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第3章ー21

 3月4日早朝から新台子に展開した海兵師団の薄い戦線に露第2軍の攻撃が始まった。

 第2軍が総力を挙げて準備を整えたうえで、海兵師団に襲い掛かってきたのであれば、海兵師団は容易に突破されていたであろうが、第2軍は何としても退路を確保しようと準備を充分に整えることなく、兵力の逐次投入のような形で新台子に対して攻撃を加えた。


 何しろ、日本第3軍の猛攻は続いており、日本第4軍も昨夜から攻撃に参加している。

 露第2軍は腹背に敵を受ける状況になっていた。

 日本第3軍と第4軍がハンマーとして無慈悲な攻撃を加え、海兵師団と秋山騎兵団が鉄床となって露軍の退路を断っている。

 問題は、その鉄床が異常な近接火力を誇って露軍の退路の前に立ち塞がっていることだった。


「1挺でも機関銃が健在では、歩兵の近接が困難なままです。全てを砲撃で潰してください」

 前線の歩兵部隊から哀願めいた依頼が届く。

 だが、後方の砲兵部隊からの返答は無慈悲だった。

「我々には重砲はない。野砲だけだ。潰せない機関銃座は歩兵が潰すしかない」

「畜生」


 それができるなら苦労はしない。

 数百メートル間隔で相互支援が可能なようにして複数の機関銃が備え付けられた機関銃座が設けられているのだ。

 匍匐前進して機関銃座を潰そうと苦労しているが、匍匐前進するということは移動速度が低下する。

 迫撃砲や手榴弾すら目標とする機関銃座の近くの塹壕からは放たれてくる。


 海兵師団の薄い戦線は小型の野戦要塞と化していた。

 合計すればおそらく100挺は軽く超える機関銃があの戦線には備えられている。

 営口を露騎兵が襲撃したときは50挺余りの機関銃が迎撃したというが、その3倍はあるだろう。

 ということは海兵師団ではなく軍団規模の部隊が我々露第2軍の前面にいる。


 腰を据えて丸1日を準備に費やせれば、突破は可能かもしれないが、その間に日本軍の猛追撃が追い付いてしまい、我々は包囲殲滅されてしまう。

 露第2軍の兵力だけでは突破は困難だ。

 露第1軍と露第3軍はどうしている。

 焦慮する露第2軍の将兵は、露第1軍と露第3軍が奉天前面に止まっており、3月4日の夕刻まで動かなかったことを知り、何故に彼らは早く撤退を決断しなかったのか、と恨むことになった。


 3月4日早朝、2個師団を基幹とする露第2軍の攻撃が新台子に加えられたが、午前中の間に海兵師団の前に攻撃はとん挫した。

 日本第3軍と第4軍の攻撃を阻止しつつ、何とか抽出された2個師団が夕刻に新台子に駆け付けたが、夜襲を厭ったことから5日早朝まで攻撃を待つことになった。

 だが、その間にも日本第3軍と第4軍の追撃は続いている。

 こういった戦況の悪化は、露軍の兵の間でどんどん悪い噂となって広まって行った。


「クロパトキン将軍は我々を捨石としてハルピンまで既に撤退したらしい」

「新台子には日本軍3個師団以上が到着しており、我々の退路は完全に断たれている」

「露第1軍と露第3軍は、露第2軍の脱出支援のために見殺しにされた」


 真実が一部含まれているだけに、こういった悪い噂は全てが真実と思われやすい。

 特に奉天前面に捨石として取り残されたと思った露第1軍と露第3軍の兵の士気の低下は酷かった。

 さらに問題なのは、3月3日早朝から完全にハルピン方面からの補給が途絶したことだった。


 奉天にそれなりに物資は蓄積されていたから、露軍の兵士がすぐに飢えることは無い。

 だが、飢えの恐怖に兵士は敏感である。

 3月4日夕刻に露第1軍と露第3軍が撤退を決断したとき、多くの兵が浮足立って撤退することになった。

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