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依頼

 アタシの名前は水戸かず子。2*歳、独身。年齢にアスタリスクがついているのは三十路が近いから……って、やかましいわ!

 吉祥寺で探偵業をやっている。

 友人に話したら探偵なんて大丈夫? 女の子なのに? と心配されそうだ。大丈夫、友人には話していないし、それにアタシは友人が少ない。

 探偵というのは皆が思っているほど危険でハードコアな職業ではない。シティー○ンターみたいな。

 どちらかといえば地味な仕事だし、それにそれに、アタシがこれをやっているのには事情がある。


 べつに望んで探偵になったわけじゃない。

 もともと叔父がこの探偵事務所を経営していて、いろいろあって彼の代理としてアタシがいる。叔父はいまニューヨークにいる。

 なので仕事の依頼は8割方、叔父のコネだ。ってゆうか、いまも彼がニューヨークで糸を引いているといったほうが正しい。アタシは叔父の傀儡(マリオネット)です。

 まあそんな経緯だけど、いまはわりとこの仕事が気に入っている。自分に合っているとさえ思う。

 ちなみにここは多々木(たたき)探偵事務所という。多々木は母の旧姓だ。叔父の(はじめ)は母の弟にあたる。


 叔父とのやり取りはもっぱらメールだ。電話することは、めったにない。お金もかかるしね。

 たいてい叔父がメールで仕事を振ってくる。そこには依頼人の名前と来訪日時が書かれている。

 ようするに、アタシに断わる権利はないということだ。

 まあこれまでのところ、このやり方で特に問題はない。アタシとしても叔父が受けた依頼(人)なら安心だった。

 ただ、今回はちょっとだけ様子がちがった。メールの末尾にこう書かれてあった……この仕事はでかいぞ、と。

 もうアタシ、イヤでしたよー。


 そんなわけで、ちょっと緊張しながらアタシはその依頼人がくるのを待った。2016年4月1日のことである。

 事務所にあらわれたのは、けっこうなご老人だった。

 髪も髭も真っ白で黒い帽子を被り、YMOの幸宏さんがかけるようなサングラスをしている。ってゆうか、見た目はほぼ年老いた幸宏さんだ。

「山田一郎さま、ですね。お越しいただき、ありがとうございます」

 アタシはそう言って、山田老人にソファをすすめお茶をお出しした。


 依頼人の名は叔父からのメールであらかじめ、しっていた。正直、偽名くさいと思った。

 探偵に仕事を依頼する人びと、ようするにお客さまだが、そういった方がたにはいろんな事情がある。

 本名を晒したくない場合だってあるだろう。

 もちろんそれはアタシにとってはかなりの不安要素なのだが、そうお客を選り好みしてもいられない。

 叔父から回ってきた依頼人を疑うわけにはいかない。だからこの方は山田一郎さんである。以上!


【多々木探偵事務所 所長代理 水戸かず子】


 アタシは山田老人に名刺を差し出した。所長代理ゆうても、ほかにスタッフは誰もいないけどね。もちろんそんな余計なことは言わない。

 山田老人は黙ってそれを受け取った。

 依頼人のほとんどは、アタシが多々木はじめの姪であることをしっている。そこでだいたいひと(くだり)、ああ姪御さんは苗字がちがうんですねみたいなトークがあるのだが、今回の依頼人は何も言わなかった。

 興味がないのかもしれない。


「さっそく用件に入っても、よろしいかな」

 山田老人は見た目とそぐわない、はっきりした口調で言った。

「ええ、もちろん」アタシはうながした。

「明日、この事務所あてに電話がかかってくる。青木岳人あおき たけとという男からだ」

「はい」

「その男の話を、親身になって聞いてやってほしい。そして彼に親切にしてやってほしい」

「……はい?」

 思わずアタシが聞き返すと、老人はくっく、と笑った。ツボだったらしい。

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