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第3章ー17

 人間はどうしても自分を基準にして物事を考えるという。

 自分にできないことは他人もできない、自分ができることは他人もできる、と考えて行動しがちになる。


 奉天会戦で日露両軍に起こったことは正にそれだった。

 日本軍は露軍も同様に考えて行動すると考えた。

 露軍も日本軍も同様に考えて行動すると考えた。

 日本軍の行動は後になってみれば笑い話で済むレベルで済んだが、露軍の行動は致命的な結果をもたらした。


 露満州軍総司令部は混乱しつつあった。

 大房身に現れた日本軍の先鋒部隊は奉天乃至そのすぐ北辺りを目指すと考えられていたが、その部隊は北へ向かったという。

 しかもその部隊は、露軍騎兵の偵察報告をそのまま信じるならば軍団規模、2個師団乃至3個師団にその兵力は達していた。

 どうにもその情報は信じられなかった。


 3月初頭の満州はまだまだ寒い。

 寒さに慣れている我々でさえ、そんなに早くは行動できない。

 しかも、偵察報告を信じるならば海兵隊が先鋒部隊の一角を占めているという。

 海兵隊は旅順要塞攻略戦で大損害を受け、後備兵がその多くを占めるはずである。

 練度の低い後備兵が現役兵ですら困難な強行軍が出来るはずが無かった。


「どう見ても誤報だ。挺進団の規模を見誤り、下馬した騎兵を歩兵と見誤ったに違いない。それほどの規模を誇る部隊ならば奉天を目指すか、そのすぐ北で我々を包囲しようとするはずだ」

 クロパトキン将軍はそのように周囲に語っていたという。

 実際、当時の作戦の常識からすればそうだった。


「ですが、挺進団がハルピンから奉天への鉄道を実際に破壊することに成功した場合、戦局に与える影響は大きいですし、万が一と言うこともあります。この際、総司令部を鉄嶺に一時、下げるべきでは」

 露満州軍総司令部の幕僚の1人がそう進言した。


「確かにそうだな」

 クロパトキン将軍もその考えには一理あると思えた。

「戦線を整理すると共に、我々、総司令部は鉄嶺へと移動しよう」

 クロパトキン将軍はそう決断した。


 クロパトキン将軍の命令は、リネウィッチ将軍率いる満州第1軍とビリデルリング将軍率いる満州第3軍から猛反発を受けた。

 なぜなら、その2つの軍は日本軍に対して優勢に戦いを進めていると判断していたからである。


 川村将軍率いる鴨緑江軍、奥将軍率いる第2軍は完全に進軍が止まっていた。

 黒木将軍率いる第1軍も進軍が止まりつつある状況だった。

(だが、実際には第1軍の主力は露軍の後方を更に迂回しようとしていてそれに成功しつつあった)


 2つの軍の奮戦がそれをもたらしていた。

 両将軍ともクロパトキン将軍の命令に対して直ちに反対の意見を具申した。

 だが、その意見が届く前にクロパトキン将軍は奉天を出発していた。

 そのために両将軍はその回答を待つことになり、露軍の行動は制約されることになった。


 だが、この時は両将軍共に奉天北方にいる日本軍は多くとも1個連隊の挺進団と判断していた。

 そのために余裕をもって両将軍は行動していた。

 奉天北方の日本軍が師団規模以上と分かっていたら、すぐに両将軍は撤退の行動を決断していたろう。


 カウリバルス将軍率いる満州第2軍のみ、クロパトキン将軍の命令を素直に受けた。

 野津将軍率いる第4軍の攻勢を警戒しつつ、乃木将軍の第3軍の攻撃をまともに受けている満州第2軍司令部はクロパトキン将軍の判断が妥当にしか思えなかった。


「乃木将軍率いる第3軍の主力がこちらに向かっているのは間違いない」

 カウリバルス将軍は断じた。

「日本軍は両翼からの包翼攻撃を狙っているのだ。速やかに後退して戦線を整理すべきだ」

 だが、その判断は既に遅きに失していた。 

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