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第3章ー18

「何とかたどり着いたな。至急、砲撃準備を整え、兵を展開するように指示しろ」

 林忠崇提督の命令が響き渡った。

 海兵師団と秋山騎兵団は急行軍の末に、行軍に気づいた露軍の斥候を蹴散らしつつ、新台子へ3月3日の明け方にたどり着いていた。


 もちろん、兵は疲労困憊の極に達している。

 だが、この土地の価値は大きい。

 新台子に海兵師団と秋山騎兵団が展開することで、奉天からハルピンへと撤退しようとする露軍の退路を河川を活用して断つことができる。


 更にハルピンから奉天へ通じる鉄道が通った鉄橋を完全に落とすことで、奉天近辺に展開する露軍に退路を断たれたという情報が流れることになり、露軍の兵の心理に重大な影響を与えられると考えられていた。


「確かに兵の練度は後備兵に過ぎない。だが、若い兵が揃っている」

 柴五郎大佐は呟いた。

 柴大佐は急行軍を続けるうちに、林提督の賭けに気づいていた。


 現在、防御側が機関銃をそろえて歩兵が陣地に立て籠もってしまった場合、その陣地を攻撃側が突破することは極めて困難だ。

 重砲による支援が攻撃側にあっても防御側の対砲射撃でその支援は減殺されてしまう。

 では、どうするか。


 林提督が採用した方法は、急行軍により敵陣地を迂回することで、包囲されたと防御側に錯覚させて、防御陣地から歩兵を追い出すという方法だった。

 もちろん、この方法は成功の可能性が少ない。

 攻撃側の移動距離の方が大きい以上、防御側が容易に移動して攻撃を阻止できるのだ。


 だが、海兵師団に旅順要塞攻防戦の損害による補充兵が多いというのは露軍も把握している筈、だから老齢の後備兵が多数を占めると露軍は考えるだろう。

 だが、実際には若い20歳以下の兵士が志願することによって多数を占めているのが海兵師団の実態だった。

 だから、急行軍が可能であり、それによって露軍の意表をついて、この賭けが成功する可能性があると林提督は判断したのだった。


 そして、実際に成功しつつあった。

 新台子に海兵師団と秋山騎兵団は無事に展開した。

 後は、露軍の退路を断って、露軍を包囲殲滅すれば、奉天会戦は日本軍の大勝利に終わるのだ。

 柴大佐は、指揮下にある第3海兵連隊に露軍の退路を断つ準備を急がせた。

 他の海兵連隊も急いで同様の準備を整えようと懸命に努力していた。


 3月3日の明け方から昼が近づきつつある中、奉天からハルピン方面へと向かう列車が、海兵師団の砲撃の射程内に入りつつあった。

 海兵師団の露軍の退路を断つ準備は完全に整いつつあった。


「どうだ。あの列車を砲撃することは、露軍の退路が完全に断たれたと錯覚させる号砲になると参謀長は思わんか」

 林提督は海兵師団参謀長の内山小二郎少将に語りかけた。

「確かにいい的ですな」

 内山少将も同意した。


 列車の運転士は、海兵師団がここまでたどり着いているとは思ってもいないのだろう。

 速度を緩める気配もない。

「では、号砲を放ちたまえ」

「はっ」

 林提督の命令に内山少将も同意して、砲撃開始を命じた。


 列車は海兵師団の一斉砲撃の前に粉々になった。

 海兵師団は更に砲撃を加えた。

 列車に乗っていた露軍の兵はほぼ砲撃の前に殲滅された。

 これが、露軍にとって最大の災厄になった。


 多くの戦史家は、この砲撃によって、この列車に乗っていた露満州軍総司令官のクロパトキン将軍とその司令部幕僚全員は戦死したと考えている。

(公式には3月3日午前にクロパトキン将軍は奉天から鉄嶺に向かう途中で司令部幕僚全員と共に消息を完全に絶った。

 3月10日になってクロパロキン将軍と司令部幕僚全員は戦死したと推測して露陸軍省は公式発表した)


 奉天会戦の最終段階が始まった。

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