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第3章ー5

 ミシチェンコ将軍は本来からいえば凡将ではない。

 むしろ、有能な将軍だった。

 だからこそ却って自らの思考の罠にはまってしまった。


「海兵隊は所詮は海軍だ。海軍が陸軍より優秀な陸戦の装備を持つはずがない」

 営口襲撃前にミシチェンコ将軍は幕僚に対してそう語っていたという。

 だが、日本の海兵隊は違った。

 彼らは将軍の親衛隊の末裔だったのだ。


 フランス陸軍参謀総長を務めたブリュネ将軍は、ミシチェンコ将軍の営口襲撃の結末を聞いた際に取材に来た新聞記者に次のように述べた。

「ミシチェンコ将軍は歴史を知ってから営口を襲撃すべきだった。ナポレオン1世の老親衛隊が準備万端待ち構えているようなものだと知っていたら、ミシチェンコ将軍は襲撃を断念したのではないか。海兵隊の兵力の方が露軍の騎兵よりそもそも多かったのだから」


 ミシチェンコ将軍は、部下の騎兵に営口を偵察させた。

 林忠崇提督は、海兵隊に露騎兵の偵察に対する応射を基本的に厳禁した。

 余りにも接近してきた露騎兵に対して、熟練した古参兵の狙撃のみを許した。

 そのために接近すると確実に射殺されることが分かった露騎兵は、遠くから海兵隊の陣地を望見するだけになり、応急陣地を築いていることは分かったものの詳細を掴むことはできなかった。


 ミシチェンコ将軍は苛立ったが、これ以上の事は攻撃を掛けないと分からない。

 ミシチェンコ将軍は配下の砲兵に海兵隊に対する砲撃を命じた。

 だが、露軍の砲兵は騎兵の行動に随伴するために重砲はなく、間接射撃すら困難な騎兵の行動に随伴可能な山砲しかなかった。


 このために海兵隊も機動性を重視した事情から山砲しかなかったものの、単純に砲数(日本軍は48門、露軍は22門)の関係から、日本軍の方が砲撃戦では優勢に立った。

 ミシチェンコ将軍は更に苛立つ羽目になった。

「止むを得んな。もう少し敵情を把握したかったが、騎兵を突撃させよう」

 ミシチェンコ将軍は遂に決断した。


 ミシチェンコ将軍の配下にある騎兵の2割、15個中隊が突撃準備を整えた。

 地面は完全に平坦であり、視界も開け、騎兵突撃には最適な状況だった。

 これ以上、何を望めと言うのか、突撃に参加する露騎兵の多くがそう思っていた。


「突撃開始」

 各中隊長が次々と号令をかけ、各騎兵中隊が突撃を開始する。

 日本軍の応急陣地からは応射の気配すらない。

「勝った」

 突撃に参加した多くの騎兵がそう思いながら駆けた。


「もう少し引きつけろ。よしよし、今だ。射撃開始」

 日本軍の機関銃座から露騎兵の先頭が100メートル以内に接近したのをきっかけに、その機関銃座からの一斉射撃が始まった。

 機関銃座には3挺乃至4挺の機関銃が備え付けられている。

 仮に1挺が射撃後にトラブルになっても他の機関銃でカバーできる。


 更に旅順戦の経験から緊急に装備した迫撃砲の砲撃が始まり、手すきの海兵は手榴弾を投げて支援した。

 日本軍の陣地は、露騎兵にとって地獄の釜の蓋が一斉に開いたような惨状を瞬時に引き起こした。

「幾ら露騎兵が俊足でも、100メートルを5秒で駆け抜けることはできん。そして、5秒あれば数発の機関銃弾を先頭の馬体に食らう。そして転倒した馬体によって、後続の騎兵は更に転倒して地獄に落ちる。単純な算術の問題だ」

 林提督は冷然と述べた。


「そんな馬鹿な」

 ミシチェンコ将軍は真っ青になった。

 目の前では露騎兵が相次いで虐殺されていく。

 世界であんなに火力を充実させている陸軍があるだろうか。


「いや、運悪く、機関銃座の正面に突っ込んだだけだ。側面に回れば何とかなる」

 ミシチェンコ将軍は自らを鼓舞した。

 だが、それが更なる悲劇を生むことになる。

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