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第3章ー13

 林忠崇中将率いる海兵師団と、秋山好古少将率いる秋山騎兵団(騎兵第1旅団と騎兵第2旅団、更に各師団付属の騎兵等を臨時に集合させて編制された部隊。なお、秋山騎兵団は正式名称ではなく、あくまでも通称だが陸軍の公式文書にも秋山騎兵団と記載されており、事実上、正式名称として扱われていた)は、遼河を左腕で掠めるかのような大迂回による急進軍を始めた。


 幾ら、露軍が30万以上を誇る大軍と言えど、奉天前面を固めるのが手一杯で、渾河より西には陣地線はできておらず、所々に抵抗拠点を設けるのみに止めていた。

 露軍の目論見としては、抵抗拠点で日本軍を食い止めている間に、後方の予備を差し向けて、日本軍の進軍を食い止めることになっていた。

 実際、抵抗拠点は街道の交差点等に設けられており、そこを潰さないと日本軍は補給が滞るので、通常の思考ならば、日本軍はそこで進軍を止め、抵抗拠点を潰そうとするはずだった。

 だが、海兵師団と秋山騎兵団は逆の発想をした。


「抵抗拠点と言うことは、露軍を我々はすり抜けようと思えば、すり抜けられるわけですな」

 進軍を始める前に、林中将は秋山少将に確認した。

「それは可能です。本当にすり抜けるのですか」

 秋山少将は、半分呆れたように答えた。

「そのつもりですが、何か問題が」


「補給はどうするのです。補給は必要不可欠です」

「賭けですが、分のある賭けをします」

 林中将は悪い笑みを浮かべた。

「抵抗拠点には、当然、有線通信網をつなげてあるはずですな」


「今時でしたら、当然でしょう」

 秋山少将は何を当たり前のことを言いだしたのだ、という顔をした。

「有線通信網を破壊され、後方に回り込まれ、包囲されたと判断した部隊はどうしますか」

「それは当然」


 秋山少将はそこで言葉を止めた。

 我々の後方には3個師団基幹の後続部隊がある。

 孤立した部隊は上級司令部の判断を仰げない。

 特に戦意が高い部隊なら抵抗するだろうが、多くの部隊は退却を決断するだろう。

 そして、退却を始めた部隊は、日本軍の補給の妨害より、自部隊の生存を優先するだろう。


「頭を殴られて、ふらふらになっては、手足はまともに戦えません。我々はそれを狙うのです。さすがに全部の抵抗拠点を無視はできないでしょうが、何か所かの抵抗拠点を破壊できれば、一部を破られた堤防が洪水を防げないように、我々の進軍を露軍は阻止できなくなります。そのためにも我々は進軍を急いで行い、鉄嶺への急進撃を図るのです」

 林中将は、秋山少将に示唆した。


 秋山騎兵団は、奉天会戦が始まる前に、複数の挺進団を放って、露軍の抵抗拠点に対する偵察に努め、少しでも抵抗拠点が弱そうなところを把握していた。

 林中将と秋山少将は相談して、弱そうな抵抗拠点を破壊して、進軍を行った。


 海兵師団と秋山騎兵団は全力で急進撃を図った。

 大迂回を行っている以上、進軍距離が長いという問題点が生じてしまう。

 それに海兵師団と秋山騎兵団は機動力があり、近接火力が他の部隊より高いとはいえ、重砲どころか野砲すらないという問題がある。

 下手に重装備の部隊に捕まっては、進軍が出来なくなる。

 急ぐしかなかった。


「側面を気にするな。敵に心配させておけ」

 林中将は言った。

 本音を言えば、自分も側面ががら空きなのが気にならないわけではない。

 自分たちが破壊せずに無視した露軍の抵抗拠点の多くがあくまでも日本軍の阻止を貫けるほど、戦意が高いのなら、自分たちが逆に包囲殲滅されかねない。


 だが、今の自分たちは賭けてみるしかない。

 そうしないと露軍の包囲殲滅はできない。

 海兵師団と秋山騎兵団は側面の危険を敢えて無視しての急進軍を断行していった。

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