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4. ニュース

　ところが、ケイの明るさは長く続かなかった。

　菅谷（すがや）が深夜まで仕事をしていたときのことだ。久しぶりにケイから電話がかかって来た。

「よお、ケイ。どうした？」

　菅谷はいつもの調子で話しかけたが、ケイの反応は鈍かった。

『菅谷さん……』

　声は涙ぐんでいる様子だった。鼻をすする音が聞こえる。

「ケイ、何かあったのか？」

　様子が尋常でないことを察し、菅谷は真顔で尋ねた。

　すると――

『ぼ、僕……クラスのみんなを殺したんだ……』

「――っ!?」

　菅谷は聞き間違えかと思った。最近のケイは、好きな女の子の存在もあって、学校へ行くのが楽しいと言っていたはずだ。それがどうして殺さなくてはいけないのか。

「おい、ケイ！　どうしてだ？　どうしてそんなことを！」

『菅谷さん……前に僕が好きな女の子がいるって話をしたよね？』

「ああ、憶えてるよ」

『クラスのみんなは、そのことを知っていたみたいなんだ。みんなは僕をからかって、その女の子に告白するよう囃（はや）し立てた……僕は仕方なく、告白した……それなのに……彼女、笑い出したんだ……彼女だけじゃない……クラスのみんながだよ！　僕はからかわれていたんだ……みんな、僕のことをずっと前からバカにしていたんだ！』

「ケイ！　君の気持ちは分かる！　だけど、だからって何もクラス全員を──」

『もう手遅れだよ！　今、そのニュースをテレビでやってる』

　菅谷は慌てて、編集部にあるテレビを点けてみた。深夜のニュース番組がバスの転落事故を報じている。

　内容が分かるにつれ、菅谷は身体が震えた。

　入間市の高校生を乗せた修学旅行のバスで、乗員乗客三十五名が全員死亡――

　大惨事だった。

　茫然とそのニュースを見ながら、菅谷は自分の椅子に腰を落とした。

『一昨日、クラスのみんなを写真に撮ったんだ。あのライカでね。みんなが一緒に死ぬなら、修学旅行のときだと思ったよ。だから僕は参加しなかった。あんな人たちの巻き添えはごめんだからね』

　受話器の向こうのケイは、泣き声から、いつの間にか笑い声に変わっていた。菅谷はゾッとする。

「ケイ！　こんなことをして、君の怒りは収まるのか？　君には良心の呵責というものがないのか！」

『お説教なんかいらないよ！　僕は僕を見下した人たちに復讐しただけさ！　悪いことをすれば罰を受けるのは当然でしょ！』

「ケイ――！」

『……残念だな。菅谷さんなら、僕のことを分かってくれると思ったのに』

　電話はそれきり切れた。