#1_出会い
本作品は連載物を想定して書いております。
小説に関して、私は初心者です。文章、表現、内容、全てに未熟さが表れていると思います。
その点は申し訳ない気持ちがありますが、成長できるよう頑張りますので、見守って頂ければ幸いです。
なぜだろう。たった数分で信用してしまった。人間嫌いのこの人のことを。
新社会人としての1日が始まった。門をくぐる時のドキドキする感じは入学式とは違う特別な感じだ。
「ちょっと、そこのあなた。」
突然呼ばれて、慌てて何でしょうかと答えた。
「あのね、社員証出してもらえますか?」
守衛所の窓からから日焼けした白髪の男性が顔を出している。
「門通る時は社員証を提示してもらうルールなんだよ。あなた新人さんだよね?」
「はい。楠本咲恵と言います。今日からお世話になります。」
「そうかそうか。頑張ってな。」
私はついでにとばかりに集合場所である会議室の場所を聞き、エレベータホールへ向かった。
会議室には人事担当者と同期が数名いた。机の上に置かれた名札を眺め、窓際の『楠本』を見つけた。
午前中はオリエンテーション、午後は部署に顔を出すという日程らしい。
プロジェクターからスクリーンに映し出される会社の概要はあまりに退屈で、寝ないように何か考え事しなきゃ、昼休みまでのあと30分がすごく長く感じる。
なんとなく選んだこの会社。合わなきゃ転職とかもいいかな。先輩の話やネットのコメントだとブラック企業という訳ではないようだし、しばらく働いて適当に寿退社でもいいか。不安はあるけど人間関係で悩むのは勿体ないよな。昔から上下関係で苦労したこともないし、真面目に頑張っていればなんとかなるかな。
ぱっと部屋の照明がつき、夢と現実の狭間から抜け出した。
昼食後、会議室の扉を開くと中にいた全員が自分の方に顔を向けた。午後は自分の所属部署に行くからか空気が張り詰めていた。
「楠本さん。部署の方が来られましたよ。」
人事担当者に呼ばれ、廊下へ出ると課長が立っていた。会うのは面接以来だ。簡単な自己紹介を終え、早速向かおうかと歩き出した。
部署の扉を開けると、パソコンのキーボードの音とマウスのクリック音が響いている。壁には行動予定表と書かれたホワイトボードが掛かっていた。10人の課か、人数少ないと仲いいのかなと考えたところで短絡的な自分の思考力に虚しさが沸いてきた。
「楠本です。よろしくお願いします。」
頑張ってな、こちらこそ宜しく、歓迎会楽しみにしてるよ・・・
1人1言2言返してくる。とりあえず最初はこんな感じかと思いつつ最後の1人へ挨拶しようとした時、
「彼は君の指導員の湯本君だよ。ちょっと気難しいところがあるかもしれないけど、色々聞いて勉強してくれ。」
課長の言葉に急に意識がフワフワしきた。この人に嫌われたら終わりだ。
「く、楠本咲恵です。よ、宜しくお願い致します。」
彼は目尻へ黒目を寄せ、唇を半分だけ使い
「はい。」
そう言うと黒目はパソコンの画面へ戻った。
嫌われた。
なぜ?どうして?何か失礼なことした?緊張で顔が強張っていた?好みの顔じゃなかった?芳香剤の香りが強かった?
数秒の間に無数の嫌われる要因が脳内に浮かび、家庭用プラネタリウムぐらいの数はあるんじゃないかと余計なことまで考えた。
だめだ、挽回せねば。
「湯本さんが指導員をして下さるんですね。ご迷惑お掛けすることもあるかと思いますが、一所懸命頑張ります。宜しくお願いします。」
彼の黒目がまたこちらを向き、何も言わず画面へ戻っていった。
「とりあえず、彼の横のデスクが君のだから。備品とかあれば庶務の人に頼んでくれ。」
課長はそう言い残すと昼の日の光が差し込む窓際の席へ戻っていった。
自分も一旦座ろう。落ち着こう。
席に着きカバンから水筒を取り出し、少しぬるくなったお茶を一口飲んだ。
『人見知り』
ふと浮かんだこの仮説が正しければ、今の出来事は全て説明がつく。会社生活が長くても人間の性なんてそうそう変わる物じゃ無い。学校にもいた。生徒も教師も関係なく。人見知りだ。この人は。
横目で隣の人見知りの姿を確認すると勝手なモヤモヤした気持ちは勝手に解消した。パソコンの電源ボタンを押し、ログイン画面が出てきた。
「人見知りじゃ無いから。」
パスワードを打ち込んでいた指の第二関節から先が動かなくなった。
静かに、そして確実にこの人から聞こえた。心が読まれている?無意識に声に出ていたのでは?数分前の緊張感が全身を駆け巡る。
―こいつ、俺が指導員だと聞いた瞬間に表情が引き締まったな。人に順位をつけるタイプは相手を理解しようと型にはめて考える。
理解できないことに理由をつけたくなるのが人間かもしれないが、質が悪いことに最もイメージに近いネガティブなワードを押しつけてくる。お前が悪だという前提条件の元、大概『人見知り』で括る。
人見知りは数少ない友人の前では割と喋る。信用した人間を大切にする種族だからだ。
俺は違う。俺は、人間が嫌いなんだ。
『人見知り』とレッテルを貼ると下に見る傾向がある。社交性、友人の数、コミュ力等の評価項目で見た時の底辺に属する者『人見知り』とでも思っているのだろう。
勝手にそのレッテルを貼られるのは心外だ。
釘は刺しとくか。
まずい。たぶん舞い上がって口から余計な一言が漏れていたのだろう。謝罪だ。
「ゆ、湯本さん、もしかして、あの、私失礼なことを言っていましたでしょうか?」
「いや、言ってないよ。」
「へぇっ。」
私は完全に混乱し、奇声をあげた。職場の人が全員こちらを向いている。突然奇声を新人が発したら心配するだろう。だが、恥ずかしさは感じていない。それよりも今の発言を後悔した。わざわざ謝るのは、そう思っていました、と自供するような物だろう。自分をどうしてやろうか、有罪必至の脳内裁判を開廷するほか無い。また余計なことを考えている。現実逃避だ。
「やはり人見知りだと思っていたんだな。俺は・・・。」
そう言いかけて彼は黙った。
異様な静けさに脳内裁判は一時休廷とし、辺りを見渡した。
職場の人達が目線を合わさないようにしながら、こちらを見ている。
彼の一言を聞いてから今に至るまで、おそらく1分少々といったところだろう。
彼は手を止め、口を開いた。
「人間ってのは、群れて生きる。強い集団に属したい、じゃねぇと種として滅んじまうからだ。口では平等と言いつつ、何かしらの尺度で序列をつける。そして自分に得がある者に近づき、利用する。」
淡々と喋る彼の眼差しはどこか寂しげだ。
「食うために働く。業務としてお前の指導員に任命された。だから全うする意思はある。ただ一言言っとく。俺はそんな人間が嫌いなんだよ。」
そう言って、彼は仕事を再開した。
彼の言葉の真意を理解できていない。なぜそんな話をするのか。なぜそこまで人間嫌いなのか。そのくせちゃんと働いて、指導員なんて仕事引き受けたんだろう。
ただ思うことはある。今こそこそ私を見ている人達より、湯本さんの方が信用できる。
「湯本さん、こんな私ですが、宜しくお願いします。」
無言で自分の業務を続ける彼がすこし頷いた気がした。
パソコンはすでに起動してスクリーンセーバーが写っている。エンターキーを押すと、再度ログイン画面が出てきた。
「人間関係は少し不安だったけど、信用できる人がいたし、何より湯本さんは絶対人間関係こじらせているよね。」
そう考えると少し安心してきた。
「別にこじらせてねえからな。」
またログインする手が止まってしまった。
初めまして、作者のアヤタカジロウです。
本作品に興味を持って頂きありがとうございます。
人が嫌いなのに、指導員(教育係)として人に接する立場、負担がかかる立場に身を置いた湯本の考えと右も左も分からない組織敵に最も弱い立場の新人である楠本が困惑しながらも成長していく様を表現と思います。
コメディタッチで人付き合いって大変だよね、ということを書いていきます。
私の成長も含めて楽しんでいただけたらと思います。