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第3章ー9

 奉天会戦を前にした日本軍の作戦会議です。

「おう、陸軍の飯を麦飯にした戦犯が来たな。おかげで陸軍の飯が白米から麦飯になり、日清戦争のときと比較すると飯がまずくなって仕方ない」

 児玉源太郎満州軍総参謀長が、会議に出席するために来訪した林忠崇海兵師団長に軽口を叩いた。


「それは、山県有朋参謀総長のせいでは」

 林海兵師団長は抗議した。

「わし以外の陸軍軍人全員も、わしに同意すると思うぞ」

 児玉総参謀長の軽口は続いた。


 林師団長に随伴していた土方勇志少佐が周囲を見渡すと、陸軍軍人の皆が同意する素振りを示している。

 飯の恨みは怖ろしい、四面楚歌とはこのことか、土方少佐は頭を振った。

 だが、陸軍軍人全員の目は笑っている。

 脚気が日露戦争でほぼ完全に撲滅されている。

 陸軍上層部にとって日清戦争時は夢だったことが、日露戦争では現実になったのだ。

 この影響は地味だが大きいものだった。


 日清戦争後の台湾出兵で、海兵隊は脚気を完全に撲滅していた一方、陸軍では脚気が蔓延した。

 戯れ歌で

「陸軍に入って白米食って脚気で死ぬのがいいか、海兵隊に入って麦飯食って故郷に凱旋するのがいいか」

 と日本中で謳われる有様を呈したのである。

(本多幸七郎海兵本部長が海兵隊志願者を増やすために流行らせたという俗説がある。

 ちなみに本多海兵本部長は否定している)


 山県陸相(当時)は明治天皇から直接の叱責を受ける羽目になり、石黒医務局長らは事実上免職処分を受けた。

 海兵隊の麦飯と副食充実という脚気対策は、山県陸相によって否応なしに陸軍に導入された。

(何しろ天皇陛下からの勅命なのだ)


 そして、日露戦争でこの脚気対策は功を十二分に奏した。

 陸軍の脚気患者はほぼいなくなっていた。

 このために奉天会戦を目前にして、日本満州軍は兵の機動力に(本来の史実よりも)自信を持って作戦を立てることが出来たのである。


 今日、2月10日は、各軍司令官と参謀長、各師団長が集まって、日本満州軍の奉天会戦の作戦計画を検討する会議が開かれることになっていた。

 土方少佐は林海兵師団長の事実上の副官として、会議に出席していた。

 周囲を土方少佐が見渡していると第3軍参謀長に抜擢された一戸兵衛少将が目に入った。

 一戸少将は海兵隊なのに第3軍参謀長になって居心地が悪いらしく、微妙な表情を浮かべている。


 土方少佐は何となく一戸少将に親近感を覚えた。

 土方少佐の傍にいる林海兵師団長は同じような状況なのに平然としている。

 西南戦争以来の経験の差か、土方少佐は自分で自分を納得させた。


 児玉総参謀長が奉天会戦の作戦計画案の説明を始めた。

 大雑把に土方少佐が理解するところでは、まず日本軍の最右翼から鴨緑江軍が攻撃を加える。

 そして、右翼に露軍の注意を引きつけて、右から左へと第1軍、第4軍、第2軍、第3軍が並び、露軍に攻撃を加えていくというものだった。


 正面からも側面からも露軍に攻撃を加える。

 全軍が轡を並べて露軍に攻撃を加えるというのが、基本的な作戦計画だった。

 典型的な包翼戦術だな、土方少佐は内心で思った。

 露軍を包囲殲滅するにはこれしかないだろう、土方少佐は続けて思った。

 その時、異論を述べる声が上がった。


「いや、その作戦計画には異議があります」

 出席者全員が、発言者に注目した。

 発言したのは、林海兵師団長だった。


「露軍の陣地は攻撃せずに迂回すべきです。露軍の陣地を迂回して後方から露軍を攻めましょう。露軍陣地に対する直接攻撃は損害が多く出過ぎてうまくいかないでしょう」

 林海兵師団長は続けて言った。

 長くなったので、次話に続きます。

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