エピローグ
4月1日。
今日は一年でアタシがもっともキライな日だ。自慢じゃないが、いや密かに自慢なのだが、人生で二度この日に失恋を経験している。
すごくない? ギネスブックに載るレベルじゃないかしら。てゆうか、殿方もちっとはタイミングを考えろって感じである。
アタシの黒歴史はさておき、探偵業に就いてからもコヤツは付いてまわる。
この日はとかくイタ電が多い。ふだんも冷やかしまがいの電話はあるが一日に集中することはない。ヒマ人たちがここぞとばかりに電話してきよる。
ふ、ふ、ふ……そうやっておちょくるがいいさ。誰もアタシの裏の顔をしらない。
探偵だけでは食べていけない。だから副業をやっている。アタシの美貌と知性をフル活用した素敵なお仕事。
まあ、ぶっちゃけ表の探偵業とそうかけ離れてはいない。ただ、ちいとばかしダークな領域に手を染めるだけ。
そら、依頼の電話がかかってきた。ミスターX的な人物からの指示でアタシは動き出す。
今回の依頼は一風変わっていた。いや今回「も」か。下準備が必要で、それがかなり面倒だった。
まず荷物が届いた。事務用裁断機と大量の古新聞。それを指定のサイズにカットする。大きさから言って紙幣……つまり偽札? それを、しこたま拵える。
てゆうか、なんでわざわざアタシに内職させるかなー。完成品の偽札を送ってくれたら済む話じゃないの! アタシのミッションはそれを届けることなんだから。
なんだかんだと文句は言っても、いざ出動すればアタシのテンションはガー上がる。今夜も大都会の上空をパラグライダーで飛ぶ。レオタードすがたで。
アタシの名は水戸かず子。コードネームは猫目石だ。