表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/15

偽札の正体

 一念発起して偽札の束を調べはじめた。

 正直周囲まわりには誘惑がいろいろあった。何せここは2016年の世界なのだ。オレはそれを一度経験している、いわば全世界の先輩である。

 たとえば株式。

 オレは熱心な投資家ではないが、それでも去年急騰した銘柄のいくつかは憶えている。そこにオレの全財産とか特攻(ぶっこ)んじゃったら、どうなる。かなりの利益が出せるんじゃね?

 ……と、ここで冷静になる。本当だろうか。本当に去年とおなじ結果になるんだろうか。

 またぞろバタフライ・エフェクトが顔を出すんじゃなかろうか。オレのしっている過去とこの世界は微妙にちがっている。


 そもそも大金を手に入れたところで、それを来年以降に持ち越せるという保証がどこにもない。

 オレには未来がない。べつに気取っているわけじゃなくて、リアルに来年2017年がやってくるか、わからないのだ。

 偽札。そう、いまオレの目のまえにあるこの紙束は、ある種の示唆とも受け取れる。

 ムダですよ、と。おまえがいくら大金を手にしても、つぎの4月にはすべて紙キレになっていますよと。

 怖いわー、マジで。


 そんなわけで、いまオレはあらゆる邪念を振り払って偽札を調べている。偽札自体が大枚を彷彿とさせる、この欲望のループ。

 いかんいかん、これはただの紙束だ! もっといえば新聞の束だ。

 なぜオレがこれを偽札と呼んでいるかと言うと、ふたつ理由がある。ひとつは新聞紙が紙幣サイズに切り揃えられていること。もうひとつが、各ブロックのいちばん上だけ、あきらかに手描きの偽札が乗っていることだ。

 本当に、小学生が鉛筆で描いたような出来のわっるい偽札だ。ぜんぜん似てない諭吉である。

 その1枚が乗っていることで、ようするに、これは偽札の束なんですよとこいつは主張している。

 そんな紙の束がいま、オレの部屋に4ブロック置いてある。


 ブロックひとつの厚みが、だいたい5センチくらい。1束を500万円に見立てているっぽい。

 これが本物なら2千万だ。くぅー。

 ……さあ仕事だ、仕事。オレはこれから、手描きの偽札4枚以外の膨大な量の新聞紙と格闘しなくちゃいけない。

 繰り返すが新聞紙は紙幣サイズにカットされている。なので、そこに書いてある記事を読むのがむずかしい。

 それでもモンタージュのように組み合わせて、なんとか文脈を読み取っていかなきゃならんのだ。


 ……とまあ威勢のいいことを(ぬか)したのはいいのだが、いやはや何とも数が多い。

 新聞なんて、ふだん1枚っぺらの状態ですら読まない。それが短冊かってゆうくらいに切り刻まれているからね。

 しかも記事が断片的で書いてあることがまあ、わからない。

 くそっ、負けるもんか泣くもんか……。昭和の逆境アニメばりに、てんとう虫の歌ばりにオレは立ち向かった。

 途切れ途切れで意味をなさない記事たちを、ジグソーパズルのように1枚の紙面に再構築してゆく。

 これがまあ、びっくりするくらい(はかど)らない。見事なほど記事の切れ端たちがシャッフルされているのである。

 正直、悪意を感じましたわ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ