既に世界を救っているので最初から強くても問題ありません 4
異世界への転生。
文字通りにこことは異なる世界へと生まれ落ちる現象。
生きていた頃、物語を読むのが好きだった俺はその手の話を良く読んでいた。
そこでふと思ったことがある。
異世界へ自分の人格と記憶を持ったまま転生するということは、本来産まれてくる筈だった人物の居場所を奪ってしまうことになるのではないか?と。
だから正直、異世界へ召喚されて調子に乗って死んで、その後であの白い空間――――神問の間と呼ばれる場所へと喚ばれて説明を受けた時は、あまり気が進まなかった。
確かに転生のシステムが確立された当初は死産する定めの存在を対象としていたそうだ。
しかし、元々産まれることのない存在に別な魂を入れて世界に存在させるという事は世界に歪みを生じさせる原因となる事が判明した。
個人単位の歪みは誤差レベルなのだが、それが積み重なることで大きな歪みになったり、生じやすくなるのだという。
そこで神様達は考えた。ならば世界を管理する我々神々が肉体を用意すれば良い、と。
元々世界を管理する神がその力を用いて作り出した肉体であれば、魔法による強化や保護も容易く、世界の歪みも皆無に出来るのだ。
歪みを修正する魔法、異界の魂を馴染ませる魔法など、様々な効果の魔法が刻み込まれた肉体が制作され、転生者の肉体として活用されることとなったのである。
マレビトの引き起こす現地世界住民の潜在能力開花は、この時の魔法の組み合わせが引き起こす副作用なのだとか。
そこまでは判明しているものの、どんな魔法の組み合わせが原因で起こっているのかは調査中。
後からどういった魔法を組み込めば防げるのかも研究中ではあるが、実用化までの目処は遠いとの事。
話がズレた。
とまあ、そういう訳なので転生先の心配はしなくても良いのだ。
今回も予め用意された肉体に魂を宿し、その体を転移の魔法で送り込む方式となっている。
因みに転移魔法は分子レベルで肉体を分解して転移先の座標に再構築する魔法である。
発達した科学は魔法と見分けがつかないって言葉を思い出すような話だ。
だから転移魔法を使う時、対象は気付かないまま死んでいるようなものであるから、異世界転生で間違っていないとシステム構築神は言っていた。
すごい屁理屈で丸め込まれたような気もする。
そんな事を思い出している内に、俺の意識は薄れて途絶えた。
そして意識を取り戻した時には、既に目的地へ到着していた。
「暗いな」
どうやら小屋の中に転移したようだ。
しかもひと目見て打ち棄てられたと分かるくらいに傷んでいる。
「これ、周囲に人は居るんだろうな……?」
まあ、現地住民が周囲にいない状況での転生は何度か経験しているので慣れたものだが。
ともあれ情報が欲しい、と思いながら立て付けの悪くなった扉を開けて飛び込んできた光景に言葉を失くす。
荒れていた。これ以上無い位に荒れ果てていた。
おそらく市街地の外れであろう現在地。視界に移るのは曇天に家屋のなれ果てと思わしき残骸の数々。そして葉っぱの一枚も無く枯れた木々。
おお、かなりレアなスタート地点だなあと思っていたが、空の様子と肌に感じる魔力の質がおかしい事に気づく。
「……ここ、迷宮化してんのか!?」
大気中に漂う魔力が刺々しい。この無数の針で肌を撫でられているような感覚は迷宮のそれだ。
分厚い煙で蓋をしたかのような曇り空も、都市型迷宮でよく見る光景である。
あれは太陽光を遮るだけでなく、空からの突入や乱入者を防ぐ役目を果たすのだ。
背後を振り返れば、あちこちが崩れてはいるが城壁が確認できた。
「城塞型都市が丸々一個迷宮化……?」
どうやらこの世界は、思っている以上に深刻な状態にあるらしかった。