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友達転移  作者: 龍翠
二人目 魔王ゼスト
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 石造りの地下室に、その男はいた。漆黒の鎧に身を包み、背には醜悪な翼を持つ。その翼と、そして腰までもある長い髪や瞳もまた黒だ。ただしそれ以外は人族と変わらない姿だった。男は周囲からは魔王と呼ばれていた。

 魔王ゼスト。それが男の名だ。


 ゼストが今いるこの場所は、ゼストが住む城の地下室だ。はるか昔、大規模な儀式を行うために作った部屋であり、そのためかとても広く、部屋の入口からでは最奥を見ることができない。それだけの広さがあるにも関わらず、この部屋には何もない。

 理由は単純なもので、この地下室は細い階段を通らなければ入ることができず、物置にするには不便すぎる。かといって他の用途は思い浮かばない。常駐する兵の部屋は城にあるし、罪人や虜囚は今の施設で十二分に足りている。今では本当に、何の意味もない場所だ。


 だからこそ、ゼストが他に知られたくないことをするにはとても都合のいい部屋となる。

 ゼストは地下室の中央に立つと、その場所に魔方陣が描かれた紙を置いた。この紙はゼストが幼少期から持っていたものであり、どこで手に入れたのかは覚えていない。効果は、友人を作る、というものらしい。城の書庫の本に記載があった。


 それを知ってからというもの、ゼストは暇があれば地下室に下りて魔方陣に魔力を流している。だが今のところ、効果はない。時間を変えたり、自身の服装を変えたりと様々なことを試してはいるが、何の意味も成していない。魔方陣に魔力を吸われている感覚はあるため、魔方陣そのものに問題はないはずだ。

 魔方陣に詳しい者に相談するべきか、と思うこともあったが、今のところは誰にも相談してはいない。理由はこれも単純に、恥ずかしいからだ。


 魔王は魔族の中では最強の称号だ。その最強である自分が、友人を作るために必死になって魔方陣を使おうとしている。喜劇にすらならない内容だ。

 かといって、やめようとは思わない。どうしても、友人、というものを作ってみたい。


 ゼストには大勢の部下がいる。皆が頼りになる者で、彼らに不満はない。だが、部下はあくまで部下でしかなく、真に心を許せる相手は一人もいない。常に孤独であり、けれど弱みを見せるわけにもいかず、常に威圧感を振りまいている。

 孤独。常に孤独。それがとても、寂しく、辛い。

 この魔方陣なら。この魔方陣で呼び出した誰かなら、魔王などという立場など気にせず友人になってくれるかもしれない。そんな淡い期待を抱き、魔方陣へと魔力を流し続けていた。


 今日は南側の大陸への侵攻の作戦会議だった。それはいつもより長引き、辺りはすっかり暗くなっている。今日ぐらいはやめようかとも思ったが、これほど遅い時間には試したことがない。せっかくなのだから、とこうして地下室に赴き、魔力を流していく。

 いつもとは違う反応だった。魔方陣の光は見る間に強くなっていく。正直に言うとどうせ無理だろうとも思っていたので、完全に虚を突かれた形だ。驚くと同時に、期待に胸を膨らませる。


 そして、光が治まった直後、何かが魔方陣の上に落ちてきた。ふぎゃ、という妙な悲鳴と共に。

 落ちてきたものを見て、ゼストは思わず顔をしかめていた。

 人間だった。それも、若い女だ。友人を求めて魔方陣に縋った結果が、この少女。落胆しそうになるが、しかし人間の前だ、威厳は保たなければならない。


「人間がこの地に何用だ?」


 低い、底冷えのするような声。少女がびくりと体を震わせて、恐る恐ると顔を上げる。ゼストを見て、そして、首を傾げた。


「えっと……。魔族の人、ですか?」


 その反応に、ゼストは困惑する。捕らえた人間と会うと、相手はいつも泣き叫び、許しを請うてきた。今回もそうなるだろうと思っていたのだが、しかし少女は怖れることもなく、むしろ好奇心で瞳が輝いている。この少女には恐怖というものはないのだろうか。


「人間。我が怖くないのか?」


 ゼストが聞くと、少女は首を傾げた。


「もしかして、有名な人ですか?」


 思わずゼストは頬を引きつらせた。有名かどうかなど関係ない。ゼストの威圧感、このあふれ出る魔力を感じれば、普通なら恐怖で発狂するはずだ。しかし少女は、まるで魔力を感じていないかのような反応だった。

 自分で名乗るのは少し気恥ずかしいものがあるのだが、しかし名乗らないわけにもいかない。ゼストは自室の鏡の前で何度も練習した偉そうなポーズ、つまり腕を組み、相手を見下す姿勢で、低い声のまま言った。


「我が名は魔王ゼスト。魔族を束ねる王、魔族最強の者だ!」

「おー……」


 ぽかんと、少女が間抜けな顔をさらす。もっと恐怖に震えてほしいのだが、少女は本当に分かっているのだろうか。


「これがどや顔なんですね」

「意味は分からんが馬鹿にされた気がするぞ!?」


 思わずゼストが叫ぶ。少女はくすくすと楽しげに笑う。


「魔王を前にして、余裕だな……。俺は疲れてきた……」


 この少女には何を言っても無駄なのだろう。ゼストはため息をつき、その場に腰を下ろした。お互いに座っていても、やはり目線はゼストの方が高い。仕方なくゼストは少女に視線を合わせる。少女は少しだけ目を丸くして、そしてまた笑った。


「突然魔王さんと会ったら、多分私もすごく怖かったと思います」


 魔王さん。まさかのさん付けだ。そこは魔王様だろう。そんなことを心の片隅で思いながら、ゼストは顎で先を促した。


「でも私がここに来たということは、あの魔方陣を使ったんですよね? 友達が作れる魔方陣を」

「うぐ……」


 やはり、この少女が魔方陣で呼び出された者らしい。魔王がそんな魔方陣を使ったと知られていることに恥ずかしくなる。ゼストは顔が赤くなっていることを悟られないように顔を逸らした。そのゼストの目の前で、少女が立ち上がる。そして、満面の笑顔で言った。


「私だと不満かもしれませんが、友達になりましょう!」


 本当に、物怖じしない。こいつには突然呼び出されたことへの不満などはないのだろうか。呆れたような眼差しで少女を睨むと、初めて少女の笑顔が引きつった。


「その……。だめ、ですか?」


 先ほどとは違い、怯えの混じった顔。ただしそれは、魔王に対するもの、というよりも魔王の返事を怖れているようだ。先ほどまでの少し無理のある明るさよりは、こちらの方がしっくりときてしまう。何故かは分からないが。

 ゼストは仕方がないとため息をついて、言った。


「俺がお前を呼び出してしまったことに変わりはない。よかろう、貴様の友人となってやる。光栄に思え」


 相手を見下しながらの言葉。それで自分のことを嫌ってほしいと思ったのだが、しかし少女は嬉しそうに破顔した。


「はい! よろしくお願いします!」


 何故これで喜ぶのか、意味が分からなかった。


壁|w・)更新再開、ただし魔王編が終わるまで。

そこまでしか書き終えていないのです……。

朝と夜に更新できればいいな、と思いつつ。断言はしないでおきます。


ではでは。

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