冒険者の隣人は生きるか死ぬかです 3
情報収集で反応が得られた事に安心していて、欠点があったことをすっかり失念していた。
三次元的な情報までは分からない、ということ。
仕様がないので反応がある位置の廃屋に入って、どこだどこだと捜索していたら不意に足元が崩れた。
咄嗟に反応できず、そのまま階下へ落下。いかん、気が緩みすぎてる。
床に打ち付けた尻の痛みは勉強料だなあと思いながら状況を把握しようとした所で、俺に向けて女性の声が飛んでくる。
「そこの人、顔上げてっ!」
声に従って顔を上げてみれば、目前には黒いスケルトンと振り下ろされる刃。
「……結果としては良かった訳だ」
頭をかち割ろうと振り下ろされた凶器を右手で掴み、左手で砂埃を払いながら立ち上がる。
目前のスケルトンは自分の獲物に力を込め続けるが、その行動は残念ながら間違いだ。
こういう場合、武器を捨てて退るのが正しい。
というか、攻撃が通用しないと分かった時点で一度後退すべきだ。
そんな事を考えながら気をまとわせた拳でスケルトンの頭部を打撃す。
空気を破る乾いた音が響き、頭部が消え失せたスケルトンが力なく崩れ落ちた。
「あー。アイアンコートスケルトンか、コイツ」
多量の鉄分を取り入れ、骨の表面をコーティングしたのがこのスケルトンである。
表面だけのコーティングとはいえ、中級認定されたばかりの冒険者にとっては与しにくい相手だ。
探索のためのリソースがどんどん削られていくので、普通に殴って通せる位にならないと多数を相手にするのは厳しい。
崩れ落ちたスケルトンの向こうに、同じく黒いスケルトンが列を成しているのが見えた。
背後をちら、と見やる。装備品の具合からしてまさしく中級認定されたばかりの面子、というところか。
確かにあの数なら大変だろうなあ、と思いながら右手に掴んだ鉈のような剣を放り投げる。
縦に回転しながら飛んでいったそれは並んでいたスケルトン達の頭部を全て砕いて飛び、廊下から窓を突き破って外へと飛び出していった。
その先に人が居ない事は確認済みなので大丈夫だろう、多分。
さて本題だ、振り返って目の前で起きた出来事を上手く処理できない冒険者とのコンタクト。
「どこか落ち着けそうな場所を知ってる?」
冒険者四人組の近くにある扉、その奥に居る奴の気配はスケルトンとはちょっと違う。
いつこっちを感知して動き出しても不思議じゃない。相手取るのは問題ないけど、会話の途中で襲われるのは御免こうむる。
そんな思惑を察してくれたのかどうかは分からないが、四人組は顔を見合わせた後、恐る恐ると言った様子で移動を始めた。
俺はそんな四人組を眺めつつ、両手を上げた状態で付いていく。
というか、見ず知らずの人物を殿に置いた状態で進んでいるのだけど、警戒しないのだろうか。
まあ、危害を加えるつもりなんて全く無いんだけども。
■
どこからどう見ても村人。
そんな見た目と雰囲気の男性が、私達の苦戦していた相手をいとも簡単に片付けてしまった。
というか、見間違いじゃなければ素手で打撃を見舞っていた気がする?
こう見えて肉体格闘系の職能持ちなのだろうか。
ただ一つ、確実な事は。
この人が居るだけで、私達に死の未来が見えなくなる位に強くて、人が良いのだと言う事。
普通ならもっと警戒しないといけない場面だけど、この人が来てからは未来が見えない。
それはきっと、この人と行動していれば死の危険は回避できるからだ。
もちろんこの人が危害を加えようとしたなら、私は未来を見るだろうけど。
というか、この人がその気になったら間違いなく私達は為すがままにされる。
なら、少しでも友好的に接するべきだろう。
冒険者が最も恐れるのは冒険者なのだから。