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第3章ー24

「古今未曾有の大勝利になりそうです」

 3月10日の夕刻、岸三郎中佐が笑顔を浮かべながら、満州軍総司令部からの電文を海兵師団司令部にて海兵師団長の林忠崇中将に示した。

 その電文には、露軍の損害が書かれていた。

 林中将がそれを読み上げた。


「負傷して捕虜となった者、無傷で我が軍への投降を決断した者、合わせて露軍の捕虜は20万名余りの見込み。また、露軍の死者は4万名を超えると思われる。おい、本当か」

 林中将が驚きの声を挙げた。


 土方勇志少佐も声が出ないほど驚いた。

 投降した捕虜を尋問した結果、奉天に展開していた露軍は32万名ほどと推定されている。

 その75パーセント以上を露軍は失ったことになる。

 確かに古今未曾有の大勝利だ、土方少佐は驚嘆した。

 他の師団司令部の幕僚も全員が驚いている。


 その様子を見ながら、岸中佐は続けた。

「間違いありません。この大戦果を受けて、天皇陛下からのお言葉を満州軍総司令部どころか、各軍司令部にまで賜りました。日本国内では各地で提灯行列まで出る騒ぎだそうです」

「それはそうなるだろう」

 師団参謀長の内山小二郎少将が口を挟んだ。

「日本史上どころか、世界史上に残る勝利だ」


 土方少佐は、海軍兵学校での戦史教育を思い起こした。

 歴史の書物に出てくる数々の戦いを見ていると兵站関係のこと等から考えると有りえない兵力が出ていることがある。

 源平合戦で源頼朝が富士川の戦いで20万騎の兵力を集めていたとか、湊川の戦いで足利軍は50万もいたとか。

 ここ奉天に25万の兵力をかき集めるのにどれくらい我々が苦労したか、そういったことから考えると実際に10万を超える軍勢を集めるのは大変な苦労がいるのだ。


 そして、双方の兵力がほぼ確実な中で、日本史でほぼ同数、いや劣勢にあった側が、正面から野戦で敵軍と戦い、その兵力の75パーセント以上を戦死、または捕虜にして打ち破った戦いは自分の知る限り存在しない。

 世界史でもカンネーの戦いやザマの戦いくらいしかないだろう。

 我々はそれに匹敵する大勝利を挙げたのだ。

 露軍の士気の低下は顕著なものになるだろう。

 これは祝うべき大戦果だ。


 最終的には講和条約締結後に判明することだが、奉天会戦に参加した露軍約32万の内脱出に成功したのは6万に満たないものだった。

 また、大砲等の全ての重装備は失われ、脱出に成功した将兵のほとんどは小銃のみを持って脱出するような有様だった。

 露軍の死者・行方不明者は6万程、残りの20万程は日本軍の捕虜になった。


 余りにも露軍の捕虜が多かったために、日本への捕虜の移送に満州軍総司令部は追われることになり、日本国内でも捕虜収容所の大幅な増築等が図られる等、露軍の捕虜の取り扱いには日本全体が四苦八苦する羽目になる程だったのだ。


 土方少佐たちが勝利の感慨に浸っていると、林中将がぽつんと言った。

「だが、我々の勝利の代償も大きかったようだな。我々、海兵師団だけでも全体の兵の半数近く8000名程が死傷した。日本軍全体ではどれくらいの死傷者が出たことやら」

「仕方ありません。我々は露軍の脱出を食い止めたのですから、露軍の集中攻撃を浴びて損害が多数出るのは止むを得ませんでした」

 内山少将が林中将を慰めた。


 日本軍はその代わり、奉天会戦に参加した25万のうち9万程が死傷するという大損害を被った。

 勝利を収めた日本軍もロシア領内どころかハルピンまで行くのが最早、精一杯になった。

 これだけの大戦果を挙げても、ロシアの首都を日本が攻略することは不可能だ。

 文字通りカンネーの勝利であり、急いで講和を日本は結ぶ必要があった。

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