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友達転移  作者: 龍翠
二人目 魔王ゼスト
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 簡単な自己紹介を済ませ、ゼストは自室へと向かう。少し後ろでは、ヒナがこちらを小走りで追ってきていた。

 少女の名前は、ヒナというらしい。家名もあるらしいが、そちらは面倒なので覚えていない。ただ、家名があるということは、貴族なのだろうか。もしそうだとすると、少し面倒くさいと思ってしまう。

 だがそれを聞いたヒナは、笑って首を振った。


「私のいた世界に貴族なんてありませんよ。あ、もしかしたら別の国にはあるかもしれませんが、少なくとも私が住んでいる国には貴族なんてなくて、みんな家名がありました」


 どうやらヒナは異世界から来たらしい。だが何故異世界と分かるのか、と聞いてみれば、前回来た時に色々と見た結論、とのことだった。


「そもそも前回とは違う魔方陣だろう。自分の世界とは思わなかったのか?」


 そう聞けば、ヒナは、今回はすぐに分かりました、とのことだった。


「だって私がいた世界に魔族なんていませんから。最初にゼストさんを見た時に、あ、異世界だって、思いました」

「ふむ。なるほどな」


 異世界というものがあるのなら、魔族のいない世界があってもおかしくはない。逆に人族がいない世界もあるのかもしれない。もしもあるなら見てみたいものだが。


「あの、私たちはどこに向かっているんですか?」

「俺の部屋だと言っているだろう」

「はあ……。それで、これは何でしょう?」


 ヒナが目の前にたれるものを掴みながら言った。

 ヒナには大きな黒い布を被らせている。ヒナの体を完全に覆っているため、ヒナからでは目の前がどうなっているか、今どこを歩いているのかすら分からないだろう。これは別に嫌がらせというわけではなく、他の魔族に見られないようにするためだ。


「現在、魔族は人族と戦争中だ。それは知っているな?」

「はい」

「魔族の拠点、しかも魔王である俺がいるこの場所に人間が侵入している。他の者から見ればどうなるだろうな。まあ、間違いなく拷問は待っているぞ」


 それを聞いたヒナの表情が見る間に青ざめた。どうやら少し脅しすぎたらしい。ゼストは慌てて、落ち着かせるためにヒナの頭を撫でるように優しく叩いた。


「怯えるな。見つかれば、と言っただろう。それに、例えお前が人間だとばれたとしても、俺といる限り問題はない。気楽にしておけ」

「はい……。ありがとうございます」


 ヒナの声はか細いものだった。ゼストは内心で慌てながらもそれ以上かける言葉が分からずに、結局気まずい沈黙のまま自室にたどり着いてしまった。

 ゼストの自室は、さすが魔王の部屋というべきか、とてつもなく広い。というのも、部下にはからせたところ、五十メートル四方だと言っていた。何故これほどの広さがあるのかはゼストも知らない。初代の魔王の趣味だろうとは思うが、何をしていたのか。


 ゼストは部屋の中央のテーブルまでたどり着いてから、ようやくヒナの黒い布を取った。視界が自由になったヒナは、物珍しそうに周囲を見回している。そこまで珍しいものがあるとは思わないのだが、何に興味を持っているのだろうか。

 ゼストの部屋は、隅にベッド、その側に執務をするための机がある。そこから少し離れて、入口の向かい側にも執務机があり、入口と執務机の間、つまり今自分たちがいる場所にはソファなども並ぶ。それが特徴のあるもので、他は書棚ばかりだ。部屋の隅まで並ぶ書棚には、様々な本が揃えられていた。


「図書館みたいですね」


 ヒナの言葉に、ゼストは胸を張って答える。


「むしろ下手な図書館よりも蔵書があると自負している。これらは全て俺が集めたものだ」


 すごいだろう、とヒナへと同意を求める。口調が少し崩れつつあるが、ヒナも、ゼスト本人も気づかない。


「はい! すごいです! 読んでもいいですか?」

「読めるのならいいぞ。好きなだけ読むといい」


 ヒナが顔を輝かせると、早速近くの本棚に駆け寄り、一冊抜き出した。ゼストはそんなヒナを見つつ、いすに座る。ヒナはしばらく開いた本に目を落としていたが、やがてゼストへと振り返った。


「ゼストさん!」

「どうした?」

「読めません!」


 ゼストの頬がわずかに引きつる。もっと早く言えと内心で毒づきながら、ヒナを手招きした。


「仕方がない。読んでやろう」

「え? いいんですか?」

「どうせ暇だ。早く来い」


 ゼストが手招きすると、ヒナは嬉しそうに駆け寄ってきた。ゼストは自分の隣にもう一ついすを置き、そこにヒナを座らせる。ヒナから受け取った本をテーブルに広げた。


「…………。学術書だが」

「いいですよ」

「物語もあるぞ?」

「これでいいんです」


 こんなものを読んで何が面白いのか、ゼストには理解できない。知識としての価値はあるが、ヒナにそれが必要とはどうしても思えなかった。むきになっているだけなのではとヒナを見てみるが、そういった様子は見られない。本当にこれを読みたいらしい。人は見かけによらないものだ。


「ゼストさん、何か失礼なこと考えませんでした?」

「気のせいだ」


 鋭いな、と苦笑しつつ、ゼストは本を読み始めた。




 どれほどの時間を読み続けていただろうか。気づけばすでに真夜中とも言える時間になっており、ランプの明かりだけが部屋を照らしていた。半分ほど読み終えたところでそのことに気が付き、ゼストは本を閉じた。


「え? まだ途中ですよ?」

「もう夜だからな。食事を運ばせる」


 ゼストがそう言うと、ヒナもようやく部屋が暗くなっていることに気が付いたようだ。申し訳なさそうに頭を下げるヒナの頭に、ゼストは首を振った。


「どうせ俺も暇だからな。気にするな」


 魔力をこめて、指を鳴らす。途端に部屋が明るくなった。ヒナが驚き目を丸くして、ゼストは怪訝そうに眉をひそめた。


「こういった魔法は初めてか?」

「はい……。どこが光っているんですか?」

「天井だ。俺の魔力の光だからな、俺が消すまではこの明るさだ」

「すごい……。電気代いらずですね! 魔法すごい!」


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