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第1章ー7

 仏のデルカッセ外相は不機嫌極まりない日々を、ここ数日過ごす羽目になっていた。

 仏外務省の局長クラスは、皆、外相の不機嫌が速やかに収まるのを願っていたが、それは叶えられそうにない状況だった。

 なぜなら、外相が不機嫌なのは10年近く前の仏外務省の失策が原因だったからだ。


「全く先を読んで外交は行ってくれないと困る。1895年当時は妥当だったかもしれないが、今となっては害悪にしかなっていない」

 デルカッセ外相は何度目かの愚痴をこぼした。

 

 露仏同盟が締結された後で日清戦争は勃発した。

 露は日清戦争に介入を策したが、日本は巧みに介入を避けて日清戦争を終結させ、清国から台湾(と澎湖諸島)と賠償金を獲得した。

 遼東半島を獲得しようと日本が動いたら、露は介入しようと策していたが、遼東半島がいきなり講和条約から外された(少なくとも露にはそう見えた)ために介入のタイミングを逸したのである。


 一方、仏も日清戦争に介入できなかったことを後悔した。

 できることなら何れは獲得したいと考えていた台湾が日本によって奪われてしまったからである。

 そして、下関条約で独立国となったはずの朝鮮に日本は積極的に投資して、着々と日本の勢力下に置こうとしだした。


 これに露は反発をあらわにしたし、仏も露の同盟国であったことや台湾を奪われたことからくる憎悪から、1895年に、朝鮮で日露間に何か大問題が起こった際には、露仏同盟の秘密協定により露と仏は共同歩調を取ることが確約された。

 この時には、日英同盟は締結されていなかったし、仏では朝鮮は東アジアに詳しい人でなければ知らない小国に過ぎなかった。

 だが、1904年の現在は全く違った。


「英国が栄光ある孤立を捨てて日本と同盟を結ぶとはな。朝鮮も義和団事件で我が国等と共同歩調を取って清国に派兵したことから、すっかり有名になってしまった。そして、朝鮮も露仏同盟の秘密協定に感づいたらしい。自国の運命を勝手に他国が操ろうとしたら反発するのは当然だが、こんな意趣返しをされるとは」

 デルカッセ外相は頭を抱え込んだ。


 露仏同盟に従えば、朝鮮が日本と共に露に宣戦を布告した場合、仏は当然、日朝に宣戦を布告する義務がある。

 だが、そんなことをしたら、当然、英国は日英同盟に従い、露仏に宣戦を布告するだろう。

 そもそも露仏同盟の主な仮想敵国は独だが、一応、英国も締結当初から仮想敵国に入ってはいる。

 だが、現在の状況で英日朝対仏露の世界大戦が勃発したら、独が笑うだけだ。

 対独強硬論者のデルカッセ外相にとっては我慢ならない話だった。


「有能な敵よりも無能な味方が困るといったのはナポレオン1世だったかな。露の駐朝公使が我が国の背後には同盟国の仏もおりますぞ、と日頃から朝鮮政府を恫喝していては、秘密協定にした意味がない。朝鮮政府が意趣返しを策すのも当然か」

 デルカッセ外相は、つぶやくことで自分の考えをまとめた。


「仕方ない。駐仏英国大使を呼んで、善後策を協議するか。小国の朝鮮に振り回されるのは業腹だが、朝鮮政府に参戦を思いとどまってもらうしかない」

 デルカッセ外相は腹をくくった。

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