特徴
「それじゃ、種明かしと行こうか。もちろん私にすべてがわかるわけじゃない。私が持っている情報の範囲内で、だ」
「ええ、かまいません」アタシはうなずいた。
山田老人はポケットから何かを取り出して言った。
「これを見なさい」
それはプラスチック製のカードだった。バストアップの写真が印刷されていて、端に「入館証」と書いてある。
「若き日の私だ。カードが発行された年月日、そこがミソだな」
たしかに山田一郎の名が刻んである。発行日付は、と視線をスライドさせると……ドクン! 心臓が波打った。
ウソでしょ。2012年4月1日となっている。
たった4年で写真の青年は、いま目のまえにいる、おじいちゃんとなり果ててしまった。
信じられないことだが理解するのに時間はかからなかった。アタシが立てた仮説は、半分当たっていたのだ。
「あなたもループを経験していたんですね」
「30回ほどな。最初の2016年はたしか40歳だったと思う。だから、いま肉体年齢は70歳か」
おなじ年を30回も繰り返す……それがどんなものかなんて、もちろんアタシには想像できない。正気を保てるかすら自信がない。
「先ほどの青木青年の話を聞いて、私は胸が掻毟られる思いだった。おそろしいほど私の二の舞だったからね」
「でも、あなたは彼がそうなるとしっていた……」
「確証があったわけじゃない。さっきも言ったが、私は青木の顔すらしらない。ただ、彼のことを人づてに聞いただけだ」
「誰から」
「多々木という探偵からだ」
「アタシ?」
言ってアタシはハッとした。アタシのことじゃないと直感した。
「その多々木は男性?」
「そうだ」
「胡麻塩アタマで小太りの、」
「ああ、そうだ」
叔父やないか。その特徴は完全に叔父よ!
「まさか。叔父の一は2014年からニューヨークにいます。日本で会えるわけが……」
言いながらアタシはまたハッとなる。それを見て老人が言う。
「わかるだろう、世界線がちがうのだ。パラレルワールドだなSFで言うところの」
カラダが震えた。べつの世界線では、いまも叔父が吉祥寺の事務所を守っているらしい。じゃあアタシは?
「きみの叔父さん……多々木探偵とは、かれこれ長い付き合いになる。とはいえ、彼にしたら毎回私は一見だが」山田老人は自嘲気味に笑う。
「やはりあなたも、新聞広告の切れ端にあった番号を見て叔父の事務所に電話を?」
「そういうことだ。これ見よがしに赤丸がされてあった」
「誰なんですか、その赤丸をつけた人は!」
つい声を荒げてしまった。
そんなアタシを宥めるように老人は言う。
「わからん。わからんのだよ、そればかりは。悪魔の仕業か……いや、見方によっては天使の救済とも受けとれる。相談できる場所を示してくれた分、マシだったかもしれない」
「正直おそろしいです。あなたばかりじゃなく、青木さんまでがおなじ運命を辿ろうとしている……」
「まあ、そう悲観的にならないほうがいい。僅かだが変化の兆しも見えている」
「兆し、」
「そうだ。29回目のループでそれは起きた。……きみの叔父さんはね、毎回、一見の私の話をおもしろがって聞いてくれるんだ。そんな話、大好きって」
SF好きの叔父が瞳を輝かせるさまがありありと浮かんだ。