オンリー・ミー
パニックですわ。そうとしか言いようがない。
ふうー、落ち着け落ち着け……これは何かの手ちがいだ。
とりあえず電話しよう。誰に? 現場との契約は切れているから、そうだな営業の富田だ。トミーに電話だ。
そう思ってスマホを手にした瞬間、凍りついた。
待ち受け画面の年月日が【2016年4月1日】になっているじゃないの! 思わずおネエ口調になっちゃったよ。
今年は2017年だ。小学生だって、しっている。
なんだよスマホまで調子わるくなったのか最悪だな……なんて呟きながらヤフーのポータルサイトを開いてみた。
【2016年4月1日】
終了ー! はい終了です。なんだよ、ネットまで調子わるいのか。そんじゃあテレビを点けてみますわ。もう半泣きだった。
テレビ画面を凝視しつつオレはリモコンを落としてしまった。
ビッキーちゃんや。ビッキーちゃんが生放送に出演している。彼女は2017年の初っ端に不倫騒動を起こし現在、絶賛謹慎中のはずである。
番組の内容がまたヒドかった。去年流行ったギャグのオンパレードである。これじゃあまるで、まるで本当に去年みたいじゃないか!
オレは部屋を飛び出した。すぐ近所に警察署がある。そこには正確な今日の年月日が記されているはずだ。日本国のね!
結果は散々だった。オレは肩を落としつつ部屋へもどった。途中コンビニでスポーツ新聞を手に取ったが、買う気にもなれなかった。
【2016年4月1日】
やはり、どこをどう見てもその数字に出くわす。これはアレやね、タイムスリップやねSFでゆうところの。
オレは夢を見ているのか。それとも気でも、ちがってしまったか……。楽しくなってきた、ぞい。オレそういうところ、わりとポジティヴ。
落ち込んでも仕方がない。こうなったからには何か原因があるはず。それを突き止めずには、いられなかった。そういう性分。
とりあえず現在の状態確認をしてみよう。
オレは、どういう因果か2016年、つまり去年の4月1日にタイムスリップしてしまったらしい。
こういう場合、SFの定石ではもうひとりの自分(過去の自分)と出くわす危険性について考えるものだが……。
テーブルに置いた入館証に目を落とす。IDカード。これが複数存在するとは考え難い。アパートの鍵にしてもサイフにしてもそうだ、何もかもがオレの手元にある。
もしオレがもうひとりいるなら、そいつは何も持っていないことになる。ま、だからと言ってそいつが存在しないことの証明にはならないけどね!
さてオレがひとりだと仮定して、去年オレはこの日、何をしていただろうか。
そうだ、あの日のことは忘れたくても思い出せない(ごめん、バカボン・ネタ)。
オレはあの日、日勤だった。職場で坂崎さんから施設閉鎖のニュースを聞いたから印象に残っている。つまり出勤日だったのだ。
あわてた。時刻を確認すると午前11時をまわっている。日勤は9時はじまりだから余裕で遅刻だ……が、しかし。
大遅刻なのにお叱りの電話がかかってこないのは、あきらかにヘンだ。もしかして、もうひとりのオレが出勤済みなんだろうか……。
いや、それはおかしい。入館証はいまオレの手元にある。これなくして出勤はできないのである。