既に世界を救っているので最初から強くても問題ありません
あまり知られていない事実だが、世界は無数に存在している。
ここは無数に存在する世界の一つであり。
勇者と魔王が共に倒れ、衰退に向かって進み続ける世界。
その世界の南方に広がる広大な砂漠地帯。
極端に雨期が少なく、常に乾いた気候、そこに加わる昼夜の温度差。
今では過酷な環境の中に点在する遺跡群を目指し、過酷な環境の中を歩む者達も途絶えてしまった。
そんな場所だからこそと言うべきか、迷宮と化した遺跡の多くは大部分が手付かずのままだ。
魔王と勇者が共倒れとなった大戦が始まった頃は、多くの冒険者がそれぞれの目的を果たすべく活動していた。
だが一定の時期を境に魔王側の攻勢が激化。各国の騎士団だけでは手が回らなくなる事態も頻発。
結果として優秀な冒険者達が前線へと駆り出され、次第に迷宮へ赴くことが白眼視される風潮が出来上がってしまう。
勿論、そんな空気など知ったことかと迷宮探索を続ける者も居た。しかし、大戦末期にはとうとう迷宮探索が禁じられてしまい、否応なく最前線で肉体労働となったのである。
そうして腕利きほど地獄のような戦地へと送られたが為に、殺意の高い迷宮とそこに巣食う魔物を相手に探索できる程の冒険者は皆無となってしまった。
後進の育成もままならず、何よりも以前は普通に採取・採掘出来ていた素材すらも満足に収集できなくなる始末。
巡り巡って世界全体の技術水準・品質が著しく低下しているのだ。
入念な準備と対策が必要な上、砂中を我が物顔で泳ぎ回った挙げ句、背後や足元から不意に襲いかかってくるような生物が跋扈する場所が手付かずとなるのも当然だろう。
だからこそ、現在進行系で危険度が増しているはずの場所に野営地を作り、炎天下で金属製武具フル装備、かつどこから襲われるかわからないような砂の上で稽古を行う人間、という光景は見る者にいよいよもって熱で頭が本格的におかしくなり始めたのかもしれない、と思わせるには十分すぎる説得力を持っている。
残念なことに目の前の光景は幻覚や蜃気楼ではなく事実である。
もっとも、この場所に立ち入る事のできるような第三者などまず居ないのだが。
この奇妙な光景の発端は、今から三ヶ月前のとある出来事まで遡る。