13、決まりごと
地図を広げたはいいが、亡き集落の長の家の前だと邪魔になる。とりあえず地図を閉じて、集落の出口まで移動した。
そこで改めて地図を開く。
「これが世界図か······」
『私が起動していた時代と大きく変わっています』
この世界は、簡単に言えば岩手県みたいな形をしていた。つまり楕円形の大陸で、周囲は海に囲まれ島が点々と存在している。
地図はなかなか詳細に記されている。
まず、俺たちがいるのは岩手県の左上。つまり最西端の『レドの集落』だ。全く見えないけど海沿いにある。もしかしたら海が近いのかな。
レドの集落から東に進むと『レダルの町』がある。地図上ではすぐ近くだが、実際に進んでみないとわからない。
「······よし、目的地はレダルの町だ。そこでこの世界の情報を集めよう。それとブリュンヒルデ、この世界の古代遺跡ってのは、お前の起動していた時代の建物······なんだよな?」
『はい。恐らくですが、私の姉妹機・換装武器・特殊兵器などが残っている可能性があります。マスターの『修理』を使用すれば使えるかもしれません』
「なるほど······じゃあ、遺跡があったら調査してみるか。俺のチートのレベルも上げないとな」
目的は情報集めと遺跡調査。なんか考古学者みたいだな。
というか、服も変えないと不味いな。これってオストローデ王国の軍服だし、知ってる人が見たらどんな反応するかわからん。
とりあえず方針が決まったので東へ向かう。
ブリュンヒルデは地図情報をインプットしたらしく、その後に続けば間違いない。
ひょんなことから異世界の旅が始まってしまった。しかも相方はアンドロイド少女だし。
それに、ブリュンヒルデのこともいろいろ決めないとな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
日も暮れたので、川沿いでキャンプする。
薪を拾って火を起こす。火があるだけでも安心する。
もらった食料はパンと干し肉だったので、パンを軽く炙って干し肉を挟んで食べた。
こんな言い方はアレだが、ぶっちゃけ美味しくない。オストローデ王国で食べた食事が懐かしい。
さて、食事も終わったしブリュンヒルデと話す。
「ブリュンヒルデ、いくつかルールを決めておこう」
『はい』
「まず、お前にこれをやる」
俺はブリュンヒルデに、装備していた鉄の剣を渡す。
「いいか、あのエクスなんちゃらは使用禁止」
『理解不能。『乙女神剣エクスカリヴァーン・アクセプト』は私にインストールされている唯一の武装です。武器の不使用による戦闘力は8割ダウン。非効率的です』
「あのな······あれは目立ち過ぎる。江戸時代の真剣勝負でライトセーバー振り回すようなモンだぞ。それとも、普通の剣は使えないか?」
『問題ありません』
「ないのかよ。とにかく、普通の剣で我慢してくれ」
『マスター、この剣は不純物が多い鉄を使用しています。私の性能をフルに引き出すことができません』
「でもなぁ……あまり目立つのはよくない。エクスなんちゃらは命の危険が迫った時に使うようにしてくれ」
『わかりました。命令を遂行します』
「あと、俺のことをマスターって呼ばないでくれ。なんか気になる」
『では、なんとお呼びすればよろしいでしょうか』
「そうだな…………先生、とか」
『わかりました。マスターの呼称をセンセイに変更します』
「なんかニュアンスが……まぁいいか。あと、これは重要なことだ。いいか……人を殺すのはダメだ」
『何故でしょうか。悪意を持ちセンセイに危害を加えようとする人間を排除する最も有効な手段は、生命活動を停止させることです』
「あのな……死んだらそれで終わりなんだぞ。いくら悪人だからって、むやみやたらに殺すのはダメだ」
『わかりました。これより対人戦闘を行う場合、手加減を加えます』
「……うん、それでいい」
なんか、物分かりが良すぎる。
俺の言うことは絶対なのか、理由は聞くけど明確な反対はしない。
あと、できればもう一つ。
「なぁブリュンヒルデ、その……お前の喋り方、もうちょっとこう……」
『?』
うぉ、ブリュンヒルデがコテンと首を傾げた……けど、無表情だ。
失礼かもだが、ブリュンヒルデの喋り方は機械音声っぽいんだよな。自動音声案内っぽい無感情な喋り方……もう少しこう、青木みたいに喜怒哀楽豊かな喋りをしてほしい。
俺は焚き火に薪を足す。すると木の水分が多いのか、パチッと爆ぜる。
せっかくなので、話題を変える。
「……なぁ、ブリュンヒルデ」
『はい』
「お前は、人間に造られたんだよな?」
『はい。私たち『戦乙女型』は、アンドロイドを滅ぼすために造られました』
「……お前を造ったのは、どんな人だ?」
『メモリデータが一部破損。よって検索不可。詳細は不明。姉妹機である戦乙女型ならわかるかもしれません。ですが断片的な情報なら獲得できました』
人間とアンドロイドの戦争。
そして、アンドロイドを滅ぼすために造られたアンドロイド。『戦乙女型』。
それらを造ったのはどんな人間なのか。ブリュンヒルデは言った。
『私たちの制作者は、センセイと同じ『修理』のチートを使用していました』
焚き火が、パチッと爆ぜた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日。
川沿いの木の下で寝ていた俺を、ブリュンヒルデが起こしてくれる。
全くの無表情で身体を揺するからちょっとビビった。
『おはようございますセンセイ。朝食を摂取後に出発を提案します』
「提案も何も……わかった、さっさと食べて行くか。できれば今日中に『レダルの町』に着きたいからな」
顔を洗い、昨日と同じ炙ったパンと干し肉で朝食を済ませ、川の水をがぶ飲みして出発した。
町に着いたらいろいろ買い物しないと。服に装備に旅の道具、金もそんなにないし、このオストローデ王国の制服を売って金を作るか。
これからのことを考えると、路銀が必要だな……となると、やっぱりあれか。
「冒険者……異世界の定番中の定番か。オストローデ王国にも冒険者ギルドはあったけど……あれって冒険者も魔導兵士だっていうのか?」
と、一人言を呟いてしまう。
天気も穏やかで冒険日和。状況はそんなによくないが、ブリュンヒルデと一緒に街道をのんびり歩いていると、旅をしてるって気分になる。
それにしても、こういうのって中津川とか篠原みたいな主人公タイプが経験することだよな。なんで俺みたいな、異世界召喚の余り物教師が……う~ん、テンプレ的には俺でいいのか?
『センセイ、モンスターです』
「ああ、モンスターね………え!?」
下らないことを考えすぎたのか、街道脇の藪がガサガサと揺れ、そこから三メートルほどの二足歩行のブタが現れた。手には丸太を持ってる……なにこれ?
『個体名称・オーク。現在の装備で対処可能。戦闘許可を』
「たた、たのむ!!」
『了解。戦闘態勢に移行』
ブリュンヒルデは腰に下げた鉄の剣を抜き、一瞬で懐に潜り込み、オークの開いた足に剣を入れ、そのまま一気に切り上げた……龍翔○かよ。
オークは声を上げる間もなく縦に割れた………グロォ。
『戦闘終了。各部チェック、問題ありません。……センセイ』
「は、はい?」
ブリュンヒルデは、無感情で剣を見せる。
剣はヒビが入り、所々が欠けていた。
『純度の低い金属では私の力に耐えることができません。『乙女神剣エクスカリヴァーン・アクセプト』の使用許可を求めます』
「………お前、ホントは使いたいんだろ?」
たった一撃でボロボロになる剣が脆いのか、それともブリュンヒルデのヤツがワザとこうしたのか……まぁ、この子なりの感情表現と捉えておくか。
結局、エクスなんとかの使用を許可した。人前や町の近くでは使わないことを条件にし、町に着いたらもうちょっと質のいい剣を買うことにしたけどな。あの剣はデカいし目立つ。
レダルの町まで、もう少しだ。





