表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/15

推論

 ふと思いついて、自宅保管用のシフト表を机から引っ張り出した。それで2016年4月1日のオレの出勤予定を調べたら……

 うっは、休みだ。オレの記憶にある「去年」とは、ちがったシフトが組まれとる。

 ……まあまあ、だいたい予想はしていたけど、ここはオレが一度経験した「去年」とは微妙にちがうらしい。

 バタフライ・エフェクトとか、たしか言うんじゃなかったっけ。蝶の羽ばたきひとつで世界が連鎖的に変わる、風が吹けば桶屋が儲かるみたいな話だ。

 オレが2017年から2016年の世界にタイムスリップしたことにより、この過去は微妙に変化したのかもしれない。いや、もっさ変化したのかもしれない。


 それにしても、だ。なぜ1年前なんていうショートトリップを選んだかな、オレ。どうせだったら10年、20年とか遡ってみたくね?

 さすがに20年は、やりすぎか。当時はまだ実家にいた。そこにこの、おっさんのオレがあらわれたら、両親も当時の友人たちも腰を抜かすだろう。

 まあ薄々気づいてはいる。これが望んだタイムスリップではないことを。

 たぶんオレは何らかのトラブルに巻き込まれたのだ。そしてこれは、ある種の罰なのだと思われる。


 いったいどんな罰だろう。かりにオレが誰かを罰する側だとしたら、どんな手を考えるだろう。

 答えは明白である。(とりこ)だ。

 時間の虜にする。おなじところをグルグルと何周もさせる。そして死ぬまでそのループから解放しない……。

 自分で想像してゾッとした。オレはいま虜の状態なんだろうか。すると来年も再来年もずっと、おなじ2016年を繰り返すのだろうか。

 おなじ、じゃねえや微妙にちがう2016年だ。もうすでに微妙にちがっているからね!


 あれっ、じゃあもしかして……。それとは気づかずにオレ、すでに何周かしてんじゃね?

 ループする直前の記憶だけ消されてんじゃね? だから毎回、おなじ4月1日にバカみたいに慌てんじゃね?

 オレを罰している真っ最中の誰かは、オレのそのザマを見て柱の陰で笑ってんじゃね?

 恐怖と絶望で目の前が真っ暗になった。自分で言うのもなんだが、いまの虜に関する推論、百点でしょ。

 大事な部分の記憶を消すとかマジで勘弁してほしいっすわー。

 いや待て待て。映画の主人公ならこういう場合、記憶をなくした後の自分に向けて何かメッセージを残すんじゃなかろうか。

 ジェイク・ギレンホールならこんなとき、自筆のメモとか写真を残すんじゃなかろうか!


 いても立ってもいられなくなり、オレは部屋中を引っかきまわした。今日、仕事が休みで本当によかった。

 だが目欲しいものは何も見つからなかった。

 スマホやPC内のデータを調べても、2016年4月1日以降の情報(オレの行動記録、メールやSNSでのやり取り等)はいっさい出てこない。

 まあ、そう簡単には行かないか。だが、しかし。

 オレには強力な手がかりが、ひとつだけある。正確にはひと山というべきか。この部屋にあるなかで唯一の特異点。そう、偽札の束だ。


 すべてはここからはじまった、といっても過言ではない。

 最初にこの紙束が枕元に置かれていたのが去年だった。2(ツー)ブロックね。今年もおなじことが起きて紙束は4ブロックになった。

 そして何の因果かオレは時間を遡り、今年イコール去年になった。ややこしいですが。でも紙束の数だけは去年とノット・イコールだ。増えているのである。

 これだ、これですわ。これこそが未来のオレからのメッセージですわ。

 問題なのは、その意図するところがチンプンカンプンということだ。まあ、いい。時間はたっぷりある。下手すると無限にある。

 もちろん寿命は永遠というわけには、いかないだろう。

 だからオレは、この有限の命をつかって、ぜったいにこの状況を打破してみせるんだってばよ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ