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友達転移  作者: 龍翠
二人目 魔王ゼスト
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 口に出してみたが、我ながらいい案だと思う。だがそれを聞いたヒナは、頬を引きつらせて暗い表情になっていた。どうしたのかと聞いてみると、ヒナは少し迷いつつも、言った。


「私が出歩くと、問題ですよね……? 人間、ですし」


 なるほど、とゼストは頷いた。どうやらヒナは、先ほどの話を覚えていたらしい。確かに人間の姿のままでは、出歩くことは難しいだろう。しかしゼストは不敵に笑うと、大丈夫だと頷いた。


「南の大陸に行ったことがあると言っただろう? この姿のまま行けると思うか?」

「思いません。何かあるんですか?」


 ヒナが期待に満ちた瞳でゼストを見つめてくる。その視線をくすぐったく思いながら、ゼストは頷いた。


「変身魔法、というものがある。それを使えば、お前は魔族の姿になることができるだろう。ただし身体的な能力は変わらないから注意しろ」


 おお、とヒナが瞳を輝かせた。ファンタジーだ、と叫びながら立ち上がる。驚くゼストへとヒナが詰め寄った。


「どんな姿になれますか!」

「そ、そうだな……。悪魔や獣人など候補はあるが、どういったものがいい?」

「かわいいものがいいです!」


 思わずゼストは頬を引きつらせた。かわいいもの、だと言われてもゼストにはそんな感覚は分からない。恋をしたことすらないのだから。


「よし、分からん。選べ。黒い翼と獣の尻尾、もしくは鱗、あとは……」

「尻尾でお願いします」


 即座にヒナが頭を下げてくる。何故か顔を青ざめさせていた。他にも候補があったのだが。


「ろくなものが出てこない気がしました」


 失礼な奴だ。思わず心の中でつぶやいていた。

 試しに早速使ってみることにする。ゼストはヒナを目の前に立たせると、右手をヒナへと向けた。頭の中で獣人の特徴をイメージする。獣人にも多くの種族があるのだが、今回は比較的人の姿に近いものでいいだろう。

 小さな声で魔法の名をつぶやくと、ヒナの体を淡い光が覆った。すぐにその光は弱くなり、ヒナの姿が露わになる。犬の耳と尻尾が増えたヒナの姿が。


「あれ? 変わってないような……」


 ヒナが自分の両手を見ながら言う。ゼストが頭を指し示すと、首を傾げながらも頭に手を伸ばした。犬の耳に触れ、ヒナが面白いほどに目を見開いた。


「耳がふさふさになっています!」

「ああ。尻尾もあるぞ」

「え? あ、ほんとだ! 犬みたい! あ、動かせる、すごい!」


 ヒナは尻尾を振り回しながら、無邪気にはしゃいでいた。これほど喜ぶとは思わず、ゼストの方が驚いてしまうほどだ。多くの場合、人族は魔族を忌避するものなのだが、ヒナにそれはないらしい。やはり異世界の人間は根本的に違うようだ。


「でもほとんど人間ですよね? これで大丈夫なんですか?」


 ヒナが心配そうに言うと、ゼストは安心させるために笑顔で頷いた。


「心配ない。最も人族の姿に近いものではあるが、それなりの人数がいる。誰も疑いなどしないだろう」

「そうですか。良かったです。ところでゼストさん」


 ヒナが真剣な表情でゼストを見る。今までにないその真剣な表情にゼストはわずかに身構え、そして、


「ゼストさんの笑顔って怖いですね」


 ゼストの笑顔が凍り付いた。


「…………」

「…………」

「……殺す」

「きゃー!」


 ゼストが睨み付けると、ヒナは楽しげな声を上げながら部屋の奥、本棚の方へと走っていった。ゼストは疲れたようなため息をつきつついすに座る。

 確かにゼストは多くの者に、その圧倒的な力故に怖れられている。だがただ単純に、笑顔が怖いと言われたことは初めてだった。少しだけ、悲しくなった。本当に少しだけだ。


「あれ? あの、ゼストさん、もしかして気にしてました?」


 ヒナがテーブルへと戻ってくる。ゼストが、そんなわけがないだろう、と手を振ると、しかしヒナは眉尻を下げてしまった。


「あの、ごめんなさい。そんなつもりなかったんですけど……」

「気にするな。事実だからな。ああ、事実だとも」


 ふっと笑い、遠いものを見るように壁を見る。ゼストも子供時代はあった。その時は皆にかわいいかわいいと言われ、評判に……。

 なっていない。その頃から、お前は戦士として大成するだろうと言われ続けていた。物心ついた時には言われていたはずだ。嬉しくなって笑顔になっても、何故か満足そうに頷かれていたはずだ。あれは、そうだったのか。その時から威圧感でもあったということか。

 その事実に気が付き愕然としていると、服の袖を引っ張られた。見ると、ヒナがこちらを気遣わしげに見上げていた。


「ああ、気にするな。大丈夫だから。魔王として何ら問題はないぞ。はっはっは」

「大丈夫に見えませんよ……」


 ヒナまで泣きそうになっていたが、やがて唐突に、そうだと手を叩いた。テーブルの下に置いていた自分の荷物を漁り始め、そこから小さな箱を取り出した。


「なんだそれは?」


 金属でできた細長い箱だが、綺麗な絵が描かれている。ヒナはその箱の上部、小さなでっぱりを掴むと、引っ張り始めた。


「あれ? かたい!」


 必死になって引っ張っているが、何も起こらない。恐らくは蓋なのだろうが、ヒナの力では開けられなくなってしまったのだろう。ため息をつきつつヒナの手からそれを奪い取ると、でっぱりを掴んで引っ張る。簡単に外れた。ヒナの手に戻してやると、ヒナは瞳を輝かせてゼストを見つめてきた。


「ゼストさん、すごい!」

「いや、簡単に外れたが」

「す! ご! い!」

「そ、そうか。ありがとう」


 ヒナの剣幕に思わず礼を言ってしまった。ゼストがすごいということにしたいらしい。話を聞く限り、鍛えられる環境にいたわけではないのだから気にすることはないと思うのだが。

 ヒナが箱を傾けると、開いた場所から黄色の石のようなものが転がり出てきた。それをゼストへと差し出してくる。受け取ると、ヒナはどうぞ、ととてもいい笑顔で言ってきた。


「これはなんだ?」


 石を渡して何をしたいのか。まさか色がついている石が宝物だからわけてくれるということなのか。思った以上に子供だなと思ってしまう。それを察したのか、ヒナが頬を膨らませた。


「あめです! 食べるものですよ」


 思わず、怪訝に思ってヒナを見てしまう。ヒナは自身も色のついた石を取り出すと、それを口に入れてしまった。目を丸くするゼストへと、ヒナが言う。


「うん。甘くて美味しいです。だから、どうぞ! あ、ちなみに噛んだらだめですよ」


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