第3章ー23
カウリバルス大将は露第2軍に対し、自殺前に各自が最善の手段を執ってこの日本軍の重囲下から脱出するように指示の書類を遺してはいた。
だが、遺された将兵にしてみれば、最後まで脱出してから責任を取って自決してください、とカウリバルス大将を非難したくなる戦況だった。
この自決により、露第2軍は所属する各軍団、各師団、旅団等が思い思いに脱出することになったからだ。
だが、そのために日本第3軍と第4軍の対応も困難になり、最も脱出距離が短かったこともあって、奉天包囲戦から露第2軍は最大の生還者を出すことに成功した。
リネウィッチ大将は露第1軍に対し、新台子を既に日本軍が抑えていることから、鉄道沿いの撤退を最初から断念していた。
敢えて東側の山間部を経由しての脱出を隷下の各部隊に指示して脱出を図ったが、そこには黒木大将率いる日本第1軍が先回りしていた。
山間部からの脱出を決断していたために、最初から砲等の重装備は露第1軍は放棄している。
そのため露第1軍は苦戦を強いられることになった。
そして、山間部は当然冷え込みもきつかったし、山間部を進むために進路を誤って別の方向に進んでしまう部隊まで出だした。
リネウィッチ大将は最終的に行方不明になっている。
生き残った露軍の各部隊の記録を突き合わせ、更に日本軍の交戦記録とも照合した結果、3月6日の夕刻まではリネウィッチ大将が生存して、露第1軍の指揮を執っていたことは判明しているが、それ以降は露第1軍の司令部共々消息がはっきりしなくなる。
将軍として捕虜となるのを避けるために階級章を剥ぎ取って脱出しようとしたために、日本軍には露第1軍の司令部と分からないままに交戦して全滅の末に戦死したのではないか、というのが最大の有力説だが、リネウィッチ大将がそこまでして脱出するとは思えないという反論もあり、馬賊に襲われて死亡したという説もある。
(実際、包囲網から脱出しようとする露兵は馬賊にとって格好の標的として襲撃を受けており、多くの死傷者が出ている)
司令部を失った露第1軍は多数の行方不明者を出しつつ、多くが生きるために日本第1軍と鴨緑江軍に投降していった。
最も脱出に苦労して、文字通りほぼ全員が捕虜か、戦死かの運命をたどったのが、ビリデルリング大将の露第3軍だった。
露第1軍と露第2軍に挟まれる中央部に配置されていた上に、ビリデルリング大将が鉄路沿いに撤退を図ったために退路を読んだ奥大将率いる第2軍の執拗な追撃を受けた。
更に日本満州軍総司令部が、戦果拡張のために野津大将率いる第4軍に総予備を投入し、野津大将はその部隊を露第3軍の横撃に投入したために、露第3軍は正面と右翼からの猛攻にさらされることになった。
そして、3月7日に辛うじてたどり着いた新台子には、いるはずの友軍の露第2軍の残存部隊は既にほとんどが脱出するか、降伏するかしていなくなっており、海兵師団が脱出阻止のために立ち塞がっていた。
ビリデルリング大将は皇帝に会わせる顔が無いと言って、統制を保っていた残存部隊全ての先頭に立って海兵師団の陣地に突撃し、戦死した。
ビリデルリング大将の戦死が、露第3軍の弔鐘となった。
生き残っていた露第3軍の将兵は続々と日本軍に投降した。
こうして、奉天会戦は日本軍の大勝利で終結した。
奉天会戦の終結です。
後、この結果のエピローグを2話描いて、第3章の終結になります。
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