零話 とある男の最期
―――昔の話だ。とある城で息を引き取ろうとしている男がいた。
「__様!__様!逝かないで下さい!まだ関東を取り戻すことができていません!約束は必ず守るのではなかったのですか!」
「そう言うな、兼続。私だって後悔している。関東を必ず取り戻すと約束したのにまだ取り返せていない。将軍との約束だってまだ果たせていない。
私は事あるごとに―――の生まれ変わりだと主張してきた。それだって間違いだったのかもしれない。私は軍神などと言われてはいるが約束を守る事さえ出来ないどうしようもない奴だったのだな」
男は自嘲的に呟いた。
「そんな事はありません!__様は戦も強く、内政でも数多くの実績を残してきました。人々がそれを認めたからこそ色々な名前で呼ばれるようになったのではありませんか!まだ逝く時ではありません!
生きていればもっと多くの実績を残す事が出来ます。そうすればさらに人々は__様を称え、―――の生まれ変わりだという話も信じるようになります!」
「いや、もう遅い。私の命はもう数刻も持たないだろう。軍神などと呼ばれていたが、最後は結局こんなものだ。兼続、あとは頼んだぞ」
そう言った後、男は倒れた。顔は青白く、かろうじて息をしているといった様子だ。男のいった通り、あと数刻も持たないだろう。
「__様!__様ぁぁぁ!!」
こうしてこの数刻後、軍神と呼ばれた男は静かに息を引き取った。
この日の夜にはこの城で泣き声が一晩中聞こえたと言うが、次の日からはまったく聞こえなかったという。
この時に兼続はこう言ったという。
「__様がこの日本ではない他の国に行っても、宇宙まで飛んで行っても、たとえ別の世界に行ったとしても必ず傍で付き添います。だから待っててください」
恋に身を焦がれた女性のような言葉だが、兼続は男である。少なくとも現世では。
この兼続の言葉を聞いていたのは、兼続自身と死体となった男だけだった···