既に世界を救っているので最初から強くても問題ありません 5
「見た感じ結構デカい都市だろここ……それが丸々迷宮化とはなあ」
迷宮化、その名のごとく本来は迷宮ではない場所が過剰に魔力と瘴気を溜め込む事で迷宮へと変じる現象を指す。
実のところ、迷宮化自体はさほど珍しくはない。
その性質上、死者が多く出る上に魔術がガンガン飛び交う大規模な戦場跡は迷宮化や迷宮発生の確率が非常に高い。
ましてや何度もそんな戦闘が起きるような世界では言わずもがなだ。
けれども、防衛および籠城戦で耐えることを主眼にした城塞都市が一つ丸々迷宮化するというのは相当に珍しいケースだ。
一体何がどうなってこの惨状が生まれたというのだろうか。
「ともあれ、まずは脱出……はいつでも出来るからいいか。冒険者との接触が第一かなあ」
そんな事を呟きながら、自分もこのレベルの迷宮なら壁をブチ抜ける確信が持てているあたり大概だなあと内心で苦笑する。
迷宮化した建築物は軒並み耐久性が向上し、魔術や物理攻撃に対して高い耐性を獲得するのだ。
今この場に彼以外の冒険者がいれば、きっと腹を抱えて笑っていたことだろう。
いや、あるいは無神経な冗談だと怒りに顔を染めただろうか。
とはいえ、出来るものは出来てしまうのだから仕方ない。
「情報収集でも使っておくか」
周囲の生命力や魔力に反応する円状の力場を術者の周囲へ発生させる魔術である。
効果範囲は術者の魔力量次第ではあるが、あまり燃費が良くないので殆ど使われることのない魔術の代表格。
全力で使ったことはないからどこまで広げられるのか分からないけど、多分この都市はカバーしきれるだろう。
そんな感じで大雑把に魔術を発動させてみれば、ここから東の方角に複数の反応があった。
そして自分の周囲にも魔力の反応が複数。
「動体反応があるのは東側かー……とりあえずはそっちに向かうか」
そう決めて残骸の転がる道を進み、目的地が近づいた頃にそれは現れた。
瓦礫の中から不意に立ち上がる多数の人骨。スケルトンと呼ばれる魔物である。
割と色々な異世界でも見かける普遍的な魔物だ。
最も成り立ちは世界毎に異なるのだが、この世界では憎悪に囚われ、聖者への憎しみに染まった魂がとり憑くことで発生するようだ。
俺の持つ異能の力が情報を頭に流してくれる。
割と最初の頃に転生先で頑張って取得していて良かった。ナイス判断だぞ俺。
と、そんな事を思っていたら、スケルトンは知覚できる範囲に生きたもの、つまり俺を認めて襲い掛かってくる。
こちらは1人、対してスケルトンの数は12。これがゲーム序盤であるならほぼ詰みに近い状態。
だけど、これはゲームではないし、生憎と俺は新米主人公ではない。
「悪いが既に――――射程圏内だ」
武器を抜くまでも無く、ましてや魔術を使うまでもない。だが技は使う。
自らの気を用いて距離に関係なく相手を攻撃できる技術。これも別の世界で習得したものだ。
この戦闘術と魔術を組み合わせることで、俺は知覚できる範囲内ならば自在に攻撃を飛ばせる。
故に、背後から襲いかかろうとしているスケルトンに対しても攻撃が届く。
「うーん、拍子抜けするほどあっさりだ」
雑に固めた気でスケルトンの頭部を砕いて終了。
便利だけど、気の刃は最終的に通用しなくなるので基本的に雑魚狩り専門になってしまう。前の世界ではそうだった、というだけなのでこっちではどうなるのか分からないが。
けど、生物としての格が上がったり、分類の頂点付近になると大体耐性を持ってるものだからなあ。
自分の気で無意識に相殺するヤツとかいるし。
世界間共通法則の一つなんだろうな、アレ。
と、考察はほどほどにして先を急ごう。どうにも劣勢って感じの動きだし。
友好的な接触ができれば良いなあ。