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地球にトリップ!~秋葉原編~ ジウ×エディ

【?】

・なんやかんやあって地球にトリップしたジウとエディが、秋葉原で「喧嘩したいなぁ~」と思いながら歩いています。頭を緩くして楽しんでもらえると助かります!



三人称視点 日常 / IF / ギャグ? / 現パロ

 エディとジウは服を着替え、東京の秋葉原を散策していた。赤髪は若干目立つが、ラムズがかけてくれた魔法のせいか気にしている人はまったくいない。


「ひょえ~! 街が綺麗すぎない? それに敷き詰まってる! あんな高い建物まであるよー」


 エディがあちこちに目を泳がせているのに対し、ジウは目を細めて首を振った。


「ボクつまんなーい。話に聞けば、殴り合いも殺し合いもない世界なんでしょ? ボク、いらいらすることがあったらどうしたらいいの? 殺しちゃダメなの?」

「さ、さすがにそれはやばいんじゃない? 見るからにそういう雰囲気ないじゃん」


 ここは、海賊の街トルティガーなどと比べるとすべてが雲泥の差だ。自分たちの世界では、少し歩けば貧しい身なりの追い剥ぎや浮浪児がいたり、奴隷を叩く主人が見えたりする。

 だが秋葉原はそんな人はまったくいないようだし、皆それなりに整った服を着て、なんの心配もないような顔で颯爽と歩いている。

 元の世界の奴隷や浮浪児の存在を心地よいと思っていたわけではないが、こうもトラブルのなさそうな街だとジウは逆にストレスが溜まりそうだった。


「みんなきれいな服着てるねー。貴族……っていうと少し違うのかな? レオンの言うとおり、犯罪とは無縁の世界なんだね」

「法がちゃんと敷かれてるんだっけ? それに従わないとボクたちも捕まる……しかも長いあいだ牢に入れられるんでしょ? 逃げられないのかな?」

「ジウ、悪いことする前提で話してる!?」


 ジウはぺろっと舌を出した。


「だってつまんないんだもん。魔物を殺すのもダメなんだってさ」


 ケバブと書かれた店が見える。食欲をそそるいい匂いだ。二人はにっと顔を見合わせて、わずかばかり持っていたお金でケバブを買った。


「はー! これが向こうなら、ぱっと盗んでいくのに!」


 ジウがひらひら手を振る。


「そんなことしたらケイサツってやつが来るんじゃない?」

「来てもボクたちなら勝てるよね?」


 エディはうーんと唸る。たしか、レオンはこの世界には魔法に似たすごい武器があると言っていたはずだ。自分たちが暴れるよりも早く殺すことができるんだとか。


「怖い武器があるって聞いたし、俺も死ぬのは嫌だよ」


 エディはふと考える。酷く統制された平和で安全な世界であるはずが、武器は自分たちの住む世界よりも恐ろしいものがあるという。どこか矛盾している気がする。いや、むしろその武器のおかげで平和があるのだろうか。

 結局、何かの力に頼らねば平和が存在しないのであれば、それはまた少し悲しいような気がした。


「普通の人が犯罪に怯える心配はなくて、食べ物に困ることもほとんどなくて、けどそれも何か他に抑止力や道具があるからなんだねー」


 服や道具、食べ物など数多の生産物が、自分が生きている世界よりも素早く大量に作ることができるという。そのおかげで誰もが不便なく暮らすことができるのだ。


「まぁ、そうじゃない? エディ難しいこと考えてるね」

「いやー、レオンが言ってたのを思い出しちゃってさ。わりと幸せそうに見えるけど……」


 少なくとも、秋葉原で歩く黒いスーツとやらを着ている人たちはまったく楽しくなさそうだ。電車というものを乗って街ゆく人を見たり、現地の人の話を聞いたりしてみると、どうやら生きたくて生きているというよりかは、『生かされている』と言った方が正しいような気がした。


「どっちが幸せなのかな?」エディは尋ねる。「命を脅かされることがあっても、なんとか自分の力で精一杯生きるのと、なんとはなしに生きていても平和で幸せに暮らせるのって」

「えー、ボクは戦いたいから向こうのほうがいいやぁ」


 ジウはそうだろうね、エディは苦笑いで答える。頭を軽く掻いて昔一緒に暮らしていた家族を思い出した。


「ルテミスになる前なら、こっちの世界がいいと思っただろうなぁ。でも今は、うーん……。ご飯がたくさん食べられるのはいいけどね!」

「それはボクも思う! 美味しいよね、これも!」


 ジウは残りのケバブに齧りついた。肉の味付けが多彩で、周りの生地も香ばしくとても柔らかい。ここまで美味しいものは元の世界ではそうそう食べられない。


 二人が街を観察しながら歩いていると、四角い機械がいくつか並んでいる店を通りがかった。機械の中ではなにやら小さな人が動いている。


「なにこれ? 動いてるよ」

「えーっと……テレビ、だってさ」


 横の広告を見てエディが答える。

 ジウは「ふうん」とつまらなそうに口を窄めると、すぐに目を離そうとした。


「あれ!? これ見て、人が殴りあってない!?」

「本当だ!? 血だらけじゃん。裸で殴ってるし」


 エディがけたけたと笑う。ジウは爛々と目を輝かせてテレビを指さした。


「ボクもここに行きたい! ここなら殺せるってことでしょ!? どうやれば入れるの? テレビってなに!?」


 興奮するジウを面白そうに見ながら、エディはポケットからスマートフォンを取りだした。この世界で過ごすときに持っていたほうがいいと言われたものだ。


「検索してみるよ。えっとー、て、てれ、び……」


 ぎこちない手つきで文字を打つ。いくつかの検索結果が画面に表示され、エディとジウは興味津々で画面を覗く。


「え? これ中に人はいないって。どこか別の場所でやってるのを映してるんだって」

「……占い師の水晶玉みたいなもの?」

「たぶんそう。ジウが言ってるこの戦いは……」


 よく見るとテレビの画面右上にテロップがある。戦っている者の名前の上に、『総合格闘技 実況中継』などと書かれている。


「えーっと……あ!」


 エディはおそるおそるという風で画面をジウに突きだした。


「見つかった? どこでやってるって? ボクも参加……」画面の文字を読むにつれて、ジウの表情が険しくなっていく。「スポーツ……興行? ルール? どういうこと? 殴り合いにこんな細かいルールがあるの?」

「いやぁ……これ……」


 エディは嫌な予感がするなぁと思いつつ、さらに検索窓のワードを増やした。

『格闘技 殺す』

 検索結果が現れる。誰かが質問しているようだ。

 格闘技で人を殺したらどうなるのか? 罪に問われるのか? などと書かれている。答えている側は、罪には問われないが、死傷者を出さないよう徹底している、などと説明している。


「つまりこれ……殺すことを想定したやつじゃない気がする……」

「はぁー!? 生ぬる!? 戦ってて殺さないって……」


 思いのほか大きな声が出ていたことに気づき、ジウは慌ててトーンを下げる。


「闘技大会みたいなものかよ~。もうやだー! つまんない! か、え、り、た、い~!」

「まぁまぁ、あと少し散策して美味しいもの食べたら、ホテルに戻ろう」

「エディのこと今ここで殴っていい? エディもけっこう溜まってるでしょ!?」

「いやいや、俺なら許されるみたいなのやめろよな!? ルテミスとはいえ痛いからね!?」


 ジウはそう言う彼の頬に思い切り拳を叩きつけた。エディはかろうじて吹き飛ばされずにすみ、きっと目を細くする。


「わかったわかった、これこそ死なない程度にやろうね、っと!」


 飛び上がってジウの背後に立つと背負い投げて地面に叩き落とした。ジウはすぐに体勢を整えるとエディの足を掴み──


「そこの君たち! やめなさい!」


 わらわらと制服を着た男たちが駆け寄ってくる。近くで軽い事故があったため、警察官がすぐにジウたちを見つけてしまったのだ。


「ボクたち合意の元でやってるんで!」


 ジウは警察を無視してエディの腹に蹴りを食らわせる。


「合意!? こんなところで喧嘩はダメだ! ともあれ一緒に署まで来てもらうぞ!」


 よく見ると自分たちの周りに人集りができている。少し殴り合いをしただけなのに。


「ねえジウ。警察に捕まるとやばいって船長言ってなかった?」


 ジウはしぶしぶ体の力を抜く。


「ん〜言ってたかも」

「逃げるよ!」


 二人は一目散に秋葉原の街を駆けはじめた。さすがはルテミス。普通の人間の二倍以上のスピードでみるみる警官たちと距離を広げていく。


「いやー、こういうのならちょっと楽しいね! またやろうよ、エディ!」


 ジウが走りながらエディに問いかける。いつの間に通行人から奪い取ったのか、クレープを口に運んでいる。


「ま、まぁちょっとね? でも俺、あの拳銃とやらで打たれるのはごめんだからね」


 エディは呆れたように肩を落とす。でもこうして安全な街で誰かから逃げるようなゲームをするのは、悪くないかもしれないと独りでに笑みがこぼれた。


今回のお話は、赤羽学様より愛殺書籍化の高額支援をいただいたお礼として、リクエスト短編として執筆致しました。二次創作集のほうで、赤羽様と一緒に執筆したラムズ×ゆあの地球へトリップの読み物があります。こちらはラムズが宝石強盗をするお話です。よければそちらも覗いてみてください!


ご支援いただいた赤羽様、本当に本当にありがとうございました……!

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