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地球にトリップ!~図書館編~ ラムズ×メアリ

【?】

なんやかんやあって地球にトリップしたメアリとラムズが、図書館でファンタジー小説を読んであれこれ話しています。頭を緩くして楽しんでもらえると助かります!



三人称視点 日常 / IF / 現パロ


「人魚姫、人魚姫……あった!」


 メアリは図書館に来ていた。児童書コーナーで『人魚』と書かれた本を見つけ、ぺらぺらとページをめくる。


「なになに……。人間に恋をして──人間に変えてもらう!?」


 文字を何度も読み返したが、たしかにそう書かれている。結末まで読めば、結局殺せず水の泡になって人魚は死んだそうだ。


「はぁ!? ありえない! 殺せなかったのはまぁまだいいとして……人間にしてって頼むってどういうことよ!?」


 思わず叫んでしまい、周りの人間から好奇の目で見られた。慌てて口を噤む。


「やばいやばい、ここは静かにしないといけないんだった」


 そのあともまた人魚の本を探し続けた。もうひとつ見つけたものは絵柄が明るく、どうやら映画を絵本にしたもののようだ。自分と同じ赤髪で、緑色の尾ひれをつけている。


「この子かわいいわね」


 ページをめくってみる。人間に恋をするのは同じようだ。かなり罰が悪い。人魚って人間に恋しすぎじゃない? と思いつつ話を読み進めていくと……


「踊りたい? 歩きたい!? なにこれ!? アホなの!?」


 また大声を出してしまっていたらしい。図書館の司書がこちらに歩いてくるのが見える。慌てて本を棚に戻し、そそくさと歩き始めた。

 (おかしすぎる。異常ね。こんな本ばかりなんて……。わたしたちの世界の人魚の噂がおかしいのもこの本のせいなんじゃない? 人魚が人間のように歩きたいだなんて言語道断よ。人魚の風上にも置けない。そもそもそんなふうに思う人魚がいるわけない!)


 自分たち人魚を冒涜されたような気分だ。イライラしながら歩き、ポップな絵柄の本をぱらぱらとめくって読んでいるラムズに近づいた。


「ねぇ、ちょっと聞いてよ」


 小声で話しかける。ラムズがメアリを見下ろした。


「さっき人魚の本をあらかた調べたんだけど、本当に酷くて! 人間になりたいとか、歩きたいだとか、みんな人間に恋してるし!」

「俺たちの世界とは違うからな」

「そうだけど! なんだか人魚を馬鹿にされている気分」

「それなら……」


 ラムズが視線を斜め上にやったあと、にっと笑った。


「こっちの世界じゃ人魚は御伽噺の存在だろ。だからこそ本物と違うように描かれる。小説ってのは、現実には起こりえない、嘘と空想で描かれているものだからこそ人を惹きつけるんだ」

「むーん……」メアリは何度か頷く。「それなら少し溜飲が下がるかも」


 彼女はラムズの持っている本に目を止めた。


「それなに?」


 ラムズは肩をすくめ、持っていた表紙を傾けた。

『異世界転生! チートな力で世界を凌駕する! ~最高にかわいいエルフや吸血鬼、妖精、サキュバスの女の子に囲まれて〜』


「これなに?」


 メアリは眉をひそめた。


「このあたり一帯、俺たちの世界に似た異世界に行く話が置いてある。だがよく読めば、まったく似てなかった」軽く本に視線を移して言う。「例えば……エルフはあまりにも違う」


 表情豊かに男に寄り添ったり抱きついたりしている絵がある。絶対に自分たちの世界では見られない光景だ。エルフが人を好きになるはずがない。


「その……耳は似てるけど……ええ、うん……」

「俺たちの世界のほうがおかしいのか? わからん。吸血鬼はさほど変わらねえな。俺たちの世界のヴァンピールも人間と仲が良いし、人間もヴァンピールを好いている」

「吸血されるのって気持ちいいんだものね。眷属になって若くいられるのも嬉しいんでしょうし」


 そのあとラムズは、他の本からドラゴンの絵を見せた。人間が剣を構えて戦おうとしている。


「チート? とやらの凄い力でドラゴンを倒そうとしているらしいが──」

「え!? 人間が!? ドラゴンなんて倒せるわけがないわ! エルフが何人集まっても無理なのに」

「だよなあ?」


 二人がそのシーンを読むと、呆気なくドラゴンを討伐して喜んでいる描写がある。


「見た目も少し違うし、翻訳のおかげで同じ認識をしているだけで、こいつらはまったく別の生き物なのかもしれねえな」

「ふーん。あとは?」


 ここまで違うともはや面白さすら感じる。自分たち人魚のことはともあれ、他の使族のことならばその差を見るのは少し楽しい。


「ケンタウロスはあまり見ねえな。妖鬼(オニ)はごくまれに……」


 女性向けライトノベルコーナーから持ってきたらしい本がある。


「まあ……見た目は近いし、いいんじゃねえか? 人間に恋をする妖鬼(オニ)もいるだろう……。まるきり悪役にされた妖鬼(オニ)の話もあるようだ。というより、怪物の種族名として妖鬼(オニ)と名付ける傾向が強い。吸血鬼は人間が憧れる存在であるようだが、妖鬼(オニ)はだめらしい」


 メアリは女性向けの妖鬼の本を手に取って眺める。とても格好よく描かれている。女の子も可愛らしい。この世界は娯楽の本が多いようだ。


「フェアリーは?」

「フェアリーは……人間の姿にかなり近いな。ただ小さいだけだ。俺たちのフェアリーとは違う。ここに悪魔もいるが……」


 ラムズは何冊かの本を並べた。角を生やした巨乳の悪魔が、妖艶な笑みを浮かべて男の上に座っている。


「こいつらにとっては、悪魔はこんなふうに男ばかり求めるものらしい。彼らには彼らなりの理想があるのかもしれん」

「なんだかすごく……てきとうそうに見えるわ」

「オーガは肌が緑なのはだいたい共通事項であるようだ。だが二パターンに分かれる」


 ラムズは二つの本を並べた。片方は肌は緑だがグラマラスな体型の女性で、牙などはあるものの、あまりオーガの風格は感じられない。もう片方は醜く太った男の姿。こちらは倒すべき怪物として描かれている。


「両極端だな。たしかにどちらもいるにはいた。だが……同じ本に両方が存在することは稀だ。もしくは女は美しいオーガで、男は醜いオーガだとか、そういう例が多い」

「わたしはオーガは見たことないからわからないけど……」

「神はこれ」


 ラムズはある本を手に取り、挿絵をメアリに見せた。はだけた服を着て、男の前で感情豊かに笑ったり泣いたりしているようだ。


「この神様……人間の男の前でたじたじになっているのね?」

「ああ……。神ってなんだ? 俺もわからなくなってきた」ラムズがひらひらと手を振る。「ゼシルが見れば発狂すんだろうな」

「神様にしなきゃいいのに」


 メアリはふと、この前図書館で借りた別の本の内容を思い出した。


「そういえばこの世界は、神様は聖書というものにちゃんと書かれているみたいよ」

「宗教だな。たしかに宗教の最もらしい本にはそれなりの神がいる。あの手の本は娯楽として楽しんでいるようだ」

「そうね。どの本を見ても、こういった違う種族に憧れがあって、好きなのはわかるわ」

「ああ。男であれ女であれ、人間以外の種族と関わりたいんだろう……。だが表情や性格、性質、生き方は人間と似ているし──まあ、似て非なるもの、非して似たるものだからこそ、惹かれるんだろうな」



 いくつかの本についてあれこれと批評を並べたあと、ようやく二人は図書館を出た。


「娯楽が多いのは悪くないんじゃねえか?」

「そうね。なんというか……自由なのね。好きなように書いて、好きなものを想像していいんだわ。そしてそれを公開し、皆で共有するという手段もある」

「ああ。多様性を認めてるってことだろう。もっと探せば、俺たちに似た種族もいるのかもしれねえな」

「人間になりたくない人魚、とか?」

「ああ」


 ラムズはふっと笑う。図書館の広い敷地を歩き、二人はホテルへ戻っていった。








今回のお話は、赤羽学様より愛殺書籍化の高額支援をいただいたお礼として、リクエスト短編として執筆致しました。二次創作集のほうで、赤羽様と一緒に執筆したラムズ×ゆあの地球へトリップの読み物があります。こちらはラムズが宝石強盗をするお話です。よければそちらも覗いてみてください!


ご支援いただいた赤羽様、本当に本当にありがとうございました……!

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