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未知数の能力

早くも第三章突入です。

 (まぶた)に強い光を感じ、目が覚めた。

 布団に入ったまま、俺は頭上の窓から入る陽の光を避けるため、起き上がった。

 陽の高さから推察するに、もう昼時ではないだろうか。寝たのは今日の朝だもんなぁ、仕方ないよね。


 昨日は(あかつき)の昇るちょうどその頃、この王城に到着することができた。

 吸血鬼の城のテラスに舞い降りると、少女達が待ってくれていたのが嬉しかった。きっとずっと起きていたのだと思う。そこは申し訳なくも思ったけど、みんなには素直にお礼を言った。


 彼女達は俺を心配してくれて、怪我がないか、お腹が空いていないか、結果はどうだったとか、俺は怒涛の質問攻めに合った。俺は少しずつ言葉にしていったが、まだまだその全容を話したわけではない。


 ムヒョウが作ってくれていたサンドイッチを口にして、お腹が満足した後、すぐに眠くなってしまった。俺は質問を投げかけてくるみんなを謝りつつ断り、すぐ寝てしまったんだ。

 今日こそ昨日起こった諸々(もろもろ)を、みんなに話さないとな。


 俺はベッドの右側から立ち上がり、ベッドの頭側にある大きな窓を覗く。

 そこにあるのは、吸血鬼の城の最上25階から見えるヴァルレイ王国の首都、イグノバルンの街並み。


 窓はベッドの横の長さよりも少し大きいため、同時に俺の上半身も反射させていた。

 その窓に写るのは、5歳程のジン・ヴァルレイ。テオーリア王国に行く前の晩、リリルに言われたことを試してみた結果、また小さくなれた。


 自分自身を小さくしようと念を込めると、案外簡単に出来たんだ。

 大きくなった時は魔力の使用感があったが、小さくなる時はそれもなく、一瞬でストンと目線が下がった感じだった。

 その代わり、服は大きなままになってしまったため、ボタンに触れて魔力を流すことで、小さな体に合うように調整する必要が出てしまったが。


 自分の体がよくわからない。『神速』も『神の手』も『大人化』も不思議なものだ。冥界の女神の力で、俺が持つ全ての能力が上がっているのだろう。

 ママが言っていたこと以外の様々な力が、後からどんどん見つかっていく。

 俺にとっては嬉しいことだけど、その力の予想が全くできないのが不安だな。

 このまま俺はどこまで行ってしまうのだろう。 


 ジェイアスに言われたことを思い出す。 

 お前は神にでもなったつもりか……だったかな。俺は所謂(いわゆる)半神(デミゴッド)と呼ばれる部類だと思う。俺には神の血が半分入っているんだ。


 どうなるかはわからないけど、このままじゃ敵対してくる純粋な神とは戦えないかもしれない。

 だけど、ママは俺のことを『最強』と言っていた。あれは俺に自信をつけさせる方便だったのだろうか、俺は何か違うと思う。

 俺は“神の力”をまだ使え(こな)せていない。それはまだ伸び白がある、ということじゃないだろうか。

 俺はまだまだ強くなれる、いや、ならなければいけない。


 やるべきことが多そうだな。

 俺はこれからの未来を想像して、少し溜息が出て来た。

 こんなときは、ゆっくりとお風呂にでも入って気持ちを入れ替えよう。

 俺は王の部屋から階段へと続く扉へと歩いて行った。


 ◆


 紅い王のローブを纏い、俺は準備を済ませた。そして吸血鬼の城の10階にある会議室まで、階段を降りて行く。

 会議室の扉を開けると、中にいるのはムヒョウとアカリだけだった。

 2人とも今日の朝まで起きていたはずなのに、早起きだなぁ。


「2人ともおはよう。あ、じゃなくてこんにちは、かな?」

「ふふっ、そうね。こんにちはっ、ジンくん」

「こんにちは、ジン様。起こしに行こうかとも思ったのですが、まだ、お疲れだと思いまして……」


 2人はいつも通りの位置に座っていた。俺がいつも座る扉に一番近い席の両隣だ。

 右がアカリ、左がムヒョウで、今までは2人で仲良く会話をしていたという雰囲気だな。

 “グロワール”の少女達は昨日の昼間から、俺がまた子供の姿になって歩き回っているのをすでに知っている。


「ありがとう、アカリ。おかげでゆっくり寝れたから、もうすっかり元気だよ!」

「それはよかったです!」


 俺は笑顔になったアカリを見て微笑みながら、2人の間の席へと座った。


「ねぇ、ジンくん」


 左にいるムヒョウからお呼びが掛かってそちらを向く。


「ん? どうしたの?」

「ジンくんは和食(・・)って知ってる?」

「っ! 知ってるよ! もしかして今日のお昼ご飯は……?」

「ええっ、和食にしようと思っているのだけど、ジンくんはお好きかしら」

「やったぁ! 大好きだよ! 実は楽しみにしてたんだぁ」

「あら! そうだったの? 何か食べたいものがあったらいつでも私に言ってねっ。今日は“冷たい天ぷらお蕎麦”にしようかしらって、アカリちゃんとお話ししていたのだけれど……」

「うぉー!! お蕎麦! ムヒョウが打つの?」

「ふふっ、そうよっ。じゃあ、ちょっと待っててね。今すぐ作るから」

「うん! 楽しみ!」


 ムヒョウは席を立ち上がり、俺の前方にあるキッチンへと向かって行った。

 お蕎麦かぁ、最初に期待していたご飯ものじゃないけど、大好きだ。しかもムヒョウが作るんだから、尚更楽しみだ。


 ムヒョウはこちらを向く位置にアイランド型のキッチンがあり、後ろの壁側には魔導具である冷蔵庫や棚が置かれている。

 全体的にムヒョウの髪の色と同じ、淡い水色をしていて、とても清潔感がある。

 キッチンに立つムヒョウの姿は、どこか母性的なオーラが溢れている。本当にいい奥さんになるんだろうなぁ、と俺はいつも見惚れてしまう。


「……ジン様はやはり、料理が上手な女性がお好みですか……?」

「好きだなぁ……」


 俺はムヒョウに見惚れながら、横にいるアカリの質問になんとなしに応えた。

 言った後、なんか告白したみたいになっちゃったかな、と俺は自分の発言を反芻し、客観的に考えてみた。


 アカリの方を見ると、顎に右手を置き、目を瞑りながら真剣な顔で何かを考え込んでいる。


 どうしたものか、ともう一度ムヒョウの方を見てみると、彼女はキッチンの台の上に両手を付き、俯きながら固まっている。

 ムヒョウはさっきまで(せわ)しなく動いていたのに……明らかにいつもの雰囲気とは少し違うムヒョウに、俺は心配になった。


「む、ムヒョウ……? どうしたの?」

「あっ! ううん! なんでもないわよっ? あぁえーっと、こね鉢はどこに置いたかしらねぇ」


 ムヒョウは俺と目線を合わせることなく後ろを向き、蕎麦粉とかを混ぜる容器を探すために棚を開け始めた。

 その動作は珍しく落ち着きがない。なかなかこね鉢が見つからないのか、上の棚の扉を開けたかと思えば今度は下を開け始め、キッチンを右に左に動き回っている。


 どうしよう……とりあえず、ムヒョウを落ち着かせに行こう。

 俺は席を立ち、ムヒョウのいるキッチンへと向かった。キッチンの左側から入って行く。

 そこに着くと、ムヒョウはやっとこね鉢が見つかったようで、今度はまた別の物を探して、またバタバタし始めた。

 ムヒョウは俺が近づいていることに気づいた様子はない。

 キッチンの後ろにある上の棚を探しているムヒョウに、5歳程の身長の俺は彼女の割烹着の腰部分を少し引っ張る。


「ムヒョウ、ゆっくりでいいよ。ムヒョウが怪我しちゃうかもしれない」

「えっ、ジンくん! ……そうね、危ないわよねっ」

「うん! それじゃあ俺にもなんか手伝えることがあったら教えてね。それまではまたあそこに座って、ムヒョウの邪魔をしないようにするから」


 ムヒョウの顔は少し赤くなっていた。だけど、俺はそれを気づいていないフリをして(きびす)を返す。

 正直、照れた顔のムヒョウはいつにも増してむちゃくちゃ可愛い。でも、神の力に頼りきって女の子から好かれたり、俺が手を出すのはちょっと違う気がする。

 そうか……これも一種の生殺しか。


「あっ、待って!」


 ムヒョウに小声(・・)で呼び止められ、俺は再び彼女の方へ振り返る。

 なんかのお手伝いがあるのかな? ムヒョウさんのご用命とあらば、いざ参らん。


「ん? なんかのお手伝い?」

「ううん、そうじゃないの……あのね……その……」


 ん? お?

 ちょっと待って下さい、ムヒョウさん。あなたはそんなに顔を赤くして、何を口にしようとしているんですか!?

 まだ俺の心の準備ができてな……じゃなくて、そういうのはもっとお互いを知ってから決めるものですよ!!

 ムヒョウの言葉は途切れながらも続き、俺は変な汗を流しながらムヒョウの次の言葉を待った。


「……うんとね……あっ! そうだわ! ジンくんクッキー食べる? 昨日焼いた残りがあるのっ。お食事前だけど、一口どう?」


 なんかはぐらかされた!!

 ちょっと不完全燃焼感があるのは俺だけでしょうか……でも、クッキーか。

 昨日の3時のおやつで、紅茶と一緒に出てきたやつかな。あれは甘くてサクサクで美味しかったなぁ。


「食べる!」


 ハッ! つい、ムヒョウの話に乗ってしまった。絶妙に重要そうな会話を流されてしまった気がする。

 ムヒョウはその場にしゃがみ、キッチンの下の棚を開けた。そこから、中にクッキーがぎっしり詰まった透明なガラスの瓶をそっと取り出した。

 ムヒョウはアイランドキッチン越しに、アカリの様子を下から覗くように確認したあと、瓶の蓋を開けた。


「他のみんながいると、ジンくんが恥ずかしいかなぁと思ってね。だから今がチャンスなの」


 ムヒョウは瓶の中からクッキーを1つ摘まみ上げ、それを俺の口元に近づけてきた。

 こ、これって……もしかして!!

 確かに、俺の身長はキッチンの台といい勝負だし、ムヒョウも今はしゃがんでるから、円卓に座るアカリに見られることはないけども!!


「ジンくんっ、はいっあーん」


 お口にあーんだとぅおおお!!

 それに対して俺は……俺は……受け入れ体制、完璧です。

 俺は大きく口を開ける。


「あーん」


 ムヒョウは頬を少し染めながら、俺の口へと右手に持ったクッキーを入れてくれる。

 ムヒョウの指が俺の唇に少し触れてから離れた。

 これが幸せの味なのか……甘い、甘いなぁ……感動です。


「ジンくんはあーんされるの好き?」

「大好きぃ」

「ふふっ、じゃあまた今度、私がやるからねっ」

「うん!」


 ムヒョウはそう言って、左手で俺の頭を撫でてくれた。

 完全にムヒョウに餌付けされて飼いならされているような気もするけど、こういうのも悪くない。


 このあとムヒョウが作ってくれた冷たい天ぷら蕎麦は職人レベルと言っても過言ではない出来で、ムヒョウさんには脱帽した。

 味が日本で食べたのとほとんど変わらなかったため、違和感は感じられなかった。しいて言えば、椎茸や海老などが少し大きめで、満足感が上がったのは嬉しい誤算だった。


 ◆


 その日の夜。

 会議室にて、作戦の報告と成功を祝う祝杯が上げられることになった。


 まずは、俺の報告から行なった。

 昨日起こったこと、俺がしたことを“グロワール”の少女達に説明した。

 俺の新しい能力のことや、ミディアやエミルバの話をしようかどうか迷ったが、隠し事はなるべく作りたくないので話すことにした。


 俺の話が進むにつれ、少女達はそれぞれ違う反応を見せていった。

 話の途中で区切るとなんだか変な空気になりそうだったため、マシンガントークで一気に俺の話を終わらせることに成功だ。


 さて、祝杯を上げようかと俺が言おうとしたとき、少女達の声の方が速く、俺の声は(さえぎ)られてしまった。


「やっぱりジンはやったにゃ! メリッサの言った通りになったにゃ!」

「クゥーッ、カッコイイであります! 本官もその光景を見たかったでありますッ……!」

「そうかぁ、ジン殿はやはり凄いのだな。まさか純粋な身体能力だけで、あのヨルムンガンドの“グロワール”を倒してしまうとは……実に素晴らしい」


 メリッサは円卓に両手を付きながら、その場を飛び跳ねて喜んでいる。

 ハウは円卓に両肘を付け、両手に握り拳を作って悔しそうに顔を歪める。

 エイルは腕を組みながら、俺を今までとはまた少し違った目つきで見つめてくる。

 メリッサの猫の尻尾、ハウの犬の尻尾、エイルの龍の尻尾、3人それぞれの尻尾の主張が激しくなるくらい振られている。

 なんだか喜んでくれて俺も嬉しい。


「ねぇジン、ところでそのぉ……『神の手』っていうのはそれほどすごいものなの?」


 グレイアねーちゃんが不思議そうな顔で俺に尋ねてきた。

 んー、どうしよう。まぁ、言葉じゃなかなか伝わらないよね。

 『神の手』のお陰で、今回の作戦はスムーズにいったという節は否めない。とても重要な要素だからこそ気になるのだろう。


「なんというか……こう……撫でたら……コロッと、ね」


 俺もあの光景を思い出し、グレイアねーちゃんには苦笑いで答えるしかない。

 俺はなんだか両隣の空気がいつもと違うな、と思ってアカリとムヒョウの方を見た。

 2人とも溜息を吐きそうな陰鬱とした表情になっていた。

 美少女のそんな顔も絵になるなぁ、なんてこと考えちゃダメだよな。


 すると、フェリティアが口を開く。


「ここで試してみる? 私が撫でられる役になってもいいわよ?」

「えっ!? 実際、どうなるかは俺にも予想できないよ? 撫でた2人ともが俺に甘えてきたけど、その内1人は子供みたいになっちゃったし、たぶん一時的だと思うけど……」

「じゃあ尚更、ジン君の能力をもっと知るためには被検体が必要でしょ?」

「それはぁ……でも、フェリティアが心配だし……」

「フフッ、私のこと心配してくれるんだ。大丈夫、私は“グロワール”よ。その2人は普通のヨルムンガンドの子達だったのだから、私ならそれ以上大変なことにはならないんじゃないかしら」

「うーん、一理あるような、ないような……?」

「死にはしないわよ。ね?」

「うーん……」


 俺は悩んでしまった。フェリティアの頭を撫でたら彼女はどうなってしまうのだろう……確かに死にはしないだろうけど。


「ジン君になら、私のことをめちゃくちゃにされても構わない」

「めちゃッ!?」


 この娘はいきなりなんてことを言いだすのですか!!

 フェリティアを……めちゃくちゃ……ハッ! き、危険だ! 俺の童貞力が危険水域まで下がっている!!

 他のみんなも、フェリティアの発言に目を見開いて驚いたり、唖然として口を開けている。


「ちょっと待ってください! 私も撫でられる役に立候補します!」


 えッ……!?

 アカリが勢いよく手を挙げた。

 アカリよ、まぁ落ち着くんだ。


「私も立候補するわっ!」


 ムヒョウさんまで何をおっしゃるのです!?


「わっちもやるのじゃ!」


 り、リリルまで……。この間から急にどうしたのだろう。


「メリッサもジンに撫でられたい!」


 ねぇメリッサ、俺の話聞いてた? 我を忘れる可能性があるんだよ?


僭越(せんえつ)ながら、本官も興味があると言いますか……」


 獣組はただ単に興味あるからなの!? あっ! まだ獣組には最後の砦がいるからな、彼女は大丈夫だろう。


「みんな積極的なんだね……じゃあ、その……わたしもよろしいですか?」


 なぜだぁぁああ!! アリーシェ、君とはまだ会話もろくにしていないじゃないか! 一体、俺のどこにそんな危険を冒す要素があると言うのか! WHY!?


「無論、我もやぶさかではないぞ」


 エイルが楽しそうに笑ってる……さっき以上に尻尾が揺れてるよ。


「私はジンのお姉ちゃんなのよ! ジンを助けるのは当然よね!」


 そんな正当な権利みたいに……いや、嬉しいけど。


「まぁ、アンタの神の能力は相当なものだと思うわ。こうして、みんなを惹きつけちゃうんだしさ……私もその能力を(じか)に体験して、どれだけのものか試したいみたいわね」


 嘘だと言ってよバーニア……君は絶対断ると全俺が言ってたのに、衝撃のラスト展開だったよ。


 なんでそこまでして……俺の説明不足だったのかな。

 おかしい、本当にありのまま起こったことを説明したはずなのに……自我が保てなくなる場合もあるのになぁ。

 うーん、と俺がまた悩んでいると、この光景を静かに見ていたフェリティアがまた口を開く。


「なによ、みんなして私の真似しちゃって。……ッ!! 私、(ひらめ)いたわ!」

「え、何を?」


 一指しゆびを上げて閃いたと言うフェリティアに、俺は首を(かし)げて尋ねた。


「みんながジン君に撫でられたいのなら、みんなで体験しちゃえばいいのよ。他の人に見せられないような姿になってしまうのなら、時間を多めに取って一日交代で順番にやっていけばいいのよ!」


 みんなが口々に『賛成』という声を上げ始めた。

 これじゃリスク分散というより、蔓延(まんえん)じゃない? え? いいの?


 ◆


 結局、明日から彼女達の職場見学も兼ねて、一人一日ずつ、俺は彼女達と行動を共にすることとなった。

 その日の夜に『神の手』体験をさせていく……らしい。もう俺は流れに身を任せることにした。思考停止。


 今はムヒョウの用意した豪華な料理とお酒で祝杯を上げている。

 グレイアねーちゃんの『ジンの作戦の成功と帰還を祝して、カンパーイ!!』という号令で始まった祝杯は11人全員で盛り上がっている。


 大人の姿になればお酒を飲んでいいとアカリに言われ、俺は赤ワインを口にする。

 日本ではお酒なんてそんなに飲んでいなかったから正確じゃないかもだけど、日本とヴァルレイ王国で味に違いは感じられない。

 ステーキやチーズ、ウインナー、ベーコン、マッシュポテト、サラダなど、次々に出てくるムヒョウの料理をみんなはぺロッと平らげてしまう。


 その場は笑い声で盛り上がりながら、隣同士で会話をしたりしている。

 どこの世界もあんまり変わらない飲み会風景に、少し懐かしさを感じる。

 俺は考え深げにその風景を見ていると、赤いツインテールの少女が俺に話しかけてきた。


「あ、そういえばアンタがテオーリア王国の王から貰ったっていう金のネックレスってさぁ、どういうのだったの? アタシにもちょっと見せてくれない?」

「あぁ、ごめんね。あれはエミルバの肩に掛けて返しちゃったんだ。ヘッドのプレート部分に、球体の上に龍が乗る模様のテオーリア王家の紋章が入っていて、その金のネックレスをジェイアスは肌身離さず付けていたらしいよ」

「そう……まぁ、持ってて犯人だと疑われても困るか」

「そうだね。大事な物のようだったし、特段欲しいわけでもなかったからね」


 バーニアはふぅん、と言ってフォークで刺した大きなステーキにかぶり付いた。

 するとアカリが今の会話を聞いていたらしく、俺に向かって笑みを浮かべる。

 『大人化』した今は、俺の方がアカリを見下ろす形になる。


「ジン様は優しいですよね」

「そうかなぁ、かなり派手にテオーリア王国を壊してきたようなもんだけどね」


 荒らしたきたとも言う。主に王家の人達を。

 俺はそんなことを思い出しながらウインナーを口に入れる。パリッという音がして肉汁が口の中に広がった。旨い!


「ジン殿、ジン殿の動きというのは、やはりジオノールの戦闘技術が使われているのか?」


 エイルが右手に酒を持ってやってきた。ムヒョウはキッチンで料理中なので、俺の左の席が空き、そこにエイルが座った。

 エイルは長い黒髪を後ろで纏めていて、長いサイドは光の当たり加減で紫の光を反射している。


 ほろ酔いのエイルは普段の凛々しい雰囲気とは違い、なんだか妖艶さを醸し出している。紫の力強かった眼も、今はどこか優しい。

 俺には殿(どの)を付けるのに、ジオノールには呼び捨てなんだな。


「うん、そうだよ。俺の力は『神の力』と『ジオノールの知識や技術や経験』と『能力の吸収』だからね。もしこういう力が無かったら、あんな大胆なことはしようとも思わなかっただろうね」

「ジン殿はその無理難題をやってのけたのだ。凄いぞ、我はジン殿を誇りに思う」

「いやいやっ、誇りだなんて大げさだよ! ところで、ジオノールとは仲が良かったの?」


 俺は手を横に振って否定した。そんなことよりジオノールとエイルの関係の方が気になってしまう。

 脳内で調べても良かったけど、個人的な過去を探るんだったら直接聞いた方がいいかな、と思った。


「ジオノールは我に剣を教えてくれたのだ。最後まで剣だけでは勝てなかったが、全ての能力を使った試合ならば我が勝ったことがある、苦戦したがな。ジオノールは強かったぞ」

「へぇ、そうだったのか。剣かぁ、まだちゃんと握ったことはないなぁ」


 襲いかかる剣を摘まんで投げ飛ばしたことはあるけど。

 ジオノールが剣をねぇ……じゃあ俺が剣を振ってもそこそこ使えるっぽいな。

 でもさすがはバハムートの“グロワール”。エイルは吸血鬼の“グロワール”に勝利できるんだもんなぁ。強い。


「先程話した……アレの我の順番が来れば、その日の昼間は我とまた戦ってくれないだろうか。今度は刃が尖っていない剣と能力を使った試合を、ジン殿としたいのだ」

「うーん、わかった。じゃあ寸止めで終わらせる試合をしようか」

「おぉ! 受けてくれるか! 感謝するぞ、ジン殿!」


 と言ってエイルは元の自分の席へ帰って行った。

 まぁ、エイルに怪我をさせないようにすれば大丈夫だろう。仮に俺が怪我しても死なないし、エイルも寸止めは慣れっこのはずだ。


「ジン様、気を付けてくださいね」


 右に座るアカリが心配そうな表情で俺のことを見つめてくる。俺は笑顔を返しながら言う。


「死にはしないよ」

「うーっ、そういう問題じゃないです。ジン様の体はジン様お1人のものじゃないのですよ?」


 怒って頬を膨らませるアカリも可愛い。指で突っつきたい。しないけど。


「そうだね、国民のみんなとか?」

「え、あっ、そうです! まさにその通りですよ、ジン様」


 ん? まぁいいか、可愛いし。


 ◆


 祝杯の宴はこの日の夜遅くまで続いた。


 終わる頃になって俺はようやく気付いたことがある。

 みんなに混じってリリルとメリッサもお酒を飲んでいて、2人とももう立派な成人女性だったということに、俺は驚きを隠せなかったんだ。

 2人とも身長は同じくらいで、小さいときの俺の身長と比べると、頭1つか2つ分しか変わらないというのに、ガブガブお酒を飲んでいた。

 異世界は広い、俺はそう思った。

予定通り、国内のお話になります。

ジンは小さくなるのも大きくなるのも自由自在です。


次回からはジンが日替わりで“グロワール”の少女達の職場を回っていきます。

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