既に世界を救っているので最初から強くても問題ありません 2
気がつけば俺は真っ白な空間に正座していた。
ここは以前にも来たことがある。というかもう何回も来てる。
「ああ、死んだのか……。今回は長く生きたなあ」
寿命で安らかに眠れるとかいつ以来だろうか。ここ最近は暗殺されて人生強制終了が続いていた気がする。
それだけにちょっとした感動すら覚えるな、これは。
「いやーご苦労様。今回は寿命だって?良かったねえ」
そんな事を考えているうちに目当ての神物がやって来ていた。
「ありがとうございます。そちらもお疲れ様です」
俺は佇まいを直して深く頭を下げる。
「なあに、いつもの事だよ。ささ、早速だけど次の話に入ろうか」
顔を上げれば目の前にはなんだか良くわからないぐにゃぐにゃした輪郭の人形が揺れている。
この方はqwertyuiop@[様。俺の転生担当神様である。
とても温和で物腰も柔らかい、神格の出来たお方だ。正直この方でなければここまで頑張れていたかどうか非常に怪しい。
「次に君へ向かってもらう異世界なんだけど、ちょーっと衰退気味なんだよねえ」
「世界敵性存在の影響ですか?」
「あはは、流石に経験を積んでるだけはあるね。まあそんな所だなあ」
世界敵性存在というのは文字通りに世界を脅かす存在の事である。
前回の世界に召喚された邪神などが分類されており、様々な手段で世界を終わらせようと躍起になっている。
まあその理由は大体が上神の管理不行き届きだとか、ストレスを抱えすぎて拗らせてしまったとか。
ええ、ぶっちゃけとても個神的な理由が殆どです。
神様だからね。ストレスの解消手段や上神への不満表現およびストライキもスケールが違う。
対象になった世界の住人としては堪ったものではないだろうが、知らぬは当事者ばかりなり、だ。
その分外の神に恩を売れるので美味しいイベント認識だったりするのも秘密だ。
神々の世界の仕組みも現世と大差が無いのである。
「というのもこの世界、敵性存在との戦いで優秀な人材やその芽はおろか、技術なんかも大分潰えちゃったみたいなんだよね」
「ああー、それはまた災難ですねえ」
「ということで才能不足に悩まされております。迷宮に眠るアイテムもそのせいで回収出来てないし、こりゃ梃入れないと衰退一直線だなあって事で私と君に話が回ってきました」
「えっ、と……。qwertyuiop@[様は兎も角、私ですか?」
「そうだねえ。君はこれまでにも色々転生を繰り返してるでしょ?だからほら、手持ちの札がとても多い。そして、その中にはあっちじゃ既に失われて久しいものも幾つか存在する。
要するに君の技術を普及させて、全体のレベルを底上げして欲しいって訳だ」
さらっととんでもないことを言われている気がする。いや気がするまでもなく責任重大なヤツじゃないですかねこれ。
「という訳なので、まあ今回のお仕事ですが君の過去の経歴を踏まえて交渉してきました!
その結果ですね、先方からレベルを引き上げてくれるのなら何をしても良い、という言質を取りました!」
ぱちぱちぱちー、と口で言いながら拍手をするqwertyuiop@[様。
あ、でも無意味に人を殺したりするのはダメだからね?君に限ってそういうことはしないとは思うけど、一応ね?と補足をしてくれた。
けど、正直言って衝撃的過ぎて信じられない内容だった。
何をしても良い?とんでもない条件だ。普通ならばありえないのだ、そんな事は。
だってそれは、つまるところ――――
「俺が原因で世界のバランスが崩れても、お咎めなしって事ですか?!」
「いえーっす!その通り!!いや私も驚いたけどさ。逆に言えばそれだけ深刻な状況って事だよコレ」
その一言で水をかけられたようにハッとなった。そうだ、それだけ切羽詰まっているのだ、俺が向かう世界は。