第3章ー4
ミシチェンコ騎兵軍が営口に接近していた時、林忠崇提督率いる海兵師団も営口で揚陸を無事に完了していた。
「やれやれだな」
林提督は営口に海兵師団の上陸を無事に完了させることが出来て、ほっとしていた。
新兵揃いの海兵師団は今や後備旅団2個程度の実力と林提督は見ている。
実際には林提督の評価がきつすぎるのだが、これまで精鋭部隊ばかり率いてきた林提督にしてみれば、今の海兵師団の実力は寒心に堪えない代物だった。
「林提督、どうも露軍の騎兵の大部隊が営口に接近しつつあるようです」
土方勇志少佐が、大山満州軍総司令官からの一報を林提督に伝えたのは、海兵師団が営口から出発しようとする直前だった。
ミシチェンコ騎兵軍は1万人と規模が大きいうえに、砲兵も伴うために隠密行動は不可能だった。
出撃してから、あっという間に日本軍に動向を掴まれてしまっていた。
「おもしろい。露軍の騎兵を叩きのめしてくれる」
林提督は笑った。
林提督は土方少佐に、露軍の騎兵を迎撃する計画を立てるために、速やかに師団司令部の参謀や連隊長を集めて会議を開くことを指示した。
「どうだ。露騎兵が来襲する前に陣地を築くことは可能か」
林提督は会議の席で工兵の専門家である鈴木貫太郎中佐に確認した。
鈴木中佐は頭を振った。
「できなくはないですが、応急陣地が精々です。余りにも冷えすぎています」
実際、1月の満州は厳寒に襲われる。
主要河川は凍結してしまい、最低気温は時として氷点下20度以下に達する。
地面は堅く凍結してしまい、ツルハシを振るっても1日に10センチも掘れない。
「止むを得んな。応急陣地を至急作るか。新兵を安心させる必要がある」
林提督は鈴木中佐の返答を受けて述べた。
だが、その表情は明るさに満ちている。
岸三郎中佐は林提督の明るさに懸念を覚えて、敢えて会議の席で発言した。
「露騎兵約1万が接近しつつあるのに我が海兵師団だけで対処可能でしょうか」
「半分でお釣りが来る。現状の海兵師団なら、露騎兵約1万の半分は地獄に赴くことになる」
林提督は述べた。
会議に参加している土方少佐らは疑問を覚えた。
騎兵突撃を応急陣地で阻止できるのか。
騎兵突撃を阻止するには練度の高い歩兵か、十分な陣地が必要なはずだ。
今の海兵隊の練度は高いとは言えないし、十分な陣地を築くこともできない。
「速やかに機関銃を活用した応急陣地を築け。何のために50挺以上もの機関銃を装備しているのだ。しかも各機関銃には最低1000発の銃弾がある。多くの露騎兵が地獄に赴くことになるだろう」
林提督は断言した。
会議の参加者の多くは疑問を覚えたが、林提督の命令である。
速やかに準備に掛かった。
同じ頃、ミシチェンコ将軍も幕僚たちと会議を開いていた。
「ほう、営口を守るのは海兵師団か」
偵察の結果を聞いたミシチェンコ将軍は笑いを浮かべた。
「旅順要塞攻防戦で最大の損害を被り、海兵師団は新兵ばかりになったと聞いている。かつてのサムライも新兵ばかりではどうにもなるまい」
幕僚たちも次々とミシチェンコ将軍に同意の発言をした。
「我々の攻撃で、営口は焼野原になり、海兵師団は壊滅するだろう」
ミシチェンコ将軍は断言して会議を終えた。
1月15日の朝になった。
海兵師団は何とか応急陣地を築き、ミシチェンコ騎兵軍の迎撃準備を整えていた。
一方、露軍も攻撃準備を完了した。
両軍の激突の時は迫った。
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