6日目 ハウ・ムーダント
今回も一つにまとめています。
俺は街の巡回の見学と称し、イグノバルンの活気ある街をハウと共に練り歩いている。
俺は5歳程の姿で、紅いローブを裏返さず、背中のヴァルレイ王国の国旗はあえて隠していない。
ハウもいつもの騎士姿で、身軽なタイプの鎧を身に着けているため、街中では浮いていて良く目立つ。
そんな彼女と共に歩く俺も、充分に目立っているのだろう。
通りを歩く人達の中には、立ち止まって俺達に視線を送ってくる人もいる。
「この国は治安が良いので、街や街道を見て回る程度がほとんどなのであります」
「ハウ達が犯罪にいつも目を光らせてくれているお陰だね」
「鼻が利くのであります!」
ハウは右の拳を胸に当て、犯人を嗅ぎ分けるのは自信満々だ、と言いたげな表情だ。
なるほどな。さすがはわんこのお巡りさん、もといフェンリルの“グロワール”だ。
俺はハウに守られるように、彼女の斜め左後ろの位置をキープした。
一歩一歩、商店や行き交う人々をなにげなく眺めながら、俺は彼女と街を散歩した。
ハウの茶色のポニーテールが、彼女が歩くたびに腰の辺りをゆらゆらと揺れる。
犬耳はメリッサの猫耳よりも若干鋭角で、可愛い。
犬尻尾はふっさふさの茶色狼の毛で、これまた可愛い。
彼女が後ろを向いている今なら見放題だ。
いや、行き交う人々に怪しまれないためにちょっとは自重しよう。
他の兵士も俺達に付いて来ようとしていたのだが、あまり大人数で歩いて道を占拠すると、国民や他国の行商人のような人達とか、みんなに悪いかなと思い、丁重に断った。
別に俺が、ハウと2人きりでお散歩デートもいいかなぁとか、そんなやましい気持ちになったわけではない……はず。
それから少し歩くと、俺達は屋台が数件立っているところに辿り着いた。
俺は閃き、少し前の方を歩くハウを引き留めた。
「ねぇハウ、小腹空かない? あそこの屋台で何か買ってこようか?」
「本官がジン陛下の分を買ってくるであります! 本官は職務中ですので、また今度にします……」
「そう? じゃあ、お願いしようかな。お金は俺のお小遣いから引いておいてね」
「了解であります! 何がよろしいですか?」
「ハウがいつも食べているようなものを選んできて。ハウがどんな食べ物が好きなのか、知りたいな」
ハウは少し驚いたような顔をしたあと、笑顔になって屋台へと歩いて行った。
俺は屋台から遠くもなく、近くもない所に1人、立つ。
時折、俺に手を振ってくる小さい子供に俺も同じように返し、ハウが帰って来るのを静かに待った。
頼んでから2分程で、笑顔のハウが屋台から戻って来た。その手に持っていたのは、2つのパンに挟まる形で、葉物野菜と素揚げされたレンコンのようなもの、そしてたっぷりのソースが掛かった大きながステーキが1枚入っている。
茶色い紙で包まれているそれからは、とても美味しそうな香りが漂ってきた。
「あそこの屋台のステーキバーガーは絶品なのであります!」
ハウはそう言って、ステーキバーガーを俺に差し出してくれた。
俺は彼女にお礼を言ってそれを受け取り、口へ運んだ。
あぁ、これはまたソースがすごい……ワインでも入っているのかな? いや、何かもっと隠された秘密がありそうなお味だ。
素揚げされたレンコンの食感がいいアクセントになっていて美味しい。
俺の頬が緩んでいった。
「美味しいね! やっぱりハウも食べたら?」
「しかし……」
ハウはそれでも、うんと言ってくれない。
でも彼女の目は正直で、俺が右手に持つステーキバーガーから視線が外れない。
ここで俺はまた閃いた。
「兵士とかに見られなければいいんだよね?」
「そうです……ですが……」
「わかった!」
俺は〈姿くらまし〉を発動させた。俺の吸血鬼の魔力が吹き上がる。
〈姿くらまし〉の効果範囲を俺だけではなく、ハウの体もすっぽりと覆うようにした。
そして俺達の姿が完全に隠れたのを確認し、俺は『大人化』も発動させた。
俺の身長はハウを越え、余りある。
「ジン陛下ッ!?」
俺は神級の五感を頼りに彼女の可愛い犬耳を探り、この現状に驚いている彼女に耳打ちをした。
「今、俺達は〈姿くらまし〉中だから、誰にも見られることはないよ。さぁ、口を開けて」
「えッ? ほ、本当に……! よいのでありますか……!?」
「うん。はい、あーん」
「ぁッ、あーん」
俺はハウの甘い声を頼りに、左手に持ち替えたステーキバーガーを彼女の口へと運んだ。
続けて3口程、俺は彼女にステーキバーガーを“餌付け”、じゃなくて“分け与えた”。
ここまでしておいてまだ臆病な俺は、紙の中でステーキバーガーを回転させ、俺の歯型が付いていない裏側を彼女に与えた。
ハウに嫌われるのではないか、と心配になる心が、今の俺にもまだどこかにあるようだ。
「はむっ……んーッ……おいしぃでありますぅ。あっ、本官ばかりではなくジン陛下も、もっと食べてください」
「うん。じゃあ〈姿くらまし〉は解除するね?」
「はいっ」
このままハウが食べ進めれば、いずれ俺の食べた箇所に行き着いてしまう、と考えていた俺は、すんなり彼女の言葉を受け入れた。
俺は『子供化』を発動し、同時に〈姿くらまし〉を解いた。
しかし、いざステーキバーガーを見てみると、歯型が付いているのは片側だけだ。
これは俺が最初、子供の姿で食べたときのものとは、明らかに違う。やはりハウの歯型だろう、と簡単に推察することができた。
「ね、ねぇハウ……?」
「アーっ、そ、そのッ、裏側の方が美味しそうな香りがしたもので、つい……」
怪しい。
この純情そうなハウが確信犯だ、とでもいうのだろうか。
もしそうならば、彼女はわかった上で、食べかけのステーキバーガーを俺に渡してきたということになる。
「もしかして……いや、なんでもない」
その“もしかして”を考えると、なんだか恥ずかしくなってしまった。
そもそも、ハウが途中で食べるのをやめて、残りを俺に渡してくるだろうな、とは考えていた。
頬を染めたハウが少し屈み、俺の右耳にそっと囁いた。
「間接キス……ジン陛下“も”、でありますね」
自供が取れてしまった……この犬耳少女は確信犯です。
ハウはペロっと舌なめずりをしながら、満足そうな笑みで俺を上から見つめてきた。
俺はハウと目を合わせることができなくなり、その代わり、彼女の食べかけのステーキバーガーに無性で齧りついた。
体も、五感も、全て神級の俺は、感じることで得られる情報量が普通の人と比べて段違いに多い。
このステーキバーガー1つを食べることだけでも、それは簡単に実感できてしまう。
俺はハウの扇情的な残り香をはっきりと感じ、それによって俺の心臓は鼓動を速められていった。
最後の一口も残さず、俺は食べきった。
俺はハウに、無邪気な子供の笑顔で言う。
「本当に美味しいね、これ」
「照れ隠しッ、可愛いであります……!!」
ハウは口を両手で塞ぎ、俺の様子を楽しんでいるようだ。
彼女の犬尻尾がよく動いている。
俺は崩れそうになる表情に意識を集中させた。
「ほ、ほら、そろそろ人も増えて来ちゃたし、行くよ」
そんなハウを横目に、俺は唐突に歩みを始めた。
「あっ、お待ちをー!!」
俺、そんなにわかりやすかったかなぁ……これも“女の感”ってやつなのか?
世界は謎に包まれている。
◆
その後もハウと共に街をパトロールし、結果的に俺達はこの国の平和を確認した。
フェンリルは集団行動が得意であり、このような業務はお茶の子さいさいだ。
遠吠えで仲間の位置を確認したり、敵に攻撃を仕掛けるタイミングを伝えあったりする。
遠くの方でフェンリルの遠吠えが俺の耳に聞こえたが、ハウは動じなかった。
たまに郊外で軍事演習を行っていたりするため、その声だろうと彼女は言っていた。
フェンリルの魔法の属性は火と水と石。
きっと演習場では、そのような魔法がバンバン撃たれているのだろう。
石属性というのは土属性の石版のような能力らしい。
俺はその2つの属性の違いはあるのかが気になり、ジオノールの知識をさらに探ってみた。
どうやら砂と石が2つの分かれ目となっているらしい。
フェンリルが自ら生み出すことができる石は、宝石ではない。
だが、フェンリルは宝石などの加工が得意であったり、採掘や建設現場などでも活躍の場が多い。
そして気になるフェンリルの“グロワール”の能力は『切断』だ。
指定した空間と空間を切り離し、断つ。それがハウの能力だ。
戦闘を想定した場合、使い勝手の難しさがもちろん存在する。それは座標を指定するときに敵に気づかれやすいという点だ。
座標を指定するときは集中力と時間が掛かり、その間に敵に感づかれ、指定座標から外れてしまうことが多いのだ。
俺ならば、どのくらいその能力が引き出せるのか、怖くもあり、楽しみでもある。
◆
夕食後は、すでに習慣化されつつある、女の子の部屋に直行というイベントをそつなく熟した。
フェンリルの城は、吸血鬼の城の塔を出て、左を向いた側にある4つの城のうちの右から2番目。
俺はハウの後ろに付いて行き、フェンリルの城の塔を最上階まで登って行った。
ハウは自分の部屋に着くなり、すぐに鎧を脱ぎ始めた。
下にはちゃんと服を着ているため、俺が恥ずかしがる必要はないはずなのだが、なんだかドキドキする。
ハウは鎧を全て脱ぎ、1つ1つ丁寧に、豪華な箱に詰めていった。
その光景を、俺はハウのベッドの上から眺めている。
床にしゃがんだ彼女は、左の壁側にある箱に、鎧の状態を隅々まで確認しながら、箱に詰めているようだ。
ハウの姿は、鎧が外れて薄着となり、女性的な体のラインがかなり強調されている。
彼女はおっぱいも大きくて魅力的だが、太ももの引き締まり具合がこれまたエロい。
ふくらはぎと太ももがお互いを押し合い、さらにその上には大きなおっぱいが息をつくようにもたれ掛かっている。
ま、全くもってけしからん……!!
なんだろう、このめちゃくちゃ抱き付きたくなる感覚はッ……!!
ハウは鎧を仕舞い終わり、ベッドの方に歩いてきた。
黒いショートパンツとタンクトップ姿の彼女は、部屋着の女の子という感じだ。
歩くたびに胸が少し揺れる彼女は、俺の左側に座った。
「そっ、そんなにいろいろな所を見られると……恥ずかしいですっ」
俺は慌てて目線を前に戻した。
「ごめん……!」
「私って、やっぱりあんな鎧なんか着ていると、可愛くないですよね」
ん?
なんかガラッと雰囲気が変わったような……なんだろう。
あ!! 一人称とか口調が変わったんだ!!
さっきまでは『本官』とか『~であります』って感じだったのに……もしかしてこっちが素のハウなのかな?
「鎧姿のハウはとても綺麗な女騎士、っていう印象かな。脱いだ今は、すごい女の子っぽくなったなぁ、とは俺も思うけどね。鎧を脱いだ瞬間、ハウが別人みたいになっちゃうのも、まとめて全部可愛いよ」
「可愛い……?」
俺は彼女の目や表情だけを見つめた。
ハウは俺の言葉に、目を瞬かせていた。
なんだかそれが可愛くて、俺は彼女に微笑んだ。
「うん。さっきの……その、間接キス……緊張しちゃったよ」
「っ、私も……あのときは勢いに任せて、ジン陛下をからかうようなことを言ってしまって……申し訳ありません」
「ううん、むしろ仲良くしてくれて嬉しいよ。あのとき、俺は心の中を完全にハウに言い当てられちゃって、思わずドキッてしたよ」
「ついつい、ジン陛下のことをよく観察してしまうんです。可愛くて、かっこよくて……」
『ジン様のことを考えて、いつも胸が苦しくなるんです』と最後に付けたし、ハウは俺に熱い視線を向けてきた。
この際だから、ハウともっと仲良くなりたいな。
「今さらだけど『陛下』って付けなくてもいいよ? 敬語もなしでいいんだし」
「……よろしいのですか? 私がもっと調子に乗ってしまうかもしれません」
「ハウともっと仲良くなりたいなぁ、って思うんだ」
「しかし……皆様の前だと、なんだか恥ずかしいといいますか、その……」
ハウは両手の人さし指をつんつんし始め、少し俯き加減になっていった。
ハウって本当はものすごく恥ずかしがり屋さんなんじゃ……?
「じゃあ、2人っきりのときだけでも、どう?」
「ふ、2人っきり……!!」
「まぁ、今もそうなんだけど」
「クゥーッ……!! そうでした!! 鎧を着てこの部屋に入ってきたので、そういうことは気にしていないつもりだったのですが……!!」
ハウは両手で顔を隠し、背中を丸めて縮こまってしまった。
「やっぱり、ハウの雰囲気が急に変わった理由は、あの鎧にあるんだね?」
「じ、実は……そうなんです」
ハウは自分と鎧の関係について語ってくれた。
小さい頃から親に鎧を着させられ、修行を積んできたこと。
でもハウ自身は内気な性格で、剣がぬるいと叱られてばかりだったこと。
厳しい修行の果て、鎧を着れば騎士然とした正確に変わってしまうようになってしまった、ということ。
「大変だったんだね……」
「いえ、お陰で統括将のお仕事もそれなりに可能になったので、両親には感謝しています」
そのハウの表情は笑顔だった。
俺は『大人化』を発動させ、ハウよりも大きくなった。
俺の変化に驚く彼女の目を見つめ、俺の左手を彼女の頭に乗せた。
「ッ!!」
彼女の小さな頭の上に乗った左手を、ゆっくりと動かした。
「よく頑張ったね。ハウは偉い子だ」
「クぁッ……!! じ、ジン陛下ッ……こ、これはッ」
「よしよし」
俺が撫でる度に、ハウのキリッとした目はやわらかくなっていき、徐々に恍惚とした表情に変わっていった。
「クぅ……ジンへいかぁ」
「ん? “陛下”?」
俺が確認するかのようにハウに問うと、彼女の目が一瞬、大きく開かれた。
彼女は何かを言いだそうと口を動かすが、なかなか声が出てこない。
俺はただ無言で微笑み、彼女の頭を撫で続けた。
「……じ、じ、うぅ……ジ……ジン“様”……?」
俺は微笑みを絶やさず目を瞑り、ただ首を横に振って彼女に返事を返した。
「あぐっ……じ……ジン“殿”?」
俺は目を瞑ったまま、首を少し捻った。
「クぅ~……じ、じ……ジン“君”……?」
んー、ハウは頑張っているけど、“君”って呼ばれるイメージじゃないんだよなぁ。
俺はまた首を横に振った。
「クぅー……!!」
俺は未だに目を瞑りながらハウの頭を撫でている。そのため彼女の表情が見えない。
しかし彼女の可愛い唸り声だけで、俺は抗議されているのがわかった。
「クぅ……じ、じ、じ……“ジン”……!!」
その言葉で俺はやっと目を開け、ハウの様子を確認した。
俺と対照的に彼女は目を閉じ、顔は真っ赤だ。
彼女は体を少し捻るように、両手で俺と彼女の間にある布団を固く握っている。
ハウのそんな姿がなんとも言えず、可愛い。
俺は両手で、彼女の頭をわしゃわしゃと撫でて褒めた。
茶色の長いポニーテールを崩さないように、俺は気を付けた。
「よくできたね!! ハウは本当に偉いなぁ!!」
「クぅー!! ジン……! 好きぃ!!」
ハウは右足をベッドに乗せ、俺の首に両手を回し、俺に勢いよく抱き着いてきた。
俺も彼女を抱き寄せ、左手で彼女の頭を、右手で背中を撫でた。
「俺もハウのこと好きだよ。可愛いなぁもう」
「クぅーん!! クンクン、クーッ、ジンはやっぱりいい匂いがする!」
ハウはちゃんと敬語も取れたようだ。
彼女に無理をさせているようだったら、すぐ止めようと思っていたけれど、そうじゃないようで安心した。
匂い? いやいや、俺なんか別に。ハウはもうものすごいいい香りなんだから。
ハウ、可愛いなぁ……大きな犬みたいだけど、こういうのもいいもんだな。
あ、そういえば、俺のお腹にかかる彼女の乳の圧力がすごい……あぁ、めっちゃやわらかいなぁ。
「普通に話してくれるようになったね。嬉しいよ」
「うん……! 2人のときだけだからね? みんなには恥ずかしいから言っちゃダメっ」
「わかった。なんだか特別感があっていいね、こういうの」
俺の言葉を聞いて、ハウは俺を慈しむような目で見つめてきた。
「ジンは特別だよ……だってジン以外、こうやって普通に話す相手なんて、いないもん」
「え? ご両親とか、昔からのお友達とかは?」
「ううん、みんな敬語かな。本当に……ジンだけなの」
俺だけ……特別……? 嬉しすぎる。最高じゃないか。
「ハウ」
「んっ」
俺は堪らずハウにキスをした。
突然だったのにも関わらず、彼女はすんなりと俺を受け入れてくれた。
俺の両手から、ハウの引き締まった背中の感触が伝わってくる。
彼女の両腕によって、俺の首にかかる彼女の体重が増し、俺はその勢いを使って彼女をベッドに押し倒した。
俺の独占欲が満たされていくのを感じた。
ハウの性格は3パターンあるんだ。
まずは鎧を身に着けることによって発生する“騎士然としたハウ”。
次に、鎧を外しているときに現れる“内気なハウ”。
最後に、俺にだけ見せてくれる彼女の本当の姿、“甘いハウ”。
その全てを俺だけは知っている。
俺はハウの口の中に侵入した。
彼女の長い舌が俺に絡んでくる。
キスはその後もさらに続いた。
◆
俺達はベッドに横になって何気ない会話をしていた。
「他のみんなとはどんなことをしたの?」
ハウがいきなりそんなことを聞いてきた。
えーっと……どうしよう……なんて答えるのが正解なんだ!?
くっそぉ……!! 選択肢さえあれば、こんなことには!!
「ま、まぁ、ハウと似たようなことかなぁ」
俺は左側に寝転ぶハウの方へ首だけ動かすと、そこにいる彼女は眉間に皺を寄せ、じっと俺の顔を見ていた。
「……嘘ついてるでしょ?」
「ナ、ナンノコトカナー」
女の子からこんなことを聞かれると、動揺して演技が下手になってしまうのを我ながら自覚してしまう。
俺は目を泳がせてしまい、額からも変な汗が出てきた。
「ね、ねぇ!! もう……最後までしちゃたの?」
ハウは俺に詰め寄り、俺の左肩を両手で掴んだ。
彼女の顔は不安がいっぱいという感じで、それを見て俺はすぐに口を開いた。
「え!? それはまだだよ!! まだ結婚してない訳だし」
「はぁ……よかったぁ」
ハウは大げさに左手を胸に当て、安心したように息を吐いた。
俺はなんだか嬉しくて、口が笑ってしまった。
「可愛い」
「っ、騙されないよ? 最後まではしてないけど、ちょっと手前まではしたんでしょ?」
「アー、イヤー、ソノー」
これが本職の取り調べなのか……くっ……!! 粘り強い!!
「あ、わかった……おっぱいでしょ?」
「なんでわかったの!?」
「やっぱりそうなんだ……ジンがおっぱいを見ているときは、とっても幸せそうな顔してるんだもん」
えぇぇええええ!!
「もしかして俺、鎌掛けられた……? っていうか、そんなに見てるだけでわかっちゃうものなの……?」
「そうだよ。女の子なら男の子にどこを見られているかくらい、すぐわかっちゃうよ」
そ、そうだったのか……もう俺は無意識の境地でおっぱいを見ているからな。そこはもう諦めよう。思考停止。
「敵わないなぁ……はっはっはっ」
苦笑いしか出てこない。
「触ったの? そ、それとも……」
ハウは顔を赤らめ、両手を胸を隠しながら俺に尋ねてきた。
ここはもうある程度、本当のことを言わなければいけないのだろうか。
別に『誰の』とは言わなければいいかな?
「舐めたり、吸ったりしました……」
「そうなんだ……そうだよね……みんなそれくらいしてでも、ジンくんが欲しいんだよね」
ハウは顔を更に赤らめ、自分の横を向いた胸を眺めている。
「い、いやいや!! 別に、ハウに要求するつもりで言ったわけじゃないから!!」
「うん……決めた!! 私もやる!! これは敗けられない女の戦いなんだから」
「エェーッ……!!」
ハウは上半身を起こし、黒のタンクトップを脱ぎ始めた。
俺はその光景になぜか目が離せず、露わになっていく彼女の素肌を凝視した。
彼女の背中が下から少しずつ見えてくる。
俺の鼓動が早まっていく。
やがて、ハウは上半身が裸になった。
引き締まった美しい曲線美だ。
しかし、ここからだとまだ前の方は見えない。
彼女は胸を両腕で隠し、恥ずかしそうに背中だけをこちらに向けている。
「そっち、向くよ?」
「ちょ、ちょっと待って。まだ間に合うよ? 俺は全員の胸を見たわけじゃないからね!」
「いいの。私が……ジンにおっぱいをあげたいの」
ここまで女の子に言わせて、断るのは野暮ってもんだよな。
「わかった。こっちを向いてもいいよ」
ハウはゆっくりと俺の方を向き始めた。
彼女の胸の横の輪郭が少しわかってきて、谷間が見えそう……というところで、彼女はまた背中を向けてしまった。
「クーっ……!! やっぱり恥ずかしいよぉ!!」
「俺は目を閉じるから! こっちを向くのも、服を着るのも、全部ハウ次第だからね!」
「うん……」
ハウの小さい返事を聞いて、俺はすぐに目を閉じた。
少し経って、布団が擦れるような音が聞こえた。
次いで、俺の左側のベッドが少し沈みこんだ。
俺の心臓の高鳴りがうるさいくらいに聞こえてくる。
彼女の体温を近くに感じる。
どんどん近づいてくる。
「お口……開けて」
ハウの優しい声が耳元で聞こえ、俺は彼女に従ってすぐに口を開けた。
俺の左側のベッドがさらに沈む。
俺の右耳辺りの頭に、ハウの手が添えられ、少し左に顔を向けさせられた。
「はぁ……はぁ」
ハウの少し荒い吐息が聞こえる。
5秒後、俺の口に柔らかい何かが入ってきた。
俺は唇でそれを挟みこみ、吸っては舐めてを繰り返した。
「クーぅんんッ!!」
ハウの鳴き声が俺をさらに加速させる。
「ジンッ、可愛ぃ……そんなにいっぱい吸っちゃって……なんだか、変な気分」
俺は一心不乱にハウを求めた。
◆
「ジン……クッ……こんなに小っちゃくなっちゃって……もぅッ、可愛いんだから」
ハウが鳴き続け、少し経った頃。
俺の吸っているものが少し大きくなったように感じた。
気のせいか、と思い、俺はそのまま吸い続けた。
◆
今度はもう片方も味わい始めた。
すると、突然、俺の口の中に異変が起こった。
仄かに暖かくて、甘い、そんな美味しい液体がハウから飛び出してきた。
「っ!?」
「あれ!? 私、出ちゃってる……母乳」
俺も最初こそ驚いたが、脳内に雷が落ちたかのような衝撃で思い出したことがあり、安心することができた。
俺は気にせず、そのまま無我夢中で吸い続けた。
◆
俺の吸いたくなる欲求が少し落ち着いた。
今の俺は、上半身を起こしたハウに抱っこされ、彼女の左胸に右頬を付けている。
「目、開けてもいいよ」
「いいの?」
「うん、もう慣れてきたから」
「わかったぁ」
俺は少しづつ目を開けた。
そこにいたのは、俺を優しく抱擁するハウの姿。
大きな胸はピンと立ち、俺は頬に感じるその弾力の虜となっていた。
「私、なんで母乳出ちゃったんだろう……」
「たぶん、そうぞうにんしんじゃないかなぁ」
俺は『乳幼児化』しているため、ちゃんと喋れない。だがそれがいい。
想像妊娠、犬はそれで母乳が出るらしい。
ハウはフェンリルで神狼なんて呼ばれることもある。狼も犬もフェンリルも似ているのだろう。
あとは……リリルの“グロワール”が今頃作用したか、かな。
そこはわからない。
「そっかぁ……そういえばそういう話も聞いたことあるかも。最初に出たときは、びっくりしちゃったよ」
「ふっ、ハウのおっぱい、おいしかったぁ」
「んもぅ、この甘えん坊さんめっ」
頬を染めたハウは左腕で俺を抱きかかえたまま、右手で俺の左頬をつんつんしてきた。
なんて最高な気分なんだろうか。
これがハッピー乳ライフ……いや、パラダイスかなぁ。
け、健全ですねぇ。
動物の豆知識にまで話を広げております。
ハウは多重人格ではないと思います。
騎士のときの方が元気感はありますね。
次回はアリーシェのお話です。
お楽しみに!!




