既に世界を救っているので最初から強くても問題ありません 3
世界のバランスを崩す。
個人でそんなことが出来るのか。
普通はまず無理だろう。普通なら。
では普通でないのなら?例えばそう、ギフトと称される特殊なスキルを有する転生者、いわゆるマレビトであるならば。
結論から言えば、世界のバランスは簡単に崩れるし、崩せてしまう。
理由はいくつか存在する。
ギフトは遺伝するというのが一つ。
これは言わずもがなといった所だろうか。ギフトをそのまま遺伝することは稀だ。
けれど、その下位互換ないし劣化版とも言える能力が開花するケースがとても多い。
そのために世界によってはマレビトの婚姻を厳しく制限し、管理する事もある。
次にマレビト次第になるが、現地の生命と子を成すことによる次世代の能力向上。
この場合マレビト本人の資質に左右されるものの、大体においてマレビトとの間に生まれる子供は生まれつき他者よりも優れている。
どういう理屈でこうなるのかは未だに分からないが、そういうものだという認識が浸透している。
そしてもう一つ、どちらかと言えばこちらの方が厄介なのかもしれない。
マレビトと長期間共に過ごした者は、ほぼ例外なく潜在能力を開花させる。
優れた人材が増えるのは良いことだが、必要以上に増えすぎるのも良くはない。
ましてや何処の国にも属さない、忠誠心もない在野の人物が潜在能力を開花させるなど。
上手く懐柔したり、取り込むことができれば良いがそうでない場合は火種にしかならないからだ。
この現象はマレビトの肉体そのものに原因がある、ということが判明している。
現在は原因の究明と対策を検討中なのだとか。早く判明して対処されることを祈るばかりだ。
ともあれ、そういった理由もあってマレビトを異世界へ送る場合はいくつかの条件付けが施される。
違反した場合は査定に響くので、よほどの考えなし以外はこの条件をほぼ確実に遵守する。
自分の担当神にも迷惑をかける結果になるから、二重三重に損をするのだ。
なので、何をしても良いと言うのはまずありえない、のだが。
「これ、どんだけ衰退してるんですかね……」
「そればっかりは現地に赴かないとわかんないからなー……でも、君なら死ぬことはないと思うんだけど」
それに子孫を残せる数少ないチャンスだよ。と神様が言う。
それは正直とっても魅力的な提案ではある。なにせ自分は初回の転生以降、ずっと独り身で過ごしてきたからだ。
マレビトの特性上、安易に娼館へ通うことも難しいのである。悲しいかな。
「そうですね、任されたからには引き受けたいと思います。決して現地結婚可に惹かれた訳ではありませんよ、ええ」
「ははは、そういうことにしておこうかな。まあ今まで頑張ってくれた君へのご褒美と言うか、小旅行みたいな仕事がないかなって探してきたものだからさ、気楽に楽しんでくると良いよ」
「qwertyuiop@[様……ありがとう、ございます」
そう、俺はもうそろそろ転生の代償として課された任期が終わりそうなのである。
任期を全うした者は、そのまま向かった先の世界に留まって一生を終えるか、死後に再びどこかの世界で新たな生命として生まれ変わるかを選ぶことが出来る。
この場合の生まれ変わりは文字通り、記憶と力、人格も捨てての生まれ変わり。
こうして魂は廻っていくのである。
それはさておき。
「それでは行ってきます」
「うん、気をつけて」
qwertyuiop@[様に見送られながら、俺は件の世界「チュイオイ」へと転生する。
わざわざ見送りに来てくれる神様なんてqwertyuiop@[様くらいのものじゃなかろうか。いや正直他の神様とはあんまり会ったことがないのだけども。