテお姉さま』
「ええ………って、あなた、ブリュンヒルデちゃん?」
『はい。私はcode04ブリュンヒルデです』
「んー?…………なんか変わったわね」
ヴァルトラウテは、銀色のゆるふわウェーブを揺らしながら首を捻る。
すると突然、カラミティジャケットが爆発を起こした。
「くぉらぁっ!! ヴァルトラウテにブリュンヒルデ、無駄話してんじゃねぇぞ!!」
「あらら、オルトリンデお姉さま……もう、いっつも野蛮なんだから」
「やっっかましい!! いいからさっさとコイツをぶっ壊すぞ!! ひっさしぶりにボディの調子がいいからな、それにこの火力!! 楽しくってしょうがねぇっ!!」
オルトリンデは、駆動鎧と化したモーガン・ムインファウルに乗っていた。
移動はキャタピラで地面を抉りながら進むという荒っぽい方法だ。どうやら飛行能力はないらしい。
だが、背部には12門の砲身が光り、脚部にはミサイルポッド、両腕には大型ガトリングガンとレールガンが装備されている。
もちろん、武装はこれだけじゃない。走る無敵砲台の武装は、666ある。
結論から言おう。
カラミティジャケットは、オルトリンデが現れた時点で敗北が確定した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ぎゃっはっはぁぁぁぁーーーーーっ!!」
オルトリンデは、今までの鬱憤を晴らすかのように撃ちまくった。
ミサイル数百発、ガトリングガンとレールガン、レーザー光線、とにかく撃ちまくった。
カラミティジャケットは、反撃しようと武装を展開するが、ミサイル発射口を開いた時点で爆発した。オルトリンデの放ったミサイルが、発射口に潜り込み爆発を起こしたのだ。
「お姉さま……なんと荒っぽい。まるで獣ですわね」
「うっせーぞヴァルトラウテ!! オメーは周りを守ってろ!!」
「はいはい」
『…………』
ブリュンヒルデは、オルトリンデの砲撃を見つつ、カラミティジャケットを分析した。
そして………本体であり動力源である、Type-LUKEを発見する。
『ヴァルトラウテお姉さま。動力源を発見。破壊します』
「ええ、オルトリンデお姉さまは気付いてないないみたい。ブリュンヒルデちゃんが終わらせて」
『はい』
ブリュンヒルデは更なる上空に飛び、双剣を槍に変える。
そして、動力源であるType-LUKE……人間で言う胸部、心臓部で無数のコードに繋がれているType-LUKEに狙いを定めた。
『終わりです』
ブリュンヒルデは、神槍ロンゴミニアドを投擲した。
槍は、Type-LUKEの胸部に直撃。両腕と両足を吹き飛ばした。
「あ?……おい、何してんだよブリュンヒルデ!!」
オルトリンデの砲撃が止まる。
ライオットが破壊され、原型を失いつつあったカラミティジャケットが停止、ゆっくりと地面に崩れ落ちていった。
ヴァルトラウテが着陸し、不満そうなオルトリンデを宥め、ブリュンヒルデは上空で、カラミティジャケットの完全停止を確認した。
『破壊完了しました』
こうして、アンドロイドたちとの戦いは収束した。