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第3章ー19

 3月3日の昼前からリネウィッチ将軍やビリデルリング将軍の焦燥は高まるばかりになった。

 こちらから日本軍陣地に逆襲の攻撃を掛けたいような戦況に満州第1軍や満州第3軍の前面はあるのに、露満州軍総司令官たるクロパトキン将軍からの連絡が完全に途絶えたからである。


「何故に撤退せねばならん。逆襲に転じて、この際に遼陽まで奪還すべきだ。日本軍は無理攻めで消耗しつつある。撤退命令を撤回し、総反攻に移るべきだ」

 両将軍共にそう考えていた。

 3月3日の深夜、そういった両将軍の思惑が完全にひっくり返る情報が2人の手元にようやく届いた。


「新台子に日本軍が到達。その規模は軍団規模以上。鉄嶺方面からの鉄道は完全に切断され、我が軍は両翼から包囲されつつあり」

 満州第2軍のカウリバルス将軍からの情報だった。


 カウリバルス将軍は指揮下の満州第2軍をクロパトキン将軍の戦線整理命令を受けたことから徐々に撤退させつつあった。

 そして、更なるクロパトキン将軍からの命令を待ったが、3月3日の早朝以降、露満州軍司令部と連絡が取れなくなってしまった。

 幾らなんでもおかしいと考えているところに、新台子を軍団規模の日本軍が占領しているとの情報が昼過ぎに将軍の手元に入ったのである。


 カウリバルス将軍は顔色が真っ青になった。

「いかん。この情報が本当なら、我が軍30万人以上が包囲殲滅される。新台子を奪還して、鉄嶺へと撤退する必要がある。クロパトキン将軍と連絡は取れないのか」

 将軍は急いで情報確認のための偵察を出すと共に、露満州軍総司令部と連絡を取ろうとした。

 奉天からの完全総退却となると露満州軍総司令部からの命令が必要になる。

 だが、その連絡が取れない。


「まさか、鉄嶺への移動途中で露満州軍総司令部が日本軍に襲われて消滅したのか?」

 カウリバルス将軍は逡巡の末に、独断で満州第1軍司令部や満州第3軍司令部へと連絡を取った。

 だが、この逡巡は高くついた。

 他の2人の将軍がこういった情報を知るのが、3月3日の深夜にまで遅れたからである。


「この情報は間違いないのか」

 満州第1軍司令部でも、満州第3軍司令部でも幕僚が大混乱になった。

 新台子が日本軍に占領され、露軍の補給路は完全に切断されたのだ。

 そして、露満州軍総司令部とは完全に連絡が取れないままにある。


 眼前の戦況が優勢にあると思っていただけにその反動から混乱がさらに大きくなっていった。

 リネウィッチ将軍やビリデルリング将軍は、司令部幕僚の混乱を見ながら苦悩した。

 独断で奉天から、更に鉄嶺への撤退を決断すべきか。

 大至急、決断すべき状況にあるのは間違いない。

 自分を犠牲にすれば、兵は救える。

 だが、自分は犠牲になりたくない。

 そして、上からの命令は無い。


 躊躇いの両将軍の決断は、3月4日の早朝に共に下った。

 カウリバルス将軍の満州第2軍が新台子を奪還することを期待し、我々は現在地を固守する。

 クロパトキン将軍を臆病将軍、撤退将軍と陰で非難してきた自分たちから撤退の言葉を言いだすことはできない。

 しかも、我々の方が兵力は優勢なのだ。

 両将軍は、カウリバルス将軍率いる満州第2軍の奮戦に全てを期待した。


 だが、カウリバルス将軍は今、撤退するしかないと判断していた。

 3月4日昼、満州第2軍が独断撤退を決断したという連絡が満州第1軍と満州第3軍の両司令部に入った。

 慌てて、両司令部から考え直すように連絡を取ったが、乃木第3軍の猛攻に苦悩している満州第2軍はその連絡を無視した。


 こうなっては是非もない。

 満州第1軍、満州第3軍も撤退を決断した。

 だが、それは3月4日の夕刻になった。

 この遅れは露軍の致命傷になった。

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